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スマートフォンが手放せない、ついついゲームをしてしまう、という人は多いだろう。大人の真似をして子どもも使いたがるが、大人と同じように使わせて良いものなのだろうか?『読書をする子は○○がすごい』(日経プレミアシリーズ)の著者・榎本博明氏は、スマホやゲームが子どもの勉強や知的発達に与える影響に警鐘を鳴らす。
ゲーム依存は脳にどんな影響を与えるか
子どもたちの知的発達にかかわる問題として、ゲームが取り沙汰されることが多い。電車に乗っていると、スマホでゲームに熱中している人をよく見かける。それも、子どもではなく大人を見かけることも多い。子ども時代、あるいは若い頃から習慣になっているのかもしれない。ゲームには、神経伝達物質ドーパミンを放出させ脳を興奮させる効果があるため、中毒性が高く、依存症を引き起こしやすいと言われる。
実際、ゲーム依存で治療を受ける者も非常に多くなっており、2018年にWHOがゲーム依存を治療が必要な精神疾患と認定し、ゲーム障害として国際疾病分類に追加した。大人も依存症に陥るほどなのだから、まだ自己コントロール機能を担う脳の部位の発達途上にある子どもが依存症に陥るリスクは非常に大きい。
10歳から17歳の青少年を対象に内閣府が2019年に実施した「青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、小学生の81.7%、中学生の76.4%、高校生の78.7%が、スマホやタブレットなどでゲームをしている。つまり、青少年の約8割がゲームをしている。もしゲームが知的発達を阻害するとしたら、これは無関心ではいられないはずだ。
ゲーム依存というほどでなくても、ゲームをすることが脳の発達に悪影響をもたらすことは、しばしば指摘されている。そうした情報が広まったせいか、子どもの将来を考えてゲームやインターネットの利用を制限する親が多くなっており、8割の親が何らかの制限をしているといった調査データもあるが、ゲームをやりたがる子どもとのやりとりが面倒で、つい根負けしてしまう親もいる。
では、ゲームは脳の発達にとってどれくらい有害なのだろうか。
ゲーム後30分は脳が働かない状態に
脳科学的手法で認知機能の発達を研究している川島隆太と横田晋務たちの研究グループは、5歳から18歳の子どもや若者を対象に、3年間の間隔を空けて脳の画像を撮影し、知能も測定して、ゲームをする時間が脳の形態や認知機能に与える影響について検討している。
その結果、ゲームをする時間が長いほど、語彙力や言語的推理力に関連する言語性知能が低いことが明らかになった。
また、驚くべきことに、長時間ゲームをする子どもの脳は、脳内の各組織の発達に遅れがみられることがわかった。脳画像からは、記憶や自己コントロール、やる気などを司る脳の領域における細胞の密度が低く、発達が阻害されていることが明らかになった。
さらには、ゲームで長時間遊んだ後の30分~1時間ほどは、前頭前野が十分働かない状態にあり、その状態で本を読んでも理解力が低下してしまうということを示すデータも報告されている。ゲーム中には、物事を考えたり自分の行動をコントロールしたりするのに重要な役割を担う前頭前野の血流量が少なくなり、機能が低下してしまうのだろうという。
読書によって語彙力や読解力が高まり知的発達が促進されるということや、読書することによって神経繊維の発達や言語性知能の向上がみられることが実証されているものの、ゲームを長時間してしまうと、その後に読書をしても、その効果が減ってしまうというのである。
このように、ゲームが知的発達を阻害することが、脳画像によっても実証されているのである。言語性知能が低くなり、記憶、自己コントロール、やる気などと関係する脳領域の発達に遅れがみられるのでは、学習がスムーズに進むとは思えない。
中高生のスマホ依存・ネット依存が進んでいる
厚生労働省の研究班が2012年に中高生を対象に実施した調査では、ネット依存を強く疑われる者が中学生6.0%、高校生9.4%であり、合わせて52万人と推定された。それでも相当高い数値となり注目されたものだが、それから5年後の2017年に実施された調査では、中学生12.4%、高校生16.0%であり、93万人と推定された。5年間で、ネット依存を強く疑われる中高生が8割近くも増えているのである。
ネット依存にはゲームをする者が多く含まれていると思われるが、ゲームばかりでなくスマホをいじること自体の弊害についても、世の親は耳にする機会が多いことと思う。
先ほどの川島と横田の研究グループは、小学校5年生~中学校3年生を対象に、スマホの使用時間と学業成績の関係についての調査を行っている。
その結果、スマホの使用時間が長いほど成績が悪いことが判明した。恐るべきことには、1日2時間以上勉強していても、スマホ使用が4時間以上になると、スマホをやらないけれども勉強時間が30分未満の子より成績が悪いのだ。
ここからわかるのは、いくら勉強しても、スマホをしょっちゅういじっていると、それが帳消しになってしまうということである。ちゃんと長時間勉強しているから大丈夫と安心し、スマホ使用を容認していると、取り返しのつかないことになりかねない。
スマホ依存で1日2時間の勉強がムダになるときも
では、なぜスマホを長時間使うと勉強した効果がなくなってしまうのか。
第一に、すでに説明したように、ゲームをすることにより脳の発達上の問題が生じていることが関係していると考えられる。ゲームで長時間遊んだ後の30分~1時間ほどは、前頭前野が十分働かない状態にあり、その状態で本を読んでも理解力が低下してしまうことがデータによって示されている。ゆえに、勉強をしても頭に入らない。
第二に、ゲームだけでなく、LINEなどの通信アプリの問題もある。川島・横田たちは、同じ調査を1年後にも行い、データを比較しているが、その結果、LINEなどの通信アプリをしていると成績に悪影響が出ることがわかったのだ。
その理由として、LINE等をやっている子は、勉強しようと机に向かっても、頻繁にメッセージが来てしまうため、勉強に対する集中力が切れてしまうこと、さらには相手から返事が来ないと、なぜ来ないのかが気になってしまい集中力がなくなることがあげられている。
『スマホ脳』の怖さ
最近は、小さい子にスマホをいじらせている親をよく見かける。だが、スマホやタブレットの害は、心理学者や脳科学者ばかりでなく、IT企業のトップや著名な技術者も認識しているのだ。『スマホ脳』(新潮新書)によると、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、iPadを自分の子どものそばに置くことすらしなかったそうである。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツも、自分の子どもには14歳になるまでスマホを持たせなかったという。iPodやiPhoneの開発に携わったアップル幹部のトニー・ファデルは、自分たちはいったい何というものをつくってしまったのだろうと、夜中に冷や汗をびっしょりかいて目を覚ますことがあるという。
スマホやタブレットには害があるだけでなく常習性がある。プログラミング教育を文科省が推奨しているため、タブレットやスマホに慣れさせておくのもよいだろうと思う親も少なくないのだろうが、子どもの将来を考えるなら、親自身が科学的知見を踏まえてしっかり考えて、守ってあげる必要があるだろう。
榎本博明:心理学博士、MP人間科学研究所代表
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