下記の記事は日刊ゲンダイデジタルからの借用(コピー)です
Nさん(34歳・女性)は4歳の娘、ゆいちゃんと2人で暮らしています。毎朝、保育園にゆいちゃんを預けてから、近所のスーパーで働いていました。
3カ月前から時々不正出血があり、B病院の婦人科を受診しました。すると、担当医から「子宮頚がん」と告げられ、手術を勧められたのです。
「え! 入院ですか……」
Nさんは絶句しました。1週間後の外来診療の際、返事をすることにして、承諾書などの書類をもらって帰ることにしました。
診察室を出たNさんの頭の中は、自分の病気のことよりも「入院中に娘をどうするか」が占めていました。病院を後にして、お迎えのため保育園に向かう途中では、「仕事を休んだら収入がなくなる。治療費はどれくらいかかるのだろう……」といった不安が頭に浮かんできます。
保育園に着くと、ゆいちゃんが走ってきて「ママー」と言いながらスカートに抱きついてきました。その瞬間、ホッと緊張が解けたのか、どっと涙があふれてきました。
自宅アパートに帰ってきてから、「それにしても、これからのことを考えるための情報が少な過ぎる」と思いました。娘をどこに預けるのか。手術してどのくらい入院期間が必要なのか。退院してからはどうなるのか。いつからまた働けるのか。完治するのか。今の仕事は辞めなければならないのか……。たくさんの疑問があります。
とりあえず、B病院のホームページをネットで調べてみました。すると、「がん相談支援センター」という窓口が設置されていることがわかりました。そこには看護師、医療ソーシャルワーカーなどの専門相談員がいて、がんに関する治療法などの一般的な情報提供、療養生活、就労に関する質問や相談に、対面や電話で対応してくれると書かれてあります。
さっそく、翌朝に電話をかけてみました。Fさんという女性が対応してくれて、2日後の夕方4時に面談に行く予約を取りました。
Nさんは頭に浮かんだ知りたいこと、相談したいことをメモにまとめて面談に出向きましたが、そのメモ書きの項目ごとに、Fさんは整理しながら答えてくれました。
Nさんの病気について次回の診察時に担当医に質問する項目をはじめ、医療費に関して差し当たり準備する金額や、高額療養費制度、高額療養費貸付制度などの説明も受けました。
そして何よりも気がかりであるゆいちゃんのことについては、入院中に自治体が指定する児童福祉施設のショートステイ利用が可能とのことで、自治体のファミリーサポートセンターに電話して相談することにしました。それでようやくNさんは少しホッとして帰ることができたのです。
夜になって、秋田の田舎でひとり暮らしをしている父に電話をかけ事情を報告しました。入院する時は上京してくれるとの返事でした。父は病気の説明を十分に聞かないうちに、「ゆいちゃんと電話を代わってくれ」と言います。娘が手にした受話器の向こう側からは、「しばらくはジージと一緒に暮らそうね」と、何だか少しうれしそうな声が聞こえてきました。
がんと診断された直後から、あるいはその前から、患者とその家族は大きな不安を抱えます。その中で、治療法の選択や場合によっては医療機関の選択をしなければなりません。
がんという病気のことだけではなく、仕事や生活に関してもいろいろな問題に直面します。
医療機関は、患者が的確に対応できるよう、まずはがんに関する正しい情報の提供が必要です。患者や家族がそれぞれのニーズに合った相談窓口に速やかにつながり、不安や悩みが軽減、解消されること。正しい情報提供や患者及び家族への就労支援などにより、社会で自分らしく生活を送ってもらえることを目指す――そのために「がん相談支援センター」があるのです。
がん拠点病院には、玄関の近くに「がん相談支援センター」の看板が設置されているのですが、訪れる方はそれほど多くはないようです。悩み、不安、疑問があれば、遠慮なく利用されるのがいいと思います。他の病院にかかっている患者や家族でも大丈夫です。
佐々木常雄
東京都立駒込病院名誉院長
東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。
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