下記の記事は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です。
「脱炭素社会への移行」を掲げ、政府や経済界がさまざまな発信をしている。昨年11月、小泉進次郎環境相は日本記者クラブでの会見で「住宅の脱炭素化」に取り組むと述べた。日本では、既存の住宅や建物の「断熱改修」が遅れている。冬になると、寒い浴室で温度差による「ヒートショック」により亡くなる人が多い。だが健康と住宅・建物との関係はあまり知られていない。冬暖かく夏涼しい家を増やす工夫が必要だ。
調布市の主婦、まずDIYで断熱改修に挑戦
「エネルギーダダ洩れの家が、前々から気になっていました」
調布市東つつじヶ丘に住む主婦、菅野千文さん(すがの・ちふみさん、59歳)は昨年2月〜5月、自宅の断熱改修に取り組んだ。ずっと前から「何とかしたい」という思いがあったという。
菅野さんは、再生可能エネルギーで生活できる暮らしを提案する一般社団法人「えねこや」(調布市深大寺、湯浅剛代表理事)の理事を務める。2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、原発のない暮らしを目指す建築家や主婦らが集まり、2016年6月に「えねこや」が設立された。
菅野さんは子供たちが独立し、今は夫(60歳)と2人で築20年の家に住む。屋根の上の太陽光パネルを新しくし、蓄電池の性能がいいものが出てきたら買うか電気自動車を蓄電池のように利用するかして、「再エネ100%」の暮らしを実現したいと思っている。しかし、「その前にやるべきことがある」ことに気づいた。
「えねこや」の仲間たちから、あるいは、さまざまな勉強会に参加したなかで、「既存住宅のエネルギーロスはものすごく大きい」と知ったのだ。中でも、「家のエネルギーロスの50%は窓から」と聞いて、菅野さんはまず窓から、エネルギー消費を抑える断熱改修を始めようと決めた。
確かに、窓などの開口部は、断熱改修のカギとされる。一般社団法人「日本建材・住宅設備産業協会」によると、家屋を出入りする熱の量を100%とすると、冬の暖房時の熱が開口部から流出する割合は58%、逆に夏には冷房時に開口部から熱が入ってくる割合は73%にもなる。
最初に菅野さんが目をつけたのは、2階の浴室、洗面所、トイレにある「ジャロジー窓」。細長い板ガラスやアクリル板がブラインドのような形で重なり、窓についた取っ手を回すと、その角度が変わる仕組みだが、冬場にはかなり「スース―」した。
当初は内窓を取り付けることを考えたが、取っ手が邪魔になり難しい。そこで、まずはDIY(Do It Yourself、手作り)による断熱改修に挑戦してみることにした。近くのホームセンターでポリカーボネート板を窓のサイズにあわせて切ってもらい、切り口の周囲にモコモコがついている「モヘアテープ」を張り付けて厚さを調整し、はめ込んだ。
つまり、いわゆる「羽目殺し」という開かない窓にしてしまった。天窓と1階トイレにも設置し、閉じたままの窓9カ所ができた。昨年は5月には、取り外した。11月から2月までの冬場には密閉状態になってしまうが、換気扇を回して対応し、「カビも出ないし、問題ない」という。材料費は、総計で約1万5000円。窓の表面温度を測ったところ、ポリカーボネート板を取り付ける前と後で5度近くも違った。浴室の寒さもぐっと和らいだ。
トイレのジャロジー窓、左がDIY改修前、右が改修後(写真:菅野千文さん提供)
床下断熱はじめ本格改修は、工務店に依頼
