内分泌代謝内科 備忘録

糖尿病足感染症

糖尿病足感染症
Eur Rev Med Pharmacol Sci 2019; 23: 26-37

微小血管合併症である糖尿病性足潰瘍(diabetic foot ulcer: DFU)は、死亡率の大幅な上昇に関連している。DFU は神経障害、末梢動脈疾患、足の変形、感染症などが複雑に絡み合っている。足の感染症は頻度が高く、壊滅的な合併症を引き起こす可能性がある。感染症は足潰瘍の半数以上で発症し、下肢切断 (lower extremity amputation) に至る最も多い要因である。

微生物叢 (microbial flora) の合併症は、表在性蜂窩織炎 (superficial cellulitis) から慢性骨髄炎 (chronic osteomyelitis)、壊疽性下肢切断 (gangrenous extremity lower limb amputation) まで多岐にわたる。

軟部組織や骨の感染が確認されていない創傷では、抗生物質による治療は必要ない。軽度および中等度の感染症では、グラム陽性球菌を対象とした経験的治療が必要であるが、薬剤耐性菌による重症感染症では、侵攻性の強いグラム陰性好気性菌や偏性嫌気性菌を対象とした広域抗菌薬が必要である。

はじめに
糖尿病患者における足潰瘍の感染は生活の不便 (discomfort)、身体的および精神的な生活の質低下、医療機関への受診、創傷処置、抗菌薬治療、外科的切除/デブリードマンのリスク上昇の原因となる。そのため、糖尿病足感染 (diabetic foot infection: DFI) は糖尿病に関連する入院と下肢切断の両方の素地となる。

DFI の急性期においては起炎菌の同定はしばしば遅れるので、経験的治療を行わざるを得ない。Peters によれば、糖尿病患者における DFI のリスクについての報告は生涯リスクで 4%とするものから、年リスク 7%までと幅広い。

感染が骨などの深部組織に至っている場合は、糖尿病性足骨髄炎 (diabetic foot osteomyelitis: DFO) に発展する。DFI は入院が必要となる糖尿病関連の合併症で最多であり、DFO は DFI で入院している患者の 44-68%に存在する。

DFI は炎症や排膿の存在から臨床的に評価されるべきであり、次いで重症度が決められる。これにより、臨床医は 1. どの患者を入院させるべきか?、2. 画像検査を行うべきか?、3. 外科的治療を行うべきか? を判断しやすくなる。

多くの微生物が単独または複数で DFI を引き起こし得るが、グラム陽性球菌 (Gram-positive cocci: GPC) 、とりわけブドウ球菌 (staphylococci) が最も多い。

最も良いアウトカムを達成し、下肢切断 (amputation) を回避するためには DFI の治療は系統的アプローチで行うべきである。適切かつ速やかに治療が行われなかった場合は、DFI は壊疽 (septic gangrene) に至ることもある。非外傷性の下肢切断の 60%以上が糖尿病患者で行われている。

骨髄炎が存在する場合は、診断、治療、手術のために入院コストを上昇させる。骨髄炎がある場合は、抗菌薬の使用が少なくとも 2倍になる。下肢切断が必要な場合は、しばしば高位切断 (下腿切断 transtibial amputation) が行われる。これは感染が制御できないためというよりは、不可逆的な虚血のためである。

しかし、下肢切断は糖尿病に関連するさまざまな (multimodal) 足の問題の結果であり、多職種連携が必要である。

糖尿病患者を診る全ての臨床医は DFI をどのように予防し、診断し、治療するのかを理解する必要がある。この領域では多くの研究がなされており、本総説は臨床医に DFI に関する研究の最近の進歩を知らしめることを目的とする。

糖尿病足感染症の病態生理

足は糖尿病の病態生理の多くが関わる部位であり、その病態生理には、ほとんど全ての組織、すなわち皮膚、皮下組織、筋、骨、関節、神経、血管が関与する。

DFI は糖尿病足潰瘍の原因というよりは結果である。DFI はふつう皮膚に亀裂 (split) が入ることから始まる。典型的には外傷 (機械的損傷や熱傷) によって皮膚に創ができる。

