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「あんたなんか産まなきゃよかった」母親の声が離れない…児童養護施設を出た20代女性の悲痛な"その後"

2021-10-15 15:30:00 | 日記

下記の記事はプレジデントオンラインからの借用(コピー)です。

身寄りがなかったり、虐待を受けたりした子どもが暮らすのが児童養護施設だ。国の制度上、入所できるのは原則18歳までで、退所後は社会での自立を迫られる。進学を諦めるケースも多い。どんな課題があるのか。NHK報道番組ディレクターの大藪謙介さんと社会部記者の間野まりえさんが取材した――。
※本稿は、大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
原則18歳での退所、自立を迫られる難しさ
児童養護施設や里親家庭などから出たあとのアフターケアは、今大きな課題となっている。児童福祉法で児童は18歳未満と定義されているため、児童養護施設や里親家庭などで過ごすことができるのは原則18歳まで。必要に応じて20歳まで延長できるとされているが、実際の運用では18歳で自立を迫られるのがほとんどだ。住まいや生活にかかる費用を自分で稼がなければならないため、進学を諦めるケースも多い。仮に就職できたとしても、長く続かずに仕事を転々とするケースも少なくない。困っても頼れる親族などがいない状態で自立を迫られる難しさは「18歳の壁」とも称されている。
2004年の児童福祉法の改正で、児童養護施設の業務に「退所者への相談支援」の業務が規定されたものの、退所したあとのアフターケアに財政的な後ろ盾はなく、各施設の職員の善意に任されているのが実情だった。2017年にはようやく、社会的養護自立支援事業が創設され、自立支援コーディネーターによるサポートや、継続した相談支援、生活費や家賃の貸付などに国から補助が出ることになった。この事業を活用することで、22歳の年度末まで、施設や里親家庭での暮らしを継続することも可能となった。現場では試行錯誤をしながらではあるが、少しずつ実践が始まっている。
大学進学率は17.8%と低い水準にとどまる
さまざまな事情から家族と離れて暮らす児童養護施設の子どもたちにとって施設とは我が家であり、職員は親代わりとなって、身の回りのことから精神的なケアまであらゆる面での支えとなってくれる存在だ。
そうしたいわば“守られた”生活から「原則18歳」という区切りを境に突然切り離され、社会での自立に歩み出すことを迫られる子どもたちが直面する現実とはどのようなものなのか。
厚生労働省の調査によると、高校への進学率はすべての中学卒業者が98.8%に対して、施設の子どもたちが94.9%(いずれも2019年度卒)と、大きな差異はない。
しかし、すべての高校卒業者における大学等への進学率は5割を超えているのに対して、施設の子どもたちは17.8%にとどまっている。10年前は13%だったことを考えると、わずかに進学率は高まっているとは言え、依然として施設の子どもたちの進学率は低い水準にとどまっていることがわかる。
多くの子どもたちが自立を求められている現状
児童福祉法で定められた「原則18歳」までの養育措置という規定によって、進学か就職のどちらかの選択を迫られる子どもたち。
厚生労働省は、「生活が不安定で継続的な養育を必要」と判断した場合には、20歳まで引き続き施設で暮らすことも可能としている。また大学等への進学者の増加をふまえ、2017年4月1日からは、22歳の年度末までは同法で定められた別の施設(「自立援助ホーム」)で暮らすことができる制度も開始した。
しかし、実際に措置延長を認められた子どもは、施設で暮らすすべての18歳の子どものうち20.3%(2020年)というのが実態であり、多くの子どもたちが社会での自立を求められている。
それでは、ここからは子どもたちの「自立」に待ち受ける現実をみていく。
母親からは暴力、父親からは性的虐待
「私はもう過去に戻るのは無理だけど、これから施設で育っていく子どもたちに私と同じような苦しい思いはしてほしくないんです」
取材で出会ったのは、20代の愛美さん(仮名)。
愛美さんが施設に入ったのは小学生のときだった。母親から殴る蹴るの暴力が日常的に行われていたある日、近所の人からの通報を受けた警察が駆けつけた。愛美さんは一時保護されることとなり、その後、児童養護施設で暮らすことになった。
施設で暮らし始めてからも、愛美さんは定期的に、自宅に一時帰宅していた。そのたびに母親からは暴力をふるわれた。さらに、父親と2人きりになると性的虐待を受けるようになった。
「父親から性的な虐待を受けていたことはずっと誰にも言えずにいました。体を触られているとき、気持ち悪いなと思っていたけど、父親から『お母さんに言うな』と言われていたから、これは悪いことなんだと思って誰にも打ち明けられませんでした」