まずはDIYで窓の改修に取り組んだ菅野さんだが、続いて工務店に頼み、本格的な断熱改修を行った。冬になると床下からの底冷え感があったため、床下に新たに断熱材を張ってもらった。作業が完了したのは、昨年3月14日。この日は夜には雪が降り、気温は2℃まで冷え込んだ。一方、従来は冬場の寒い日には、床暖房の設定を10段階の「4~5」にしてきたが(数が多いほど強い)、この日は「2」で大丈夫だったという。
このほか、5カ所の窓に内窓を設置し、玄関と勝手口のドアも断熱タイプのドアに交換。最後に、出窓などには、特種な構造の素材の中に空気が入るスクリーンを設置。外からの冬の冷気、夏の暖気を窓でとどめて室内を守る仕組みで、断熱効果が上がった。
工務店に頼む本格的な断熱改修は、費用が高い。床下に新たに断熱材を張った費用は約40万4000円かかった。内窓やドアの取り換えを含めた総費用は、ざっと270万円。断熱改修は、既築の住宅の場合、平均で約300万円かそれ以上が必要と言われる。菅野家の場合も、そうした価格帯の出費がかさんだ。
とにかく高い。しかも、菅野さんの家は建てた当時としては省エネ性能が高く、窓はペアガラス、リビングには床暖房もある。ちなみに私が住むマンションは2006年に建てられたがペアガラスではなく、1枚のガラス。親が住んでいた私の実家には、床暖房もなかった。恵まれたレベルの家でさえ約300万円かかってしまうとなると、一般的に考えて断熱改修のハードルは高い。
こうした費用がネックになるのか、国土交通省が昨年8月にまとめたところによると、2018年時点で「省エネ基準を充たす住宅ストックの割合」は、わずか11%。一方、新築を対象にした国交省の調査では、2015年度の実績で、住宅全体で断熱性能の適合率は59%だった。断熱性能を含む住宅の省エネ化施策は新築中心に行われてきており、既存住宅は置き去りにされてきた格好だ。
床下(上の部分)に新たに断熱材を張った。(写真:菅野千文さん提供)
健康を左右する建物の断熱性能
人の健康が室温により左右されることは知られている。とくにヒートショックは、冬場に注意しなければならないことの代表例だ。寒い風呂場に入り、血管が縮んで血圧が上がる。湯船につかると今度は急に血圧が下がる。血圧の急な変動は、心筋梗塞や脳卒中につながる。入浴中、あるいはお風呂から上がったときに立ちくらみがしたり、気持ちが悪くなったりしたことがある人も多いだろう。
しかし、ヒートショックは別として、住宅の室温はさまざまな病気や老化現象とも大いに関係があることが、近年の研究でわかってきた。
国土交通省は2014年度から、医学・建築工学研究者による「断熱改修による居住者の健康への影響調査」を実施。2019年1月には、「住宅内の室温の変化が居住者の健康に与える影響とは? 中間報告」として、全国約2000世帯、4000人規模の調査をまとめ、発表した。
その結果、室温が低い家では、コレステロール値が基準範囲を超える人や心電図をとると異常所見が見られた人が有意に高かった。また、就寝前の室温が12℃未満の住宅では、18℃以上の住宅と比べて過活動膀胱症状のある人の割合が1.6倍高かった。
また、家を床上1mと床近くの室温の組み合わせにより3つのグループに分けて、居住者が病気で通院したり、耳が聞こえにくい、骨折や捻挫などの不調を経験したりした人の割合を比較したところ、「温暖グループ」の暖かい家に住む人に比べ、ほかの2つのグループに住む人が通院、または不調を経験した人の割合が高くなった(表1)(表2)。
(外部配信先では表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
冬場に暖かい家に住む人は老化が遅くなる?