感染は微生物が宿主の組織に侵入、増殖し、炎症を引き起こすことによって定義される。この結果、組織は損傷する。DFI は糖尿病患者のに外顆 (くるぶし, malleoli (複数形), malleolous (単数形) ) より下部の軟部組織または骨に起こる感染症と定義される。

糖尿病患者が DFI を発症するリスク因子としては、神経障害、血管障害、免疫不全、足の生体力学などがある。末梢神経障害による知覚の喪失は最も早くから現れ、最も頻度の高いリスク因子であり、足潰瘍の発生母地である。足潰瘍をともなう糖尿病患者の 60%に神経障害を認める。糖尿病患者における神経障害は、感覚神経、運動神経、自律神経の障害によって記述され得る。

運動神経の障害にによって筋組織 (musculature) のバランスが失われることは筋萎縮 (muscle wastage) 、足底の荷重部位の移動 (dislocation of food pats) 、足の変形 (foot deformity, 下垂足 (drop foot), 槌趾 (hammer toe), 鉤趾 (craw toe), 尖足 (equinus deformity) など) を引き起こし、受傷しやすくなる。

下垂足
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/17814-foot-drop

槌趾、鉤趾
https://www.med.gifu-u.ac.jp/neurology/column/observation/20190301.html

尖足
https://www.limblength.org/conditions/equinus-foot-deformity/

知覚が低下することにより、下肢への侵襲はしばしば気づかれなくなる。知覚が低下した部位は、立位保持や歩行のために繰り返し足底圧 (plantar pressure) やせん断応力 (shear stress) を受け続けて下肢の感覚神経を障害するので状態は悪化し続ける。

汗腺や皮脂腺の機能が失われるのにともなって、糖尿病患者の足は乾燥し、角質化する。自律神経障害が存在すると、発汗機能 (sudomotor function) と足底の血流異常が促進される。汗腺と皮脂腺 (sebaceous gland) の機能の分布が変化することにより、皮膚は乾燥し角質化する。これにより、皮膚に亀裂が入りやすくなり、感染の侵入門戸となり得る。

糖尿病による血管障害は糖尿病患者の死亡や合併症の原因として最も多い。大血管障害は下肢の動脈おける広範囲で多部位に及ぶ動脈硬化として認められる。下肢の動脈硬化は側副血行路の発達による障害とも関連する。これは動脈硬化による閉塞性血管障害であり、下肢の末梢動脈疾患 (peripheral arterial disease: PAD) 発症につながる。

糖尿病患者の PAD の病態生理についてはよく分かっていないが、他の動脈硬化性疾患で観察される動脈の変化と同様であろうと信じられている。Peters らは下肢切断、PAD、そして神経障害の既往が存在することが DFI のリスク因子であることを示した。細小血管障害 (microangiopathy) は毛細血管の基底膜肥厚、栄養供給の変化、末梢組織の虚血を来す。

義足 (prosthetic toe) を装着したミイラが発見されていることから古代エジプトの時代から糖尿病足病変が存在した証拠がある。Pryce は 1887 年に糖尿病に関連する足潰瘍の症例を報告している。

足を清潔に保つこと (foot hygiene) への意識が低いことと、合わない靴を履いていることが、DFI 発症の予防に重要なリスク因子である。DFI は爪白癬から壊疽までと幅広い。下肢の感覚低下や視力低下、臨床医の判断力が乏しいこと原因で、早期診断および迅速かつ適切な治療ができないことがある。擦過傷 (abrasions)、皮疹 (rashes)、皮膚統合性 (skin integrity) の喪失が DFI 発症の端緒となり得る。

DFI の 60%は趾間 (webbed space)、30%は爪、10%は皮膚穿孔部位から発生する。臨床像は、蜂窩織炎から壊死性筋膜炎 (necrotising fasciitis) までと幅広い。

デブリドマン (debridment) は徹底的に (meticulous) 行うべきであり、しばしばデブリドマンを繰り返し行う必要がある。治療の優先順位は、1. 感染のコントロール、2. 虚血と再灌流の可能性について評価、3. 創部の除圧、4. 創部のデブリドマンと被覆によって創傷治癒を促進することである。

合併症をともなう糖尿病性足潰瘍の治療については多くの治療介入が必要となるかもしれない。計測、X 線写真、眼底検査 (? fundoscopy) で潰瘍の評価を行ったら、動脈ドップラー超音波を行っても良い。

糖尿病患者においては免疫不全が存在することが感染しやすさに寄与しているのではないかと考えられている。高血糖に続発する宿主防御の障害には、1. 白血球機能の障害と 2. マクロファージの形態変化がある。Bagdade らは血糖コントロール不良な糖尿病患者では白血球の貪食能が有意に低下しており、微生物排除の速度の改善は高血糖の是正と直接相関することを示した。成長因子やサイトカインによる遊走の低下とメタロプロテアーゼの過剰は炎症状態を延長させることによって正常な創傷治癒を妨げる。

空腹時高血糖と開放創の存在が存在する場合は異化が亢進する。インスリン作用が欠乏すると蛋白質の分解による糖新生が起こることにより、窒素バランスがマイナスになる。この代謝障害は蛋白質、線維芽細胞とコラーゲンの合成を障害し、システム全体の機能不全に発展する結果、ついには低栄養による免疫不全に至る。ある研究によると、血清血糖 >150 mg/dL では免疫システムが障害されることが示唆される。糖尿病患者では感染に対して脆弱になり、逆に感染は血糖コントロールを悪化させる。このサイクルの繰り返しによってコントロールできない高血糖が生じ、さらに宿主の感染に対する反応が影響を受ける。

足の構造

足はいくつかの骨が組み合わさってできた構造であり、末梢の踵骨の (? calcaneal) 集合を経て、あるいは直接に隔壁を穿孔させることによって感染が広がっていく。さらに、足底筋腱 (plantar tendon) 、腱膜 (aponeurosis)、筋鞘 (muscle sheath) や筋膜 (fascia) などの軟部組織は感染に抵抗できない。骨の感染は感染が骨皮質 (cortex, 骨炎: osteis) や骨髄 (bone marrow, 骨髄炎: osteomyelitis) に連続的に波及することで起こる。

無菌の金属プローブを潰瘍底に差し入れてみよう。金属プローブの尖端が骨にまで達した場合、ほぼ確実に骨の感染がある。1. 潰瘍の面積 >60 mm2、2. 洞管から排膿が続いている、3. 赤血球沈降速度 >70 mm/時、4. 趾炎 (sausage toe, dactylitis) を認める場合は骨髄炎が示唆される。

sausage toe の肉眼所見
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7949810/

単純 X 線写真は骨髄炎を確認するのに費用対効果が高い画像検査である。他に感度の高い検査としては、CT スキャン、MRI, ラジオアイソトープスキャンがあり、骨と軟部組織の高解像度な画像が得られる。

DFI の独立した危険因子としては、1. 骨に達する創、2. 創を繰り返していること、3. 下肢切断の既往、4. 神経障害、5. 外傷による創、6. 末梢動脈疾患の存在がある。

感染の評価

感染を臨床的に評価するためには、壊死組織と胼胝 (callus) を適切にデブリドマンして、創全体が見えるようにする必要がある。感染の診断は、1. 排膿の存在または、2. 古典的な炎症所見 (発赤、浮腫、熱感、圧痛、自発痛、硬結: induration) の 2つ以上を認めることに基づく。しかし、糖尿病患者では、神経-炎症反応 (neuro-inflammatory function) が鈍く、感染の典型的所見を認めないことがある。

神経障害をともなう足に認める二次的な所見としては、脆い (friable) 、変色した肉芽組織 (granulation tissue)、悪臭 (foul odour)、非膿性の分泌物や創傷治癒の遅延がある。1. プローブが骨に達する (probe to bone: PTB)、2. 30日以上存在する皮膚潰瘍、3. 足潰瘍を繰り返している、4. 外傷による潰瘍、5. 末梢動脈疾患の存在、6. 下肢切断の既往、7. 痛覚が失われている、8. 腎不全、9. はだし (barefoot) で歩いているなどの DFI の危険因子を評価することは重要である。

潰瘍の 1. 大きさ、2. 深さ、3. 潰瘍底、4. 辺縁、5. 見た目、6. 出現部位などの特徴をよく記述しておくことは、治療中に改善しているかどうかを判断するために必要である。治療方針を決めるためには、潰瘍底に肉芽組織や壊死組織 (slough)が存在するかどうかを念入りに評価するべきである。DFI 患者では、リスク因子により構造化した手順に従って虚血と神経障害の有無をきちんと評価するべきである。発熱、頻脈、頻呼吸が存在する場合は潰瘍に感染をともなっている可能性を示唆する。循環の状態は末梢の脈拍を全て触診するか、携帯型ドップラーを用いて評価するべきである。ABI は PAD の診断によく用いられる非侵襲的な検査である。しかし、動脈の石灰化による偽高値では追加の検査が必要になる。糖尿病性足潰瘍とその治癒過程では神経学的な検査も必要になる。

糖尿病性足潰瘍の微生物学

糖尿病性足病変の主な目的は下肢切断の回避である。糖尿病足潰瘍と足以外の部位の創部については創傷治癒の原則は同じように当てはまる。

以下の 3 つの条件が満たされれば糖尿病足潰瘍の治癒は起こる。すなわち、1. 動脈灌流が十分である、2. 感染が適切にコントロールされている、3. 創部の免荷が行われているの 3 条件である。さらに、創周囲の感染 (創部の病原微生物が定着、侵入) を速やかに認識することも重要である。これらの感染は高血糖により宿主防御が撹乱されている状態では起こりやすく、局所組織を傷害する。感染は最初は軽微な問題であるが、特に管理されない場合は進行し、深部組織、関節、骨を冒す。

病原微生物を調べることは DFI 管理の重要な一面である。糖尿病患者における足の創部は正常の皮膚が備えている防御機構の多くが失われており、侵襲性微生物の侵入門戸となる。増殖していない病原体の存在は「コンタミネーション contamination」と呼ばれ、創部から微生物が速やかに分離される場合は「定着 colonized」と呼ばれる。限界近くまで定着が進んでいる、あるいは定着から侵入 (invation) に移行しつつある状態では、創傷治癒は遅延する。そして、微生物-宿主関係が変化することにより病原性は増加する。緩慢になった免疫反応は感染を助長する。創部に細菌が定着した状態から感染に進行した場合は、起炎菌を特定するために細菌学的検査を行うべきである。

臨床的に明らかな DFI では適切な (apposite) 抗菌薬全身投与が必要であり、これは起炎菌を同定することで最もよく実現できる。創深部から採取した検体 (deep tissue samples) など適切な検体が採取できれば真の細菌叢 (flora) を明らかにすることができ、創部の擦過によって得られた検体 (スワブ, swab) よりも役に立つ。なぜなら、後者は創に定着している病原体を拾っているだけであり、偽陰性であるかるかもしれないからである。潰瘍底の掻爬 (curettage) や切除 (tissue scraping) によって得られた検体は適切に嫌気性および好気性菌の検査が行われれば、より適切な結果が得られるだろう。スワブや組織検体は CLSI ガイドラインに則って、表現系検査が行われるべきである。これは検体を選択培地あるいは標準培地で培養し、同時に抗菌薬感受性検査を行うことで実現される。伝統的なグラム染色などの染色と顕微鏡による観察でさらに病原体を特徴付けることができるようになる。これらの検査の欠点としては、1. 結果が得られるまでに数日がかかる、2. 通性嫌気性生物 (fucaltative organisms)、 3. 抗菌薬投与中の患者では有用ではないことが挙げられる。

