下記の記事はプレジデントオンラインからの借用(コピー)です
患者数が2100万人を超えて糖尿病以上に多くなっている「新・国民病」がある。「慢性腎臓病(CKD)」だ。発症すると様々な病気の死亡率が平均4倍に上昇し、新型コロナをはじめウイルス感染症の悪化リスクも高まる。一度人工透析になれば、一生やめられない。「実は、人間ドックや健康診断では予兆を捉えることができないのです。働き盛り世代は一刻も早く対策が必要」と、20万人の患者を診た牧田善二医師が警鐘を鳴らす──。
※本稿は、牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「プロテインを飲むと腎臓が悪くなる」は本当か?
一般の人が「良いつもり」で積極的に摂取しているものの中には、腎臓を悪くするものがあります。その代表格が「プロテイン」です。
私は、プロテインについて強い危機感を持っており、あちこちで繰り返し発信しています。というのも、多くの人が「タンパク質をたくさん摂ることは健康に良い」と信じ、しかも「プロテインでタンパク質を摂ればより効率的だし、筋力の低下も抑えられる」と、積極的に摂取しているからです。
かつては、ボディビルダーなど一部の人が用いていたプロテインは、今では誰でも簡単に手に入るようになりました。溶かして飲むパウダータイプに限らず、棒状のバーやゼリーなど、より手軽に摂取できる形になってコンビニエンスストアでも売られています。それを食事代わりに口にしている人もいます。
こうした状況にあって、私がその危険性を説くと、疑問を呈ていされたり、強く反発されることもあります。
「牧田さんがすすめる糖質制限を行えば、タンパク質が多くなるのに、どうしてプロテインはダメなの?」
「原料は牛乳や大豆など天然のもので、それを摂るのがなんで良くないのだ!」
人工的なタンパク質が腎臓を悪くする
まず知っておいていただきたいのは、私たちが食事の肉や魚、豆腐などから摂取するタンパク質(=プロテイン)は極めてわずかだということです。
国の定めた1日の推奨摂取量は、男性で60グラム、女性で50グラムとされています。しかも、これでも必要量より10グラム多く設定されています。一般の人が必要とするタンパク質はそもそも少なく、運動したからといって、あえて「補充する」必要などありません。
以下、3つのことを明言しておきます。
①筋トレをしてもタンパク質を摂取する必要はありません。
②タンパク質を摂取しても筋肉はつかないし、運動のパフォーマンスも上がりません。
③タンパク質を摂りすぎることで腎臓を悪くします。
とくに、自然の食べ物からではなく、人工的につくられた粉末やゼリー、液状のタンパク質(プロテイン)、アミノ酸は避けたほうがいいのです。たとえ、それが牛乳や大豆からつくられたものでも、同じく腎臓を悪くします。
実際に、私のクリニックでも、腎臓病のリスクをはかることができる検査である尿アルブミン検査を行い、その値がいきなり上がった患者さんに話を聞くと、「スポーツクラブですすめられたプロテインを飲み始めた」というケースがありました。すぐにやめてもらうと、また元に戻ってほっとしましたが、飲み続けていたらと思うとぞっとします。
「運動したらタンパク質」は致命的な間違い
私たち医師が学生時代に必ず習う科目に「生化学」があります。化学式をいじくり回す退屈な内容であるため、多くの医学生から嫌われています。
ところが、私は生化学が大好き。今も『リッピンコットシリーズ イラストレイテッド生化学』などの専門書を愛読しています。
それら生化学の教科書に書かれていることを読めば、不自然なタンパク質を摂ることでどういうリスクが生じるか明確にわかります。ちょっと専門的になりますが、とても大事なことなので説明しましょう。
肉や魚や豆腐など(もちろん人工的なプロテインもですが)を口から入れれば、消化していく過程で、タンパク質はすべて「アミノ酸」という物質に変わります。このアミノ酸は、私たちの体にあるタンパク質の材料となります。私たちの体のタンパク質は、絶えずつくりかえられており、その材料となるわけです。
一方で、運動をしようがしまいが関係なく、筋肉も含め体のタンパク質は絶えずつくりかえられています。だから、「運動をしたらタンパク質の補給が必要」という考えは間違っています。運動の有無は関係ないのです。
では、どのくらいつくりかえられているのでしょうか。1日にだいたい400グラムのタンパク質が壊され、400グラムが新しくつくられています。前述したように、その材料はタンパク質が分解されたアミノ酸です。
「アミノ酸プール」で体内に大量にストックされるアミノ酸
さて、ここで、あなたは思うはずです。
「だったら、やはりたくさんタンパク質を補充しなければ、つくりかえるためのアミノ酸が足りなくなってしまうじゃないか」