慶応大学理工学部システムデザイン工学科教授の伊香賀俊治教授らの研究チームは、国土交通省の調査で中心的役割を果たしてきたが、それとは別に、高知県梼原町と山口県長門市で「介護予防につながる住宅と住まい方」について研究を続けてきた。
それによると、脳MRI画像分析による脳健康指標の状態を調べたところ、冬場に2℃暖かい家に住む人は、脳年齢が4歳若かった。また、冬季に居間の平均室温が14.7℃の寒い家に住む人は、要介護認定平均年齢が77.8歳だったが、17℃の家に住む人は80.7歳だった。伊香賀教授は「冬場に室温を約2℃暖かくすると、要介護認定される年齢を約3年遅らせることができることを示している」と話している。
アメリカのジョー・バイデン新大統領は就任式が行われた1月20日(現地時間)、すべての国が参加して気候変動対策を進める国連のパリ協定への復帰に向けた書面を国連に提出した。これを受け、グテレス国連事務総長は、歓迎の談話を発表し、アメリカが2月19日にパリ協定に戻ることを明らかにした。トランプ前大統領は気候変動問題に背を向け、昨年12月にパリ協定からの脱退手続きを済ませていた。
パリ協定は2015年12月、パリで開かれた国連気候変動枠組条約第21回締約国会議で採択され、翌2016年に発効。昨年の第26回締約国会議で実施状況の検証や未定のままの実施ルールの細部が決まる予定だったが、新型コロナ禍で会議は2021年11月に延期となっている。
折しも、世界で台風や熱波、山火事などの気候変動に関連した災害が頻発していることから、二酸化炭素の排出を事実上ゼロへと削減する「脱炭素」へと、先進各国は次々に舵を切った。菅首相は2020年10月、就任後初の所信表明演説で「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」と宣言。ここにきて、既存住宅の断熱改修が重要な政策課題として浮上してきた。
外出自粛の影響で自宅の省エネに関心高まる
国交省は昨年12月、グリーン住宅ポイント制度を創設した。窓、ドア、外壁、屋根・天井、床など既存住宅の断熱改修を行った場合、1戸当たり上限30万円相当のポイントがもらえる。ポイントは、一定の追加工事や商品と交換できる。第3次補正予算に組み込まれており、予算成立後の2月ごろには事務局が開設される予定だ。実際には、工務店など工事を請け負う事業者がポイントの申請を行うことになるが、「コロナ禍で自宅にいる時間が増えたため、自宅の省エネ機能を見直す人が増え、関心が高まっている」(国交省住宅局住宅生産課)という。
環境省も、第3次補正予算と来年度の予算で、既存戸建て住宅の断熱改修への補助を盛り込んだ。1戸当たり120万円を上限とし、断熱改修費用の3分の1を補助する。こちらは、2018年度から行っており、その対象戸数が増える格好だ。実績としては、2018年度1万5065戸、2019年度1万2493戸、2020年度1万0444戸で、これに2020年度第3次補正で2万8000戸(積算上の数字)が積み増しされる。
とはいっても、既存住宅で省エネ基準に満たないのは、11%だった。人が居住している住宅は全国で約5000万戸なので、4450万戸が断熱不十分ということになる。国土交通省や環境省の施策が断熱改修の呼び水になるのかどうか。
費用がかかるということに加え、もう1つネックになるのは「どのような技術があるのか」「どこに頼めばいいのか」が、よくわからないという点だ。本格的な断熱改修のほかにも、自分で材料を買ってできるけっこう効果が上がる方法もある。既存住宅の断熱化が進むには、工務店など事業者の団体だけではなく、基礎自治体や住民団体ができることのメニューを整理して提示するなどの工夫が必要だ。
河野 博子 : ジャーナリスト
追記:私の家は道路沿いのマンションですが南北に面した4つ個室に内窓を付けました。断熱とバイクの騒音を遮断しました。その前にペアガラスを付けましたが効果はありませんでした。内窓はおすすめです。工事は職業別電話帳に出ているガラス屋さん頼みました。個人業者さんは値切れます。2室ずつ別の業者でした。内窓設置の総費用は約40万円でした。リクシルの製品の方が見た目も良く業者が親切でした。ついでに網戸の張り替えも頼みましたが安く済みました。
ホームセンターにも2社見積りを取りましたが高額でした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます