「えびす・1」
ー おまえら あほやろ?? ー
これが「そら」の 「えびす」デビューの一言だった。
「逃げる時」以外は ちゃんと信号を守る事と
「走る所」は みんなが走っている車線を
同じように走る事
これが 「そら」の「交通ルールの全て」である
子供連れとお年寄りが ゆっくり歩いていたら
笑顔で道をゆずる瞬間が 「そら」にはたまらなく
自分にしびれる瞬間である
14歳の「そら」は 当然 無免許であり
常に乗り回しているお気に入りのスクーターは 見るからに盗難車だ
唯一それが 不満といえば不満であったので
赤のスプレーでナンバープレートに 「ばってん」を入れてみたら
だいぶと " まし " にはなったが
盗難車である事は 前より明らかともなった
そんな「そら」は 暴走グループ「えびす」の仲間となったが
そのきっかけも 「デビュー」も とても不愉快だった
それはちょうど 私達と「そら」が出会う2008年の前年の事で
全国的なニュースとしても 取り上げられた出来事にもかかわるので
「私達以外の記述」で 下記に示そう
2007年 大阪府は何段階かにわけて、暴走族の大きな組織「関西連合」の一斉摘発を行い、大きな成果を挙げる事ができた。 彼らの言う「関西」には、一部 名古屋地域や、四国方面の暴走グループも含まれていた為、その成果は全国にも波及する効果があった。
「関西」という大きな単位での暴走族の「総会」が行われる際、必ず関連する大きな産業道路を、暴走族の「大名行列」が交通渋滞を巻き起こすが、それは 言わば「おとり」であり、「総会」を無事・成功裡に終える為の、当局のかく乱目的の「かませ犬」的な「大名行列」でもあった。 「えびす」は、そうした「かませ犬」の一つであり、「族」の「中大阪ブロック」の代表であった。
この夜も「えびす」の5名は、40~50台の暴走集団と共に、163号線を寝屋川方面から守口方面に向かい、爆音を轟かせながら平均30キロ程度の「はた迷惑」なスピードでゆっくりと、片側2車線を埋め尽くす大行進を行っていた。 この大行進の後ろにも又、同じく守口方面に向う一般車両の、苛立たしげな行列が続いていた。 この大行進には、信号も標識も、交通法規もありえなかった。 迷惑行動といっても、これだけ盛大な動員数となると、警察も簡単に取り締まる事は難しい。 連合・本体の「総会」が終わる前後の数時間、163号線を舞台にこの大行進は続く。 近隣地域は激しい怒りの空気に満ち満ちて、しかも「やられたい放題」だ。
しかし、この日の大阪は違っていた。 広域に渡る警戒網は、遠く名古屋や四国地方にも周到に敷かれ、総会が終わり各地域の「大名行列」が分散するタイミングを待って、全ての「かませ犬たち」を一気に捕獲する勢いに、息を沈めて燃えていた。
そうした、微妙な空気の中、163号線の「大名行列」は、ちょうど163号線と中央環状線の交錯する大きな交差店を「封鎖」するかたちで、突然に動きを止めた。 そして、連合・本体からの何らかの指示を待つ様子だ。それは、ついさっきまで鳴りっぱなしだったド派手なクラクションの大合唱や、そこかしこに放り投げて回っていた爆竹のけたたましい音が、全くしなくなった事でわかる。近隣地域の「傷だらけにされた夜」は、一瞬平和を取り戻し、「行列」に行く手を阻まれた一般車両は固唾を呑んで、事の成り行きを見守っている。 「大名行列」の最前線でTOPを張るのが「えびす」のリーダー、「1号」と呼ばれる男だ。般若(はんにゃ)のような顔だち、短く刈り込んだ軍人の様な頭、鉄の様な冷めた目つき。やや大柄な身体つきで、1100CCのバイクから降り立った「1号」は、周囲の側近に何か指示を出している。「大行進」の間、多くの「族」たちはただひたすらに騒ぎを起こす事に徹っして楽しめばよかったのだが、この先頭集団だけは緊迫していた。いつ飛んで来るかも知れぬ連合・本体からの指示、そしていずれ来るであろう、警官隊の乱入、そうなった際の各グループの逃走経路・・・。側近の連絡係の者が、携帯を耳に当てたまま「はい!はい!わかりました!!了解しました!!」と、軍隊的な対応の後、居住いを正し、敬礼のように深く頭を下げ携帯を切り、その内容を「1号」に伝えている。連合・本体からの、何らかの「指示」だ。電話での「指示」の内容を聞き終えた「1号」は、その者に「わかった、ありがとう」という手の仕草をしてすぐ、自身の無線機を手に取り、後続の各グループのリーダー達に指示を発報した。
少しの間、静まり返っていた「行列」全体が、再びけたたましいマフラー音の大合唱をはじめ、今まで2車線を埋め尽くしていた「族たち」が一気に動き出し、片方1車線に移動を始め、またたく間に集結し、一般車両がこの「大行列」を追い越せるようにした後、もう1度、静まった。次いで、行列最後尾のメンバーで「ノボリ」や「旗」を担いだメンバー数名がバイクから降り、さらにその後ろに続く一般車両に向って「ノボリ」や「旗」を使い、「道を空けたので、追い越せ!」というゼスチャーをした。「大行列」を横手に恐る恐る、ゆっくりと追い越していく一般車両。何をするかわからぬ連中の横手を抜けていくのは、気持ちの良いものではない。
いったん静まった空気の中、連合・本体からの次の指示を待つ先頭集団。おそらく、次で、総会の終わりとその後の逃走の指示となるだろう。バイクから降り立ったまま、「1号」は、「その後」に神経を研ぎ澄ます様子だ。そして、にわかにざわめきが起こった。しかしそれは、連合・本体からの連絡の為ではなかった。
「1号」達先頭集団の進行方向の先から、出し抜けに小さなスクーターが飛び出し、道路の真ん中を逆走する仕方であらわれ、「大行列」に「対峙」する様に、先頭集団の目の前に止まり、大声でこう言ったのだ。
「 おまえら! あほやろ??! 」
「そら」だ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます