下記の記事は東洋経済オンラインから借用(コピー)です
コロナ禍で人と出会う機会も減り、婚活もままならない中、ネットでの出会いを求める人を狙った詐欺が多数報告されています。そのうちの1つが「国際ロマンス詐欺」です。国際ロマンス詐欺とは、「ネット上での出会いを通じて知り合った海外の相手に恋愛感情を抱かせて、金をだましとる手口」です。
もしかすると「外国人の軍人になりすまして『安全な日本に暮らしたいので日本に荷物を送った。その代金を立て替えてほしい』と、お金を取る手口でしょ。わかっているからだまされない」と、思う人もいるかもしれません。しかし、手口を知っていたはずの人たちも、次々に詐欺の毒牙にかかっています。
というのも、もはやなりすます職業は、軍人だけでなく、医師、エンジニア、投資家など多岐にわたっています。また、これまではアメリカ人、オーストラリア人などの白人を名乗る人物による犯行が目立っていましたが、最近は韓国人、台湾人などのアジア人を名乗る事例も報告されています。
ある日、インスタに届いたメッセージ
「彼を信じたい気持ちから、あれよあれよという間に、2週間で約470万円を送金してしまいました。本当にバカでした」
うっすらと涙をにじませながら語るのは、一般企業に勤める40代女性です。英語が堪能で話す口調もしっかりしているこの女性が、なぜだまされてしまったのでしょうか。そこには巧妙な詐欺の罠があったからです。
きっかけは9月中旬にインスタグラムに届いた、1つ年上のデンマーク人の男からの「ハロー」というメッセージでした。今回はSNSからのアプローチですが、国際ロマンス詐欺はマッチングアプリ、出会い系サイトなど、人と出会えるあらゆる場で発生する可能性があります。
女性も「ハロー」と応じると「LINEで連絡を取り合いませんか?」と言われて、やりとりが始まりました。
男は土木技師をしており、2年半前に妻と離婚。現在は娘と2人で暮らしている、と自身について説明しました。最初は「今、何してる?」「今日は仕事?」という、たわいもないメッセージを送ってきましたが、ある時、夢を語り始めます。「国家資格を受けて、それに合格すれば、小さい頃からの夢だった自分の会社を持てるんだ」。女性はそれに「合格できるといいね」と返事をします。
その1週間後、国家試験に合格して公共事業の契約も取りつけたと、男から喜びあふれる言葉が届きました。「自分は世界のどこでも働けるので、会社を作り日本に家を買って、君や娘と一緒に暮らしたい。まずは公共事業を成功させるよ」。
女性もうれしい気持ちから「あなたの夢をサポートしたい」と返事をします。これが“罠”であるとは気づかずに。心を許しつつある女性に対し、男は情熱的な言葉を重ねてきます。
* 「ほかの人には与えていない愛をあなただけに与えます」
* 「私たちの愛が永遠に続きますように」
* 「僕のことをダーリンと呼んでください」
男から寄せられる「愛の言葉」の罠
さらに男は「付き合ってもらえませんか? 結婚して生涯一緒にいましょう!」と、将来を意識した話を持ち出します。その言葉に女性は「すごくうれしい」と応じました。
女性は、結婚を前提に長い間付き合っていた男性から一方的に別れを告げられて、ショックを受けた直後にこの男と出会いました。前の交際相手はドライな人で愛情表現が苦手だったのに対して、この男は次々と愛の言葉を投げかけてきたといいます。
「愛情表現豊かなメッセージが、私の空いていた心のポケットにすっと入りこみ、心引かれたのだと思います」(被害女性)
「素敵なレストランに行って、あなたの美しい唇にキスしたい。あなたはとてもセクシーなので抱きしめたい。もっとおしゃべりができたらいいのに」と、キスマークの絵文字がたくさんついたメッセージを男は送ってきます。
女性が私も同じ気持ちと返すと、男は突然「自分はベッドで準備ができている」と言って、露骨な表現でオンライン上での性的なコミュニケーションを求めてきました。
本気とも冗談ともつかないような内容で、女性は最初は戸惑いながらも、外国では当たり前の愛情表現なのかもしれないと思い、半笑いのスタンプを返します。
と、いきなり男の局部の写真が送られてきました。「君の恥ずかしい写真も送ってね」。女性も冗談半分のノリで上半身裸の写真を送ると、男は「お互いに、ほかの誰にも見せないようにしないとね。ハハハ」と笑います。
このやりとりには、人間心理を巧妙に利用した罠が潜んでいます。それは2人だけの秘密の共有をすることで、より心の距離が近づいてしまうという効果です。同様の写真を送りつける手口は、別の被害女性からも聞いていますので、ロマンス詐欺では定番になっているのかもしれません。
山を越えたら、後戻りできなくなる――。詐欺では「山」を越えさせ後戻りできなくさせてから、本題の詐欺を行います。
翌日に男は、ドバイに行って工事するのにあたり、1万ユーロの税金を払う必要があると、女性に送金を要求。女性は不審に思って断りましたが、「君はサポートしてくれると約束してくれたじゃないか。あれはうそなのか!」と男は迫ります。
90万円を送金させた手口
ここで「あなたの夢を私がサポートします」という女性の過去の言葉を持ち出してきました。これは言質を取って相手を追い込む手法で、自分の発言に責任を持つ真面目な人ほど、断りづらくなります。ましてや、結婚まで約束させているのですから。女性は男の要求に応じて、90万円を日本の銀行に振り込んでしまいます。
次の日も、ガソリン代が必要と送金を求める連絡が届きましたが、女性は昨日支払った金額以上はないと返信します。すると男は、「自分の銀行口座にはお金があり、借りたお金も返したいので、送金を手伝ってほしい」と言うのです。
なぜ、自分で振り込みをしないのか。理由をたずねると「ここはネットワーク環境が非常に悪いため、銀行のサイトが開けない」とのこと。女性は貸したお金が戻ってくると信じて、同意します。
まもなくして、海外の銀行サイトだというURLとIDとパスワードを受信。アクセスするとその口座には、67万ユーロ(約8000万円)以上の金額が表示されていました。
男はまず、ある口座に1万5000ユーロを送金するように要求。その後に、貸した金額分を女性の口座に送金するようにいいます。女性は伝えられた口座情報を入力して手続きをしましたが、送金するには2段階認証のコード番号が必要でした。
しかし、男のもとに届いているはずの2段階認証のメールについて「ネットワーク環境が悪くてアクセスできない」「それで昨日もあなたにお金を借りた」と言われ、結局送金することができませんでした。
これは、偽の銀行サイトで「見せ金」を表示して、信じさせるという手立てです。送金に失敗したと思わせることで、後にお金を立て替えてもらう口実にもなります。女性はこの手に引っかかってしまい、その後も4回にわたり多額のお金を振り込みます。結局、男とは実際に一度も会うことなく、470万円という大金をだましとられたのです。
国際ロマンス詐欺では、①言質を取り、②結婚を意識させ、③性的な会話でとどめを刺し、ネット上のやりとりだけで巧妙な詐欺を行うのです。
抑えていた疑問が噴出
女性は詐欺被害にあったと、どのように気づくことができたのでしょうか。それは、ある日本の銀行口座に120万円を振り込んだ翌日、銀行から「この口座は、犯罪に使われている動きをしている」と連絡があったからです。この時、女性は「やっぱり詐欺だった!」と我に返りました。
これまでの経緯が頭の中を一気に駆け巡り、抑えていた疑問が噴き出したといいます。送金時にネットワークがダウンしていると言われた時も、LINEができるならメールを開けるはずではないかと聞いても「できない」の一点張り。おかしいとは思いながらも、相手との結婚を意識していたため、それ以上は深く追及できなかったようです。
「だまされた!」と思うと、急に体に震えがきてパニック状態に。それでも、気を取り直して警察に相談しましたが、「相手が外国人で日本にいなければ、捜査はできません。相手が日本にいるかどうか、あなた自身が確認してください」と、被害届は受理されなかったといいます。
また、だまされて振り込んだ別の銀行のサポートセンターに電話相談しても「専門の部署から連絡する」と言われたきり、女性のもとにいまだ連絡はありません。
国際ロマンス詐欺では「だまされる人にも問題がある」という風潮もありますが、私はそうは思いません。だます側が悪いのです。
振り込め詐欺の被害が話題になった当初も、被害者に対して同じような風潮がありました。それゆえに積極的に対策がされなかったため被害は一気に広がりました。しかも、警察は被害届を受理したがらず、銀行の対応もバラバラな様相も、その時の状況によく似ているのです。
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