感染をともなう長期間存在する糖尿病性足潰瘍では、ふつう多くの菌が関与している (polymicrobial)。Gadepalli らによる糖尿病足病変 80 例を対象にした臨床微生物学的研究によれば、82.5%は複数の細菌が関与しており、患者ひとりあたり 平均で 2.3 種の細菌を認め、好気性菌と嫌気性菌の比は 5.5 だった。最も頻度が高く分離される細菌は 黄色ブドウ球菌、プロテウス属、大腸菌である。嫌気性菌では、ペプトストレプトコッカス属、ベイロネラ属、バクテロイデス属が多かった。Zubair らによる他の研究では、DFI 症例の 65%は複数の細菌が関与しており、好気性菌では大腸菌、黄色ブドウ球菌、嫌気性菌ではペプトストレプトコッカス属が多かった。

初発の DFU ではグラム陽性球菌によって感染を来すことが多く、ほとんどの場合は単菌による感染 (monomicrobial) である。一方、慢性的あるいは重度の感染を来している病変ではグラム陰性好気性菌や嫌気性菌を含む複数の細菌による感染 (polymicrobial) である。Breen らは黄色ブドウ球菌は DFI における最も重要な病原体であり、複数菌による感染の起炎菌のひとつであると示している。グラム陰性菌の中では、大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス属が最も重要な病原体であり、緑膿菌がそれらに次ぐ。慢性あるいは再発性の創部では、グラム陰性桿菌、特に腸内細菌科由来のものが検出される。深部組織に達する創部や虚血壊死部では、偏性嫌気性菌 (obligate anaerobes) が感染する。

湿ったものに覆われた創部では、緑膿菌感染が多く、温帯でしばしば認められる。

足潰瘍では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant staphylococcus aureus: MRSA) が検出される頻度は高いが、通常のデブリドマンと局所治療で除菌される。

私たちの予備調査では、グラム陽性球菌は最も多い病原体であり、MRSA の割合は 59.4%と極めて高かった。私たちのクリニックでは DFI 起炎菌の上位 6 種でおよそ 70%を占めることが明らかになった。これらの菌の耐性率を以下に示す。

黄色ブドウ球菌については、耐性率は 59.4% (MRSA)、65.9% (アモキシシリン/クラブラン酸耐性)、64.1% (シプロフロキサシン耐性)、0.6% (テイコプラニン耐性)、0.4% (バンコマイシン耐性) だった。リネゾリド耐性は認めなかった。

緑膿菌については 100%の感受性を示す抗菌薬は存在しなかった。抗菌薬への耐性率は、58.5% (シプロフロキサシン耐性)、44.5% (ゲンタマイシン耐性)、34.1% (セフォタジジン耐性)、39.1% (イミペネム耐性)、28.2% (メロペネム耐性)、18.3% (アミカシン耐性) だった。

プロテウス·ミラビリス (Proteus mirabilis) については、メロペネムに対する耐性は認めなかった。一方、他の抗菌薬に対しては以下の割合で耐性を認めた。79.7% (アンピシリン耐性)、60.9% (シプロフロキサシン耐性)、45.2% (セフォタキシム耐性)、42.6% (アモキシシリン/クラブラン酸耐性)、37.5% (セフォタジジム耐性)、14.1% (アミカシン耐性) 。

エンテロコッカス·フェカリス (Enterococcus faecalis) についてはリネゾリドに対する耐性は認めなかった。他の抗菌薬については以下の割合で耐性を認めた。4.3% (バンコマイシン耐性)、4.2% (テイコプラニン耐性)、3% (アンピシリン耐性)。

大腸菌については、イミペネムとメロペネムに対する耐性を認めなかった。一方、他の抗菌薬に対しては以下の割合で耐性を認めた。80% (アモキシシリン耐性)、69.4%(シプロフロキサシン耐性)、25% (アモキシシリン/クラブラン酸耐性)、37.6% (セフトリアキソン耐性)、35.3% (ゲンタマイシン耐性)、31.8% (セフォタジジム耐性)、1.2% (アミカシン耐性) だった。

