与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

そらの物語25 「集団心理」 

2010-04-13 10:26:48 | そらの物語


「集団心理」


 


「これは、信用問題ですよ!どうするんですか?」


スーツの男は、ヒューマン・ワークスの誰かと何度も電話でそんな話しをしている。


せっせとビラを1000枚の束にして、数珠つなぎに並ぶメンバーに手渡して行く「サソリ」から、そのやり取りが聞こえぬよう 少し離れてはいるが、「斎元」と田川からは丸聞こえだ。


「宗教の勧誘ビラか何かですよ!これ!しかも、責任者が・・・あ、はい、えっ?契約は交わしてしまった後だから・・いやいや、これ、でも、もしただの”檄文まがい”のビラでなくて、オウムみたいな、事件性の濃い団体だったら、もう、ヒューマンのイメージが・・・」


「現場」にいるスーツの男の危機感は、なかなかヒューマン・ワークスの事務所には伝わりにくい様子だ。 ビラの束とは別に、メンバー、一人に一枚づつ、ビラがまわされてくる。 「おまえら、待ってる間、よく読んどけよ!!」と大声で「サソリ」。 「斎元」が1000枚束の順番に並びながら田川に「見てみ、たがっち、ほら」と、視線でスーツの男の慌てぶりを指して言った。 「めっちゃ、あわててるな(笑)」 「うん、ヤバそうや(笑)」 すると、同じく並んでいたメンバーの男が「これって、後で事件とまではいかんでも、けっこうな問題になるんちゃうかなあ?」と話しかけてきた。 「そうですよね!なんか、そんな感じ、しますよね!」 


不思議と人間は、 ”巻き込まれた者どうし” で「他人」の感覚が薄らぐものだ。 まったくの「他人」なのに、 ”その事” について話し合っても、不自然でない空気。 例えばちょっとした交通事故で、倒れている人と出くわした時の様な・・・通り過ぎかけて、驚いて立ち止まった人どうしで、「ええっ?!警察に電話しました?」 「ああ!さっき、バイクの兄ちゃんが慌ててしてたで!」 「ああ!ほんまあ!!で、この人、大丈夫なん?」 「うん、ちょっと動いてるから、たぶん・・」 「そうやな、警察か救急車が来るまで触らん方がええな」 「そやな」   といったふうな・・・・・。妙な「共有感」が生まれる。 京橋・京阪モール、シャッター前の100名が一様に ”分かち” 始めていた根本的な ”不安” 。 大々的に「普通でない事をさせられる」、もしくは「あまり効果の期待できない、意味のない事をさせられる」、という感覚。 これほどの人数を集めて、こんなビラを撒いて、いったい何んの得があるというのか? 本当に暴動を起すつもりなのか?そうは、思えない。やはり、宗教的な発想なのか?このビラの ”語り手” の「和解マン」なる人物は、何をしようとしているのか? 集団のあちこちで、よく似たボソボソ声での語らいが潮騒のように広がって行く。


「だって、一人、時給1600円って事は、派遣会社には2000円は払ってるやろ?一人8時間の100人分で単純に計算して・・・・えっと、なんぼや??」と田川。 「160万円!!」 と「斎元」が答える前にメンバーの男。 その男の方を振り返りながら「斎元」が「うっわぁ!月収20万切ってるおれには、考えられへんなあ!!8ヶ月分の給料の全部を一晩で使ってしまおう!って事やもんなぁ!!これしかも、ビラの印刷代とかタウン・ワークの広告費用とかも いってる訳やろ?!やっぱ、 ”教祖” は ”金” 持ってるってか!」 。「すげえ・・」 「うん、すげえ・・・・」 「ほら、前に、オウムが選挙に出た時、街中に浅原ショウコウのお面被ったアピール隊が出てきてって、あったやん!あれも、ごっつい金かけた宗教的な ”パフォーマンス” やったんやろ?」 と田川。 「いや、細かくは知らんけど、このビラ配りもな~んかそんな、おかし~な感じやで。取りあえず ”キモい” な!このビラ配りは、絶対、”キモい” !デンジャラスや!」 。 「斎元」がそううなずきながら続けた「おれらを使った、 ”何したいか分からんパフォーマンス” やな! もしヤバかったら、速攻逃げよな!」 「おお!速攻や!」と田川と男も。


 


駐輪場で、「カイ・ヘビ」が息を呑んだ。賑やかな夜の京橋であっても、「ゴクリ」という音が聞こえそうだ。 「一の妄」は集団の足元をすり抜けて、もうビラの束を手渡していく「サソリ」のすぐ近くに潜み、 ”ものものしく現れる” タイミングを狙っている。 「一の妄」は、その ”X型のイガイガ” の角度を変えると、ちょうど ”十字架” のような形状となる。 ちょっとした ”おばけ屋敷のおばけ” のようだ。 電話口の「よも清さん」が言った。「カイさん、申し訳ないのですが、この通話、しばらく繋いだままにしておいて頂けませんか?」 「OK!!よも清さん。取りあえず、一の妄さんは、中心でビラの束を配ってるサソリのすぐ近くです」。 ヘビが集団の中心から目を離さずに、「サソリの奴・・・あいつ、たぶん、金で動いてるな!おかしいと思ってた・・・」 。 「・・・うん・・普通の金じゃないやろな・・・おかしくなるくらい ”握っとる” んや・・たぶん・・・あかんな、あいつ・・・」 と少し悲しげに「カイ」。「あ!そろそろですね!!」。と「Hiたかお」。


 


「斎元」と田川の順番。 「サソリ」は「よっしゃ!1000枚な!!」と束を「斎元」に手渡そうとして、動きを止めた。 「斎元」は「サソリ」と目を合わせたくなかったので目をそらせていたが、急に固まった「サソリ」の異変に気づき、ふと視線を渡されるべき束に戻した瞬間、その束はバラバラと「斎元」の足元に落ちて広がる。


「んんっ?!んんん?!!!」 


「わ・・わ・・あんた・・・マジ??いやいや・・??・・・な、なんで??・・・・・ええ?」


「サソリ」と「斎元」は目が合っていない。 「サソリ」の目線は微妙に「斎元」の耳元あたりを注視し、見開かれたまま、表情はいよいよ強張り、そのまん前の「斎元」をギョッとさせるほどだ。 「斎元」のすぐ後ろの田川が「サソリ」の異変に気づき、思わず「斎元」の服を引っ張った。


「!!!・・・う、ウソやろ??・・・い・・、いよいよ、”本物” のお出ましってか・・・あ、あんたが・・・わかい・・・・」 


この男は、誰と話してる??発作か??「斎元」は気味が悪くなって、田川と顔を見合わせ、とっさに逃げる体勢だ。  ”そんな空気” だった100名の集団は一斉に静まり、 ”事” の起こっている中心に意識が集まる。 あまりの「集中」に、通りを行きかう人々も どんなすごい事が起こっているのかと、足を止めて集まりはじめている。 何?何何??といった仕方で。 100名の後方にいたメンバー達は人だかりをかきわけてでも、中心で今起こっている事を、もう少し近くで見ようと身を乗り出そうと躍起だ。 ひしめき出した人だかりのせいで、中央で何が起こっているかわからない為の、妙な盛り上がり。 「 ”出た!” とか言ってるで!!」 「ええっ!?何が?何が?」 「見えへんって!!」 「どこに?何が!!!」 「ええっ??何んとか現象?」 「何か出たで!!!」 「 ”出た”って??うそ??和解マン??ええっ??」 「おっ!押すなって!!」


突然、中央から「サソリ」の叫び声。


「おおお、おまえらっ!!!今、渡したビ ビラ、ちょっと待てよ!まだ、行くなよ!配るな!!たた、た待機っ!!待機待機、待機!!」


ヒューマンのスーツの男が「サソリ」に何か話しかけようとしたが、「サソリ」はそれ所では無いと 思わず男を突き飛ばした。 大きなどよめき。 突き飛ばされた男が倒れこんだ一部の人だかりから、メンバーの女の子達の悲鳴が起こった。 集団全体が「わあぁっ!!」と どよめきながら動き、ただ事ではないと、界隈のあちこちにいたホスト・ボーイやキャバ嬢達、ストリート・ミュージシャン達もあわてて大声で、「おい!何んかやってんで!!あそこあそこ!!」 「あれ!あれ何や!!」と口々に言いながら100名の集団の外側に駆け寄って来た。  



「サソリ」の慌て様は尋常ではなかった。 慌てて電話しようと取り出した携帯が慌てるあまり、活きのいい魚の様に飛び跳ね、それを捕まえようと人だかