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父が亡くなり母は施設へ 残る無人の一軒家と維持費問題

2021-08-21 15:30:00 | 日記

下記の記事は日経ウーマンオンラインからの借用(コピー)です

冬、遠く離れた故郷で父がひとりで死んでいたのが見つかった。その前年の夏、熱中症で倒れて救急車で運ばれた母は認知症と診断され、専門病院に入院していた。父はそのわずか5カ月後にいなくなってしまったのだ。
 母には父の死を伏せていたけれど、病院から施設に移る日、遠回りして実家に連れていき、既に半年前に亡くなったことを伝えた。
 病状が進み、ほとんど何も話さなくなっていた母は父の遺影を見て「ごめんねえ、お父さん」と口にした。施設に入居したら、母はおそらくもうここに帰ってくることはできないだろう。いよいよ実家は無人になった。
 私は本当に、この100坪の土地と一軒家をひとりで守っていかなくてはならなくなったのだ。薄暗く雨の降る日、誰もいなくなった実家で私はその重荷に足がすくみそうになっていた。
水道光熱費はどの口座から引き落とされているのか
 ふと我に返ると、私はこの家のことを何も知らないことに気がついた。滞在している間だって電気代も水道代もかかっている。お風呂も沸かして入っている。固定電話もつながっている。そのお金がどこから引き落とされているのかを確認しなくてはならない。
 「重要なものは僕の部屋の金庫にまとめて入れてあるから」と以前父に聞いていたので、まずは見てみることにした。そっと父の部屋に入る。「お父さん、金庫の中、見るからね」と宙に向かって声をかけた。開けられるだろうかと心配だったけれど、金庫に鍵はかかっていなかった。
 入っていた何冊かの預金通帳をめくってみる。父の名義の通帳も母の名義の通帳もあった。マメな性格だった父は、どの通帳が何の用途であるか、それぞれのキャッシュカードの暗証番号が何であるかが分かるよう、きっちりと整理をしていた。
 めくってみると、どの通帳もここ数カ月は記帳した記録がなく、近所の銀行の支店に行って状況を確認した。その中に、公共料金等の引き落とし専用の口座があったが、内容を見て驚いた。残高がマイナスになっていたのだ。定期預金がセットされ、そこから借り入れがなされていたが、普通預金の残高はマイナスになっていた。
公共料金の口座には、父が時々まとまった金額を振り込んでいた形跡があった。どこかの時点で、この作業を思い出せなくなるか、銀行に出かける気力すらなくしていたのだろう。元気だと信じていた父が弱っていた証拠を見せつけられたようで、胸が詰まった。
 慌ててその口座にある程度の金額を入金し、精査してみた。水道、ガス、電気、固定電話、携帯電話、NHK、新聞、固定資産税、自動車税。そういったものが定期的に引かれているが、合計してみるとけっこうな金額になることに気がついた。そのままにしておいたら、誰も暮らさない家に、今後もこれだけのお金がかかっていくのかと思うと目まいがした。何とか対策を考えなくてはならない。
手入れする人のいなくなった実家は雑草が生え、どんどん荒れていく
高額な電気代の理由を電力会社に確認
 まずは実家に届いていた公共料金の検針票をじっくり眺めるところから始めた。父の手で、決まった場所にきれいに整理されていた。最も高い料金が引かれていたのが電気代。父が亡くなる最後の月は、電気代が1万7000円もかかっていることが分かった。過去の検針票を見つけると、電気代が2万円を超えている月もある。電話をして理由を聞いてみた。
 「おそらく寒い時期や暑い時期の暖房と冷房ではないか」と電力会社の女性は言った。事情を話すと、現在60アンペアの契約のアンペア数を落としてはどうかと勧められたので、さっそく手続きを取った。悩んだ末、複数の部屋の冷房や暖房を使う可能性も考慮し、30アンペアにした。数日後にブレーカーを交換しに来るという。
 次に、ガスである。実家ではいまだに台所の裏にプロパンガスを置き、そこからコンロの火を使うようにしていた。当面の間、この家で私が料理をすることはないだろう。幸い、電気ポットがあるのでお湯を沸かすことはできるのでお茶は飲める。お風呂のお湯を沸かすのは昔ながらの灯油式ボイラーだ。そこで、思い切って契約を停止することにした。
