大津さまの願いも虚しく天武上皇は朱鳥元年9月9日御隠れになられた。
大津さまから「譲位したい。山辺は許してくれるか。」とお尋ねくださった。
「私に許すとか…ございません。大津さまは、天皇を誰にとお考えでありますか。」と私が申すと
「本当は高市皇子が適任だが、それでは我と同じだ。国がまた二つに別れ内戦になる。草壁なら子もいるし野心もある。先の天皇、皇后陛下の第一皇子という自負なら誰にも負けぬだろう。皇太后や不比等がいれば大丈夫だ。」と大津さまは仰言った。
「内戦…」
「そなたの父天智天皇、我の父天武天皇が争ったようにな…山辺…我らに子はいない。幸いなことに。
我が天皇を続けてもし和子が生まれ我が亡くなれば…また争いが起こると思わぬか。内戦で苦しむのは天皇家と宮家だけではない、犠牲になるのは民だ。ならば諦観し我は譲位し、草壁が天皇になればいい。争いは起きない。」
「皇太后さまは何と…」
「やんわりと反対なされた。山辺…本当に許してほしいのはこれからだ。」と大津さまは私の瞳を捉え仰言った。
「伊勢の姉上は、我とは異母姉弟と皇太后が教えてくれた。すまぬ、すまない…我はずっと姉上を…異母姉とわかったのなら…もう…もう我は…」
「わかっておりました。大津さま。」と私は思わず申し上げた。
「山辺…」
「さすがに斎宮さまが異母姉上とは存じませんでした。ただ私は大津さまと一緒に過ごさせて頂いた…御心を頂いた。それで充分なのでございます。それは大津さまにとって姉上さまの代わりなど、私は…なれはしないともう随分前からわかっていました。」
「山辺をどうでもいいと我は思ってはおらぬ。」
「わかっています。大津さまは、夫として私を大切にしてくださいました。大津さまの御心に甘え過ぎておりました。大津さま…大津さまの行きたい場所にどうぞ…」
「山辺…山辺はどうするのだ。」
「近江に帰るのは考えていませんが…ここで考えてもよろしいでしょうか…」
「もちろんだ。山辺の屋敷でもあるのだから。」
「有り難く…」と言い最後大津さまの胸で少し涙してしまった。
しばらくして、大津さまは伊勢に旅立たれた。道作だけを伴って。
もうこの飛鳥浄御原にはお戻りになられないのかもしれない。
皇太后には政を皇太后に任せるだけと言い残されて…
大津さまから「譲位したい。山辺は許してくれるか。」とお尋ねくださった。
「私に許すとか…ございません。大津さまは、天皇を誰にとお考えでありますか。」と私が申すと
「本当は高市皇子が適任だが、それでは我と同じだ。国がまた二つに別れ内戦になる。草壁なら子もいるし野心もある。先の天皇、皇后陛下の第一皇子という自負なら誰にも負けぬだろう。皇太后や不比等がいれば大丈夫だ。」と大津さまは仰言った。
「内戦…」
「そなたの父天智天皇、我の父天武天皇が争ったようにな…山辺…我らに子はいない。幸いなことに。
我が天皇を続けてもし和子が生まれ我が亡くなれば…また争いが起こると思わぬか。内戦で苦しむのは天皇家と宮家だけではない、犠牲になるのは民だ。ならば諦観し我は譲位し、草壁が天皇になればいい。争いは起きない。」
「皇太后さまは何と…」
「やんわりと反対なされた。山辺…本当に許してほしいのはこれからだ。」と大津さまは私の瞳を捉え仰言った。
「伊勢の姉上は、我とは異母姉弟と皇太后が教えてくれた。すまぬ、すまない…我はずっと姉上を…異母姉とわかったのなら…もう…もう我は…」
「わかっておりました。大津さま。」と私は思わず申し上げた。
「山辺…」
「さすがに斎宮さまが異母姉上とは存じませんでした。ただ私は大津さまと一緒に過ごさせて頂いた…御心を頂いた。それで充分なのでございます。それは大津さまにとって姉上さまの代わりなど、私は…なれはしないともう随分前からわかっていました。」
「山辺をどうでもいいと我は思ってはおらぬ。」
「わかっています。大津さまは、夫として私を大切にしてくださいました。大津さまの御心に甘え過ぎておりました。大津さま…大津さまの行きたい場所にどうぞ…」
「山辺…山辺はどうするのだ。」
「近江に帰るのは考えていませんが…ここで考えてもよろしいでしょうか…」
「もちろんだ。山辺の屋敷でもあるのだから。」
「有り難く…」と言い最後大津さまの胸で少し涙してしまった。
しばらくして、大津さまは伊勢に旅立たれた。道作だけを伴って。
もうこの飛鳥浄御原にはお戻りになられないのかもしれない。
皇太后には政を皇太后に任せるだけと言い残されて…