与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

そらの物語39 「邂逅・前編」

2010-07-31 04:33:04 | そらの物語


 


39


「邂逅(かいこう)・前編」


 


黒の多い、沈んだ濃淡の


水墨画のような曇天なんかに なんら関わりなく、


お互い自分の事で”いっぱいいっぱいの二人”がぶつかった。


心に強く想っていた”その子”が出し抜けに現れ、目の前で泣いている。


この「状況」は 唯それだけでも、ぶつかられた側の「斎元」には”容量オーバー”だ。


 


それは「そら」にしても同じ。怒り心頭で「なんなら道行く人全てに


ぶつかってやる」くらいの勢いで逃走中だったから。


「サソリ」が言った言葉。 それは「そら」に言ってはならない言葉だ。


たとえふざけて言った”ことば”であったとしても、その”ことば”を、


生涯、覆す事ができない、生涯背負って生きなければならないと、


マイナスの方向で、リアルに心に感じてしまったならば、


言われた側の「心の重み」を、”健常者”は理解できるだろうか?


「あいつ、絶対、殺したんねん!!」。そんな気持でいっぱいの「そら」は、


顔中”消炎剤”だらけのまま頬だけ、流れてほしくなかった涙のあとが乾いて、


「筋」になっている。


 


「あっ!!!」 とだけ「斎元」は言って言葉につまった。 


一緒にいた田川は、ほろ酔い気分のご機嫌な調子で、かたまる「斎元」にかわって、


「あ、ごめんね、このお兄ちゃん酔っ払いやから(笑)」と謝った。


「あ!!”しらない人や”!」と、急に明るくなって、「そら」が言った。


「こんなとこにおった!


”しらない人や!!こんなとこにおった!」。


突然の事でも、「そら」は何も考えずに”「パっと」ものが言える”のに対して、


「斎元」は考えてからでないと、何も対応できず、いよいよ「かたまる」ばかり。


二人の”酔っ払った兄ちゃんたち”を見ている「そら」。 瞬きした拍子に、


残っていた涙が頬に付いた”筋”の上をすっと流れた。


「斎元」の脳裏に浮かんだ”ことば”


ーー  水分をよく拭いとる事  ーー


「斎元」はおもむろに”携帯”していた「和解マンのハンカチ」を取り出し、


「あ・・  な、涙、出てるから、これで・・・・」と、「そら」に差し出した。


一緒にいる田川は、「斎元」の”緊迫ぶり”と ”ハンカチ”を受け取る「そら」を見て、


「あっ!!」と思い、口をつぐんだ。  


-この子・・・よしおの言うてた・・・・・-


「あ・ ・ どうも・ ・ 」。と「そら」。 ”ありがとうが言えない”「そら」の、


精一杯の感謝の言葉は”どうも”。 そして


「んん??なんか、書いたあるで、これ」と、涙を拭いて”ハンカチ”を広げてみて「そら」。


「”さ”と、 ”い”と、 ”も”と、 ”と”ってなってる。何んやこれ?」。


「それ、お、おれの・・・」。と言葉がもつれて上手く言えない「斎元」。突然に、


ボタッ!ボタッ!!ボタボタッ!!ボタボタボタ!!!


暗い曇天が裂けて噴き出した”洪水”の様な激しい「雨」。


道行く人々も「うわあ!」と言いながら、足早になる。


3人共傘は持っていなかったが、これでは傘があってもつぶれてしまいそうな勢いの激しい「雨」。


「あははは!!これやったら、なんぼ拭いてもびちょびちょやで!!」。


消炎剤も涙のあとも、一瞬で押し流す勢いの大雨。


「ホンマやな!一緒やな!」と、初めて日本語らしい言葉が自然になった「斎元」。


「斎元」の言葉が激しい雨音で聞こえなかった「そら」は、


”しらない人”の言葉をわざわざ打ち消すように降り出した大雨が面白くて笑顔で、


「えっ?何んて?」。


「なんぼ拭いても一緒やな!!って!」大声で言いながら、「斎元」もなぜか笑顔。


二人のそばで、田川は違和感を感じた。-あれ?こいつら、知り合い?いや、違うよな?-


「斎元」と「そら」の間に、言葉を超えた何かが通じ合おうとしている。


今さらこの雨をどう避けても手遅れなので、


三人共”濡れたい邦題”でいい、というかまえだ。


 


