たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子 山辺皇女30

2019-09-25 20:25:48 | 日記
川嶋の邸では「兄上…私だけに感じるような…子がいると薬師が…」と私は心許無く川嶋の兄上に伝えた。

大津さまが莫逆の友と言われた川嶋の兄上。

「まことか。」川嶋の兄上は驚き「それなら譲位は必要ない。」と申された。

「しかし…もしそうだとしても皇女かもしれませぬ。」

「その時は仲立ちの天皇でもかまわぬではないか。皇子やもしれぬ。大津に伝達を。」と言い邸に仕えしものをを呼ばれた。

「大津に伝言を。」と言われた川嶋の兄上の言葉に心が高鳴った。

大津さまが、この飛鳥浄御原に戻って来られる…いままでもう伊勢からお戻りにならない…そう思いお見送りしたというのに私はやはりお会いしたい。もう一度あの誰もが魅了される御姿を見たい。

我欲…このお腹に宿し和子を理由に私は大津さまに会いたがっている。

卑怯であろうか。しかし会いたい…その気持ちが強くなっている。

不安だった。寂しかったのは事実。

大津さまは、川嶋の兄上が申されるように譲位を諦め私の元に…

しかし、斎宮の大伯の姉上さまは如何に思われるであろう。

大津さまが伊勢に下られたのは、斎宮さまが世の中で大津さまの同母姉弟と信じられ奇異な目から御守りしたいというお気持ちも強い。

しばらくして川嶋の兄上が「皇太后がお倒れになったらしく誰ともお会いにならない。草壁の嶋の邸で看病を受けておられるそうだ。」と訝しげな表情をされた。

「このことは大津さまのお耳に。」

「あぁ、勿論だ。ただ誰にも会えないほど重い病いか。もしかしたら草壁は大津や皇太后のおられぬいま勝手に皇位継承を。まさかとは思うが…いや後ろにあの不比等がいるのじゃ。大津がこの飛鳥浄御原に戻る際狙われるやもしれぬ。」と川嶋の兄上は舎人を呼び奥の部屋に行き何やら話し込んでおられた。

その時、この邸の仕えし者が兄上の部屋の間を通り過ぎた。

不思議に思ったがことは急を要するらしいのであまり気には止めなかった。

今になっては悔やまれるの一言だけれども。

兄は東国の豪族達に草壁皇子が皇位簒奪を狙って不比等が蠢いておる。何が何でも阻止するよう、不比等を討つべしと檄を飛ばしたらしい。

このことが草壁皇子や不比等にいいように利用され大津さまは追い込まれていく。

そんなことは露にも思わず、私は大津さまが無事に伊勢からお戻りになることを祈っていたわ。