長年使われていない付帯サービスを「発掘」
 やけに高い固定電話の料金は、数カ所に電話をすることでその理由が判明した。インターネットのプロバイダー料金が含まれていたのだ。しかもリモートサポートサービスやキャッチホンなど、おそらく10年以上使ってもいなかったであろう付帯サービスがたくさん付いていたのも料金が高い理由だった。
 誰もいない実家に電話がかかってきても取る人もいないが、今後の何かの契約時に電話番号が必要になるかもしれないと思い、サービスを1つずつ解約していった。父名義のプロバイダーの解約には私の免許証をファクスで送る必要があり、徒歩5分かかるコンビニまで行ってコピーして送るという手間も生じた。後日送られてくる専用の封筒を使ってルーターを送り返すという作業も必要だった。
 NHKには、実家が無人になりテレビを見る人がいないことを電話で告げるとあっさりと解約が認められた。新聞は父の葬儀の日に止めてもらっていたが、無料のタブロイド新聞が数種類、郵便受けに押し込まれていたので、1つひとつ電話して配達を止めてもらった。
 固定資産税はどうすることもできない。また、父の車は廃車にしたものの、車がないと生活できない故郷では、私が帰省するときのために母の車は残しておき、自動車税や任意保険もそのままにしておくしかないだろう。
 こうやって細かく整理していったが、やはり実家を維持するのにある程度の費用は覚悟しておかないといけないようだった。この時点でまだ母の遺族年金がいくらもらえるかは分かっておらず、私は自分の収入からの補填をひそかに覚悟した。
 実家にかかる細かいお金の精査と解約や変更などの手続きを終えると、今度は気にかかってきたのが相続についてである。こんなことになるまで、自分が相続の当事者になるとリアリティーをもって想像したことがなかったので、本当に何も知らなかった。
土地の権利証を確認して判明した事実
 噂に聞く相続税というものを払わなくてはならなくなるのだろうか。調べてみると相続税の基礎控除というものがあることを知った。最低金額は3600万円。以降、法定相続人が1人増えるたびに600万円ずつ加算される仕組みになっており、母がいるので4200万円までは相続税はかからないことを知った(2021年7月1日現在)。
 父は大した流動資産を残しておらず、到底その金額に届くようなお金は残っていなかった。おまけに生命保険にすら入っていなかった。私たち家族3人にかけた古い生命保険の証書が残っていたが、確認するとずいぶん前に解約されているとのことだった。
 残る資産は不動産である。金庫の奥から昭和の時代の古い登記済権利証書を引っ張り出して見てみたところ、建物は父の名義だったが、何と土地は母親のものだということが分かった。代々の土地を、若い頃に祖父から贈与されていたのだ。
庭仕事が趣味の母が好きだった紫蘭(しらん)
実家を売却したくても…立ちはだかるさまざまな壁
 帰る人のいない実家なら、お金をかけて維持するよりさっさと売却してしまったほうがいい。そう忠告してくれる人が多かったのだけれど、ここでそれがほぼ不可能だと分かった。なぜなら、認知症という診断のついた母の土地を、家族といえど私が勝手に売ることはできないからだ。
 私が実家を売却するには、成年後見制度の1つである「法定後見制度」を利用するしかない。法定後見制度とは、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された人が本人を法律的に支援する制度のこと。私ではなく第三者である弁護士、司法書士、社会福祉士などが選任される可能性も非常に高い。
 その場合、私が実家の財産を管理することは一切できなくなり、法定後見人が許可しなければ母の預金を触ることも実家を売却することもできないと分かった。しかも毎月、後見人には月に数万円の報酬が発生するという。
……どうすりゃいいのよ。
 母が存命中は、実家を維持し続けるしかないのだろうか。私はひとり、頭を抱えてしまった。
文・写真/如月サラ
如月サラ
きさらぎさら
フリーランスエディター、文筆家



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