ところが、そうではないのです。もし、補充しないとタンパク質が足りなくなってしまうのなら、山で道に迷ったり、災害に遭遇そうぐうして数日ろくな食べ物を得られなくなったりした人は、すぐに命を落としてしまうでしょう。そんなことにならないように、私たちの体はパーフェクトにできているのです。
私たちの体には、「アミノ酸プール」というシステムが備わっています。名前の通り、アミノ酸を大量にプール(ストック)しておくシステムです。
具体的には、体の細胞の中、血液の中、細胞の外の細胞外液などに、約100グラムのアミノ酸がいつでも貯蔵されています。
タンパク質が壊されて得られたアミノ酸は再利用される
そして、このアミノ酸プールは、3つの生成経路と消費経路によって、絶えず量が保たれています。
まず、アミノ酸生成経路を見てみましょう。
①筋肉など体のタンパク質が分解されることによってもたらされるアミノ酸
②食事から摂ったタンパク質由来のアミノ酸
③体の中でつくられるアミノ酸
このうち①に注目してください。つまり、タンパク質が壊されて得られたアミノ酸は再利用されるということです。また③のように、自らつくりだす機能も備わっています。
次に、アミノ酸消費経路です。
①体(筋肉も含まれる)のタンパク質を合成する
②過剰なアミノ酸を尿素窒素などに変えて尿から排泄はいせつする
③ブドウ糖や脂肪を合成する
ここでは、②が重要です。過剰なアミノ酸があれば、それを尿素窒素などに変えて尿から排泄する(濾過ろかする)腎臓の働きが強く必要とされるわけです。それによって腎臓は疲弊し、機能が落ちていきます。医学的には、「過剰濾過による腎機能障害」が起きます。
プロテインは要らない、肉や魚や大豆で十分
タンパク質を摂りすぎると、過剰濾過が生じて腎臓を悪くするというのは、1982年に発表された有名な腎臓病医のブレンナー教授の論文で確立されています(N Engl J Med 1982;307:652-659)。さらに、世界的に有名な腎臓の教科書『The Kidney』(編集者はブレンナー教授)にもしっかりと書いてあります(The Kidney 2020, 11th edition Elsevier, P650,P1775)。
当然のことながら、腎臓病専門医には常識ですし、腎臓が悪くなったらタンパク質を減らした食事をしなければならないことは、どんな医師も知っているはずです。ただ、プロテインの害については、多くの医師にとって理解の及ばぬ事柄でしょう。
アミノ酸プールの仕組みによって不足することなどないタンパク質を、プロテインパウダーなどで大量に摂取し、かえって腎臓を悪くしているのが現代人なのです。
もちろん、タンパク質は重要な栄養素ですから、必要量を食事から摂ることは大事です。しかし、それは普通に食べていれば十分です。もし不足するなら、プロテインなどではなく、肉や魚や大豆を食べるのが良いのです。
「運動時にタンパク質の補給が必要」はまったくのウソ
アスリートやボディビルダーにとってプロテイン摂取は有効か。これは、長きにわたって議論が続けられてきた問題です。
しかし、この議論には、決着がついています。
1994年にイギリスのダンディー大学の研究者が17ページにもわたる膨大な研究報告を行っており、そこで明らかに否定されているのです(Proceeding of the Nutrition Society 1994;53:223-240)。
そのチームによる実験では、男女26人のボディビルダーに対し、体重1キロあたり1.93グラム(60キロの人なら115.8グラム)という高タンパク食を毎日摂ってもらいました。しかし、筋肉にはなんの良い効果も出なかったそうです。
また、イェール大学で行われた実験で、5カ月間にわたり、アスリートに1日のタンパク質を55グラムに制限させたところ、筋力は逆に35%も増加したそうです。
こうした結果を見れば、「運動するときにはタンパク質の補給が必要だ」というのは、まったくのウソだということがわかるでしょう。
プロテインは「販売上のイメージ戦略」
でも、プロテインなどを売りたいメーカー側は、なかなかこういうデータは出してきません。そして、なんとなくわかったような、わからないようなイメージ戦略で「体に良さそうだ」と思わせるのです。
たとえば、スポーツクラブのインストラクターなどが、「運動をしてブドウ糖が消費されると、エネルギーが足りなくなって筋肉が使われてしまうから、タンパク質の補充が必要だ」と言って、そこで販売しているプロテイン製品をお客さんに売っているという話を患者さんからよく聞きます。
彼らに悪気がないのはわかっています。しかし、生化学から見ればその理論は明らかに間違いです。
「体のため」の勘違いで逆効果…
