風の中で~ 「本をみつけた・・・」
2024/10/02
元会社の同僚と年に数回野外料理を楽しむ
今回は秋風をスパイスに「ポテトサンド作り」
ポートレートも撮るのだが……
今回のお題は「木登り」
いや
平衡感覚に自信がないと言って「木座り」の奴もいる
・
ポートレート小道具に「本」は欠かせない
自然の中で本を読んでいる姿は様になる!
モデルが今一の分、小道具でカバーするつもりだ
いや、失礼
満面の笑みを浮かべる奴らに……
小道具は不要だ
・
「会社の同僚」・・・
「本」・・
そう言えば
「本を書いている奴がいた」・・・・・
今回のポテトサンド作りにも誘っているのだが
・・・
早速、奴から頂いた本を書棚から探した
あった!
「僕たちの夏」2005/1/25初版 来戸 廉
早速ひらいて読み返した
本の内容よりも不思議なことに奴のことが蘇ってくる
そう、登場人物が奴と重なるのだ
・
たまにあったときにも、本の執筆に関することは口にしない
ネットで検索してみた
本を書き続けていることが判った
しばらく、いくつかの短編を読んだ
タイトル「何のために」
良いじゃないか
そこで思った
「俺たちのことも書いてくれ」
・
木に登れなくなりそうな俺たちだが……
俺たちの心の中の小宇宙のことを!
若い頃に苦楽を共にした同僚はひと味違う
言わずとも歳月が証明してくれている
20年前に親会社に吸収分裂させられた俺たちだが
不思議と
この歳になっても顔を合わせている
メンバーはいろいろ
・
此処で奴らの
小宇宙を紹介しよう
《バドミントン部の先輩》
青春真っ盛りとばかりバドミントンを続けている先輩だが……
スマッシュとばかり打ち込んだシャトルはヘヤピンショットに様変わり!長い長い滞空時間をさまよい弧を描いてコートに落ちた
《埼玉のテニスバカ》
毎週テニスをしていると言うが、話を聞くと…… 木陰は涼しいとベンチに座りっぱなしで口しか動いていないようだ
《何時もニコニコして畑に顔を出す長靴男》
畑で話をしている本人は”恐妻家”ぶりだが、話の内容を吟味すると最後は”愛妻家”だよな…… と思う奴!
《労組の書記さん達》
入社した頃から組合とは縁があったが、窓口にいる書記さんは可愛かったな!書記局に選べられるだけあって社交性は抜群で、俺たちの集まりに顔を出してくれるのには頭が下がる。イメージが昔のまんまのところが素敵だな!
小宇宙に俺たちの惑星が侵入しているかもね……
《遊びの先輩》
家の前の道路でバッタリ!!! 驚いたな~ 同じ部署の先輩なのに仕事のことを教わったことがないのだが、社会人としての遊び方を教えて貰った先輩だ。今でも、鼻の下を伸して飲み歩いているようだ。
一貫性のない内容になってしまったが
奴らと会話を続けたいと思う
それには
身体を動かして話のネタとやらを造らねばならない
同じ風の中で
下記は、noteサイトに掲載されていた短編です。
「これは、なーに?」
健太が黄ばんだ一枚の紙切れを差し出す。
「ん?」
手渡された四つ折りを開くと、鉛筆書きの拙つたない文字で『人は、なぜ生きているのか』と走り書きがある。多分、私の子供の頃の筆跡だ。
「どこで見つけたんだ?」
「この本に、挟んであった」
それは小学校低学年向けの昆虫の図鑑だった。教科書は疾とうの昔に処分したのに、何故かこれだけは捨てられずに残していた。
私はしばし記憶の森を彷徨さまよう。
「ああ、思い出した」
「なーに?」
「丁度お前ぐらいの年頃かな、理科の先生に質問した時のメモだな」
「ふーん」
なーに君の好奇心は直ぐに何処かへと飛んで行きそうになる。
「そしたらな……」
すかさず私は健太を引き戻しに掛かる。
「そしたら」
「わからないって、先生言ったんだよ」
「えっ、先生にも分からないこと、あるんだ」
「そりゃ、そうさ。それでな……」
私が言葉を繋ぐ前に、いつからいたのか妻が、
「あら、その答え、ママ、知ってるわよ」
と口を挟んできた。
「えっ、本当?」
「それはね……」
妻はそこで言葉を切って、にこりと笑った。妻は、健太の心を掴む術すべを熟知している。
「なーに?」
「それはね……」
妻は溜めに溜めて、健太の逸はやる気持ちが頂点に達した所で、
「パパは、ママのために生きているの。ママは、パパのためにね」
と言った。私はあんぐりと口を開けて妻を見る。
「じゃあ、僕は?」
「もちろん、パパとママのためよ。そして、パパとママは、健太のためによ」
「ママ、すごーい」
私はすっかり毒気を抜かれて声も出ない。
「でしょう。じゃあ健太、ジュース持ってきて」
妻は、健太を体よく追いやって、私を睨にらむ。
「子供相手に、重すぎる話はしないで」
「してないよ」
「でもあそこで私が割り込まなければ、あなた、また小難しい話をしたでしょう。家うちには、そんな理屈っぽい人、二人もいらないの」
後日。
「ねえ。これ、なーに?」
なーに君のアンテナにまた何か引っ掛かったようだ。
「どれ、どれ」
妻が近くにいないのを確かめて、私は健太に声を掛ける。
先日はまんまと鳶とんびに油揚げをさらわれた。今度こそ、「パパ、すごいね」って言わせてみせる。
妻にばかり良い格好はさせてなるものか。
下記は、noteサイトの来戸廉さんのホームページです。
来戸 廉|note
主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。好きな作家は、星新一、阿刀田高、サキ、池波正太郎、柴田錬三郎、葉室麟 他。
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