なるべく「普通の家庭の子ども」と思われたかった
本当は一時帰宅をしたくないと思っていたが、愛美さんには周囲の顔色をうかがう癖があった。施設の職員や両親を前にすると、嫌だと口にすることはできなかった。面倒なことを言って嫌な顔をされたり、トラブルになったりするのが怖かった。施設の職員から、自宅に帰ったときのことを深く聞かれることはなかった。もし、そのときにちゃんと聞いてもらえていたら話すきっかけがあったかもしれないと今となっては思う。でもそのときは本当の気持ちを心の奥底にしまったまま、何事もなかったかのように生活するしか方法がなかった。しかし、虐待の経験は愛美さんの精神を傷つけ、静かに蝕んでいた。
施設での愛美さんは、どちらかというとおとなしい子どもだった。なるべく普通の家庭の子どもと思われたかった。「施設の子はばかだよね」と平気で言う同級生がいて、施設にいることは恥ずかしいことなんだと思っていた。高校生になり、進路を決めるときには、自分のように虐待を受けた子どもを助ける仕事につきたいと考えるようになった。保育士を志して大学に進学することを決め、20歳まで施設で暮らすことができる「措置延長」が認められた。
初めての一人暮らしで起きた、心身の異変
そして、大学に通っている途中に成人を迎えた愛美さんは、施設を退所。残りの学生生活は一人暮らしをしながら過ごすこととなった。初めての一人暮らしに期待と不安が入り交じる中、愛美さんの心身に異変が現れ始めた。
「施設を出てから、虐待のフラッシュバックをするようになりました。母親に殴られたことや、言われたこととかを急に鮮明に思い出してしまうんです」
母親から殴られて殺されそうになったこと。そのとき感じた恐怖。
「あんたなんか産まなきゃよかった」という母親の言葉。
幼いころのつらい記憶が、いくつも脳裏に浮かび、愛美さんを苦しめた。
「なんで私はここにいるんだろう。死にたい」
施設にいるときは、常に誰かがまわりにいる状態だったので、嫌なことがあってもすぐに気を紛らわせることができた。
でも一人ですごしていると、よくないことばかりが頭に浮かんで、とめられない。
これまで感じたことがない深い孤独が愛美さんの心を覆っていった。
孤独を紛らわせるために、誰でもいいからそばにいてほしいと思うようになった。
道ばたで声をかけてきた男性や、出会い系アプリで知り合った男性と過ごすこともあった。男性と体の関係を持つことで、「自分が必要とされている」と感じることができた。
もっと早くから本格的な治療を受けたかった
しかし、依存した相手に裏切られたことで、精神的にさらに追い詰められていくという悪循環に陥っていった。
大藪謙介・間野まりえ『児童養護施設 施設長 殺害事件』(中公新書ラクレ)
「もう自分は生きている意味がないんだと思うようになり、アルコールの大量摂取や自傷行為を繰り返しました」
周囲から病院に行くよう勧められた愛美さん。医師からは精神疾患の診断を受け、処方薬を飲むようになってからは、以前のような自傷行為などは落ち着いている。ようやく友人にも自分の過去を少しずつ話すことができるようになった。しかし、不意に強い孤独や不安に襲われ、衝動的に処方薬を大量摂取してしまったこともある。トラウマケアに詳しい医師の治療を受けたいと考えているが、金銭面からまだ踏み出せずにいるという。
「こんなにひどい状態になる前にもっと早くから本格的な治療を受けられていればよかったと思います。施設を出た途端、自分でも驚くくらい身近に頼れる人が突然いなくなってしまいました。頼れる人と繋がりを持ち続けられたらと痛感しています」
現在は、一時休学していた大学に復学。周囲の支えをえながら、みずからの過去と向き合い、前に進もうと懸命にもがき続けている。
    * 大藪 謙介(おおやぶ・けんすけ)
NHK報道番組ディレクター
1985年、京都府生まれ。2008年、NHK入局。名古屋放送局を経て、2013年から報道局政経・国際番組部で政治番組の取材・制作を担当。日曜討論、国会中継のほか、クローズアップ現代「“政治を変えたい”女性たちの闘い」、目撃!にっぽん「政治家 野中広務の遺言」、NHKスペシャル「永田町権力の興亡・最長政権その光と影」、「パンデミック激動の世界・問われるリーダーたちの決断」などの制作を担当。
    * 間野 まりえ(まの・まりえ)
NHK社会部記者
1988年、愛知県生まれ。2011年、NHK入局。京都放送局・甲府放送局を経て、2018年、報道局社会部へ。警視庁クラブや厚生労働省クラブで事件・社会福祉を取材。NHKスペシャル「#失踪 若者行方不明3万人 座間9人遺体事件」、クローズアップ現代+「徹底追跡! “アポ電強盗”本当の怖さ」、「幼保無償化 現場で何が」、「“新たな日常”取り残される女性たち」などの制作を担当。



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