「あの・・・お、おれ・・・・」。


「斎元」には、何か言おうとする「そら」の子供のような肩のラインが、


跳ね返る激しい雨で浮き彫りに光って見えて、しかし、言葉が聞き取れない。


 


「おれが・ ・ ・ おれの ・ ・おれの・・・」。


 


「そら」は自信のない事を言う時、小声で「おれ」を連発するが、その後が出てこないのだ。


ーおれの・・ーの後の言葉を、この豪雨を押し退けてでも、強引に”キャッチ”しようと「斎元」。


「えっ??何??」。


 


「おれを ・ ・・おれを、どっかに、・ ・・どっかに・・・


 


 


おれを、どっかに、つれていって ・・・」。


 


 


「ど、?・・・・・」。


 


「・・ ・うん・・・。おれを、つれていって・・」。


 


再び硬直する「斎元」。「そら」の言葉よりも、自分の心臓の音の方が聞こえてきそうな「斎元」。


大雨は立ち尽くす3人もろとも押し流す勢いで、


全てを打つ様にたたきつけ、自然の大きさを示すようだ。


突然に「大声」が響いた。「おった!!ガキ!!おったおった!」。大雨をものともしない暴漢達の大声と、マフラー音、次いで「そら」の知っている者の大声。


「6号!こっちや!逃げろ!!」。 「ネコ」だ。「6号!!早く!!」。「おいおいおい!な、何んや?こいつら??」と田川。 「斎元」を見つめていた「そら」の目に、急に厳しい光が戻った。「斎元」たちの前方から暴漢達のバイク、後方から「ネコ」。「そら」は唐突に「ネコ!!」と叫んで二人の間をすり抜けて走りだした。 唖然とする「斎元」と田川のすぐ近くを、何かが飛んできて二人をかすめた。 暴漢達が放つ”クサリ”や”鉄パイプ”だ。「わっ!!」と咄嗟にうずくまる二人の向こうで、ガシャン!!という何かが破壊した音。鉄パイプかクサリがどこかに当たって何かが潰れている。次いでバイクの派手なスリップ音と派手なみずしぶき。”わっ”と顔を上げた「斎元」が見たのは、暴漢達に先んじた「ネコ」のバイクが「斎元」たちのすぐそこに荒々しく急停車し、その”ケツ”に飛び乗ろうとする「そら」と、急停車して間なしに急発進の「ネコ」と呼ばれた男だった。「待て!!こらぁガキ!!」と次々に「ネコ」のバイクを包囲する位置につけて来る4~5台の暴漢のバイクは、「斎元」と田川など引き殺しても気にも留めない勢いだ。 「6号!掴まれ!!行くぞ!」飛び乗り遅れて落ちかけの「そら」の腕を捕まえて走り始める「ネコ」。 「ネコ」の”ケツ”に収まった「そら」は振り返り、「斎元」に何か言おうとしたが、もう遅い。「・・・!!」。 「そら」は荒っぽい「ネコ」の運転に飛ばされぬ様にしがみつきながらも、ポケットをまさぐって、出てきたものの全てを、呆然とする「斎元」に向かって”やみくも”に投げつけた。 


ー携帯電話・療育手帳・学生証・そして、友達と作ったカード


一瞬の出来事すぎた。うずくまった「斎元」と田川が立ち上がった時には、「待て!クソ野郎!!」という罵声共々、「ネコ」と呼ばれた男も暴漢達も去っていこうとしていた。 すぐに遠のく”騒ぎの集団”の向こう、ちらちらと「こちら」を振り返る「そら」は、すぐに見えなくなった。


次に思いついた言葉。


ー危険が伴いそうな予感があれば「深追い」はしない事ー


恐ろしいほど”今起こっている事”に対してピッタリ対応している”和解マンのおみくじの説明書き”の言葉。


ボトボトになって肌に張り付いたTシャツを引きはがしながら、


”あの子”が自分に向って投げつけて行った物品を拾い集める「斎元」。


「おれ、絶対殺されると思った!!」と田川。 「で、それ、何投げて行ったん??」。


「あ・・・


みやた・・・そら・・・。


 


そら、 か・・・・・」 。


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1 コメント

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お知らせ (井川)
2010-07-31 05:03:19
この「邂逅・前編・後編」は、もともと一つの話しだったので、明日のお昼前後には「後編」のUPの予定です

「前編・後編」合わせると、けっこうな長さになってしまいますが、何卒ご了承くださいませ

「そらの物語」は、この「邂逅」をもって、いったん休憩になりますので、合わせてよろしくお願いいたします~
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