バクテロイデス·フラギリス (Bacteroides fragilis) については、21.4%でピペラシリンに対して耐性である一方、アモキシシリン/クラブラン酸やイミペネム、メロペネムに対しては耐性だった。

多剤耐性菌 (multi-drug resistant organism: MDRO) による感染をともなう皮膚潰瘍の頻度は注目するべきであり、耐性パターンは注意深く監視されるべきである。軽度~中等度の DFI は経口抗菌薬で治療され得る。一方、慢性感染症については入院の上で抗菌薬治療、外科的治療、代謝障害のコントロールが必要である。

DFI は最初はグラム陽性球菌をカバーした経験的レジメンで治療するべきである。慢性感染症ではグラム陰性桿菌をカバーするように抗菌スペクトルを拡げても良い。壊死や悪臭 (foul smelling) をともなう創部は嫌気性菌のカバーも必要である。

骨感染の確定診断には、ふつう 1. 骨感染に矛盾しない組織学的所見と、2. 無菌的に (aseptically) 採取された骨組織の細菌学的検査が必要である。しかし、これらは 1. 診断が疑わしい場合や、2. 起炎菌の抗菌薬への感受性を決定することが極めて重要である場合のみ必要となる。骨感染の初期治療は非経口 (parenteral) 抗菌薬で行うべきであり、治療期間は 6 週間まで延長することができる。慢性骨髄炎は外科的介入 (すなわち腐骨の除去) が必要である。

DFI の分類

潰瘍の大きさや深さ、見た目、出現部位を十分に記述することで治療経過を把握できるようになる。潰瘍を評価し、潰瘍の原因を見極め、病変が神経障害によるものか、虚血によるものか、あるいはその両方によるものかを決めるべきである。

糖尿病性足病変の重症度を評価するさまざまな分類が用いられてきた。これらの分類は潰瘍の大きさや深さ、虚血、感染、神経障害など異質な潰瘍の特性を包含する (encompass) ことを試みている。

最もよく用いられる分類のひとつは Wagner-Meggit 分類である。これは虚血肢を対象として作られたものだが、過去 25 年にわたり病変の分類に用いられている。この分類では、潰瘍の深さ、壊疽の有無、壊死の程度を勘案して、病変を 6 段階に分類する。Wagner-Meggit 分類は最もよく用いられている分類のひとつだが、虚血や感染などの合併症などの重要な臨床パラメータについては考慮していない。

テキサス大学分類 (The University of Texas system) ではまず潰瘍の深さに基づいて病変を分類し (grade)、次に潰瘍に感染をともなっているかどうかで病期を決める (stage)。具体的には、テキサス分類では、grade 0 は前潰瘍 (preulcerative site) または潰瘍後 (postulcerative site) を表す。grade 1 は表皮 (epidermis) または表皮および真皮 (dermis) に及んでいるが、腱や関節包や骨にまで達してはいない表在性の潰瘍である。grade 2 の潰瘍は腱や関節包に達するが、骨や関節には及んでいないものである。grade 3 は骨や関節に達する創である。それぞれの grade には以下の 4 つの stage がある。

A: 清潔な創部
B: 感染をともなうが虚血はともなわない創部
C: 虚血をともなう創部
D: 感染と虚血をともなう創部

S (AD) SAD 分類では、潰瘍を 5 つの特徴 (大きさ、深さ、敗血症 [sepsis]、動脈病変 [arteriopathy]、脱神経 [denervation] に基づいて、0-3点の 4 段階に点数化する。

同様に国際糖尿病足病変作業部会 (International Working Group on the Diabetic Foot) は PEDIS 分類 (Perfusion [灌流→虚血], Extent [広さ], Depth [深さ], Infection [感染], Sensation [知覚→神経障害] を提案している。この分類では、潰瘍の大きさ、深さと、虚血、感染、神経障害の有無の 5 つの特徴で分類している。