ブドウ糖(グリコーゲンなどに形を変えて体に保存されていたものを含む)がエネルギーとして消費されてしまうと、次に使われるのは筋肉ではなく脂肪です。一般的な体格の人(たとえば体重60キロの男性)で、1カ月くらいはエネルギー不足にならないくらいの脂肪を、私たちは体に溜め込んでいます。
これら脂肪を消費し切ったとき、最後にやむを得ず、筋肉のタンパク質がエネルギーとして使われます。
なぜ最後かといったら、筋肉をつくっているタンパク質が簡単に不足してしまっては大変だからです。そんなことにならないよう、私たちの体は完璧に設計されているのです。
牧田善二『医者が教える最強の解毒術』(プレジデント社)
そして、タンパク質までエネルギーにしなければならないようなことは、文明社会ではあり得ません。ましてや、スポーツクラブで運動したくらいで、そのような状況になるはずがないのです。
それよりも、プロテイン摂取は腎臓への害が大きすぎることを考慮すべきです。なんで最近、こんなにコンビニでもスーパーでもそしてジムでも、プロテインを売るようになったのかわかりません。
働き盛りの年代が、忙しい時間をぬってせっせとスポーツクラブに通うのは、健康を維持したいからでしょう。体を守るためにやっているはずのことが、逆効果にならないようにしていきましょう。
牧田 善二AGE牧田クリニック院長
新型コロナウイルスで生活様式が変わって1年以上経ちますが、コロナによる体重増加をなんとかしようと、自宅でスクワットや腕立て伏せなどのトレーニングを始める人が増えていると聞きます。
それに伴ってか、プロテイン市場も拡大しているとか。今ではアスリートや筋肉を鍛えたい一部の人だけでなく、“自宅でのトレーニング”のような軽い運動をしている人、運動はしていないけれど健康や美容に活用したいと考えている人など、幅広い層にプロテインが受け入れられているそうです。
確かにドラッグストアに行くとプロテイン関連商品がずらりと並んでいます。
コンビニでもすでにドリンク状態になっているものが売っており、ビジネスマンが、まるで缶コーヒーを買うような感じで普通に購入し飲んでいるのを見かけたことがあります。
プロテインとは、タンパク質のこと。牛乳やヨーグルトなどの乳製品に含まれる「ホエイプロテイン」、牛乳から脂質とホエイを取り除いた「カゼインプロテイン」、大豆が原料の「ソイプロテイン」など、さまざまなプロテインがあります。このうちのひとつ、ホエイプロテインに関して、「2型糖尿病の発症を抑制する」という新たな研究結果が昨年9月、「Scientific Reports」に掲載されました。「Scientific Reports」はエビデンスの正当性のみを評価することを目的とするオープンアクセスのオンライン学術誌です。
発表したのは、東北大学未来科学技術共同研究センターの野々垣勝則教授ら。肝臓と小腸で発現しているホルモン様因子であるFGF21は、肥満や2型糖尿病の人では血中濃度が増加することが知られていましたが、野々垣教授らは、高脂肪食をマウスに与えると、肥満や糖尿病になる前に、早期からホルモンFGF21の血中濃度が増加することを証明しました。
■別の研究では食欲増進ホルモン分泌を抑制
また、主に腸から分泌されるホルモン、セロトニンを遺伝子工学的に抑制させたマウスでは、肝臓からのFGF21の分泌が抑制され血中濃度が低下することも確認。さらに高脂肪食とともにホエイプロテインをマウスに投与すると、セロトニンとFGF21の分泌が抑制され、インスリン抵抗性と高血糖が改善されるとの結果でした。つまり、ホエイプロテインは高脂肪食による2型糖尿病の発症を予防することが期待できる。
この研究の前には、米カリフォルニア大学が「2型糖尿病患者が乳製品からホエイプロテインを摂取すると、食後の血糖値の上昇を抑えられる」という研究結果を発表しています。
食事療法または糖尿病薬メトホルミンの治療を受けている2型糖尿病患者22人を対象に、ホエイプロテイン21グラムを朝食前・夕食後に摂取する群と、摂取しない群で比較したところ、摂取することでインスリン分泌を刺激するホルモン、GLP―1の分泌が刺激され、食後の血糖値の上昇が抑制しやすくなり、食欲増進ホルモンの分泌も抑制されたのです。ただし、この研究では、ホエイプロテインが含まれるサプリメントでは、同様の結果は確認できませんでした。
飲む量や運動量にもよりますが、現段階では「ホエイプロテインが糖尿病を予防・改善できる」とは言い切れません。今後の研究結果に期待、というところでしょうか。
しかしいずれにしろ、主治医に相談の上でプロテインを糖尿病患者さんが摂取するのは、私は悪いことではないと思っています。タンパク質摂取で筋肉量が増えれば、インスリン抵抗性が改善され、糖尿病予防・合併予防に役立つからです。
坂本昌也
国際医療福祉大学 医学部教授 国際医療福祉大学 内科部長・地域連携部長
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