最後に米国感染症学会 (Infectious Disease Society of America) のガイドラインによれば、糖尿病足感染症は、非感染、軽症 (皮膚と皮下組織に限定される)、中等症 (より広範または深部の組織に及ぶ)、重症 (全身性の感染徴候または代謝の不安定性をともなう) に分類される。

不完全な臨床分類では、末梢神経障害および末梢動脈疾患がどのように潰瘍形成に関与するかを調べることで、糖尿病足潰瘍は神経障害性 (neuropathic), 虚血性 (ischemic), 虚血および神経障害性 (neuroischemic) として記述され得る。

適切な抗菌薬の選択

DFI の診断が確立したら直ちに抗菌薬治療を開始するべきである。NICE (2016) ガイドラインでは全てのプライマリケアにおいて、ローカルな抗菌薬耐性の状況を考慮した DFI に対する抗菌薬治療のレジメンを用意すべきであるとしている。

抗菌薬の選択は、1. 想定される起炎菌、2. 感染の重症度、3. DFI に対する治療効果と認識されているコストについてのエビデンスに基づくべきである。

NICE ガイドラインはさらに、抗菌薬の選択にはケアのセッティングや患者の好み、臨床的な状況、患者の既往歴も考慮されるべきだとしている。

IWGDF と NICE は DFI の重症度別の抗菌薬治療の推奨を作成している。

·軽症では、グラム陽性菌に有効な経口抗菌薬で治療を開始する。通常は 1-2 週間の抗菌薬治療で十分である。

·中等症および重症では、グラム陽性菌だけでなく、嫌気性菌を含むグラム陰性菌に対しても有効な抗菌薬を投与する。

·中等症では、臨床的な状況や抗菌薬の種類により、経口または初回のみ経静脈的に経口薬を投与する。

·重症では静脈注射で抗菌薬投与を開始し、臨床的な状況や治療への反応性に応じて経口薬に切り替える。

·骨髄炎では、感染骨を外科的に切除していない患者では、ローカルなプロトコルに従って抗菌薬を 6 週間投与する。外科的介入を行い、感染骨を切除した場合は 1 週間以上抗菌薬投与を続けない。

·Lipsky らは臨床的に感染が疑われない創部に対しては予防的に抗菌薬を投与することを推奨しないとしている。さらに彼らは感染予防や予後改善を目的とする被覆材は使用するべきではないと助言している。

糖尿病足感染症の治療

入手可能な研究結果に基づけば、いかなる薬もあるいは薬の組み合わせも他と比べて優れているということはなさそうである。私たちは DFI の治療に用いられる経口および注射薬の抗菌薬をいくつか持っている。DFI の治療には抗菌薬は必要であるが、十分ではないことについてはよく心得ておく必要がある。全ての患者には適切な創傷ケア (デブリドマン、ドレッシング、免荷) が必要であり、多くの患者では外科的治療が必要になる。

ある国際調査によると、DFI 管理プログラムの策定は、不適切な処方を行う病院 96%、広域抗菌薬の使用 86%、抗菌薬の消費 80%、医療介護関連感染症 71%、入院期間または死亡 65%、抗菌薬耐性 58%の減少と関連する。

MRSA 感染は創傷治癒の時間と入院期間を延長させ、外科的治療のリスクを増加させ、治療の失敗につながる。

抗菌薬治療のレジメンはグラム陽性球菌に対する活性を考慮するべきであり、ハイリスク患者では MRSA のカバーも考慮する。

治療歴があるあるいは重症の DFI ではグラム陰性桿菌と腸球菌までカバーを拡げるべきである。

壊疽や悪臭をともなう創部では嫌気性菌もカバーする必要があるかもしれない。

中等度-重症の DFI 患者 90 名を対象にアンピシリン/スルバクタムとイミペネム/シラスタチンを比較したランダム化比較試験では、治療の成功率、有害事象の頻度、抗菌薬治療の期間、入院期間のいずれにおいても有意差を認めなかった。中等症-重症 DFI を来した成人糖尿病患者 586名を対象にした二重盲検、多施設ランダム化比較試験では、エルタペネムとタゾバクタム/ピペラシリンは同等だった。エルタペネム 1 日 1 回投与は腸球菌や緑膿菌をカバーしていないものの有利である。通常は中等症および重症の DFI は注射薬の抗菌薬で 2-4 週、骨髄炎では 4-6 週間治療される。

中等症-重症の DFI では、外科的治療がしばしば必要になり、積極的な切開 (incision)、ドレナージおよび壊死組織のドレナージが行われる。感染の重症度が増すほど、下肢切断や高位切断のリスクが統計的に有意に増加傾向となる。感染の重症度が高くなると、神経障害、血管障害、下肢切断などの糖尿病足合併症のリスクが上昇する。

足の感染は足根管 (tarsal tunnel) を介してより近位の脚に拡がっていくことがある。これにより、急速に下肢を上行していく生命に関わる感染症を来し得る。

DFI に対して早期に外科的治療を行うことで下肢切断が必要になるリスクを減らすかもしれない。糖尿病患者における足感染に対して積極的に外科的治療を行うことは足関節より上位での下肢切断 (above ankle amputation) のリスクを減らすかもしれない。DFI の治療は早期の外科的治療と抗菌薬治療を組み合わせる必要がある。

多くの外科医は現在でも下腿切断 (transtibial amputation: TTA) が治癒しない足潰瘍に対する第一選択の手術であると提唱している。

生体吸収性のリン酸カルシウム抗菌薬ビーズを術後の創部に充填すると前足部の足潰瘍による血栓性微小血管症 (thrombotic microangiopathy: TMA) に対する効果が増す。この方法は修正手術 (operative revision) のために入院期間が延長することを防ぐことにより、糖尿病足潰瘍の治療に対して大きなインパクトを与えうるものである。

補助的治療としては、抗菌薬ビーズ (antibiotic impregnated beads) や陰圧閉鎖療法 (negative pressure wound therapy: NPWT) がある。高気圧酸素療法 (hyperbaric oxygen therapy: HBOT) は DFI の創傷治癒に良い効果をもたらす。

長期間の培養結果に基づいた注射または経口抗菌薬投与を含む保存的治療は足潰瘍や骨髄炎が疑われる場合でも多くの場合では下肢切断を行うことなく効果的に治療できる。

糖尿病足感染症の治療の失敗を予測する因子

治療の失敗率は危険因子 (白血球数·CRP·赤血球沈降速度高値、創部の重症度スコア高値、入院治療、アルブミン低値、男性、感染足の皮膚温が非感染足の皮膚温より 10℃ 以上高い) がある場合は 46%、ない場合は 10%、リスク因子がひとつのみの場合は 16-17%だった。

SIDESTEP study において、白血球数高値、創部の重症度スコア高値 (テキサス大学スコアで grade 2, 3) は DFI 患者の治療失敗についての独立した予測因子であった。ベースラインでテキサス大学スコアが 0 または 1 の場合は治療失敗率が 11%であったのに対し、2B, D および 3B, D では治療失敗率は 23%だった。治療に失敗した患者では白血球数の平均が 9,777 /mm2 であったのに対し、治療に対する反応が良好だった患者では 7,977 /mm2 だった。CRP >9.1 mg/dL と赤血球沈降速度 >54.4 mm/hr はそれぞれ治療の失敗と関連していた。

DFI についてのランダム化比較試験 18 件ののメタ分析では治療の失敗率は 22.7%だった。MRSA の検出は治療失敗と有意に関連しており、骨髄炎合併の有無は予後には影響しなかった。保存的に治療した DFI についての後ろ向き観察研究では、発熱、血清クレアチニン高値、DFI での入院歴がある、壊疽は治療失敗を予測する独立した危険因子だった。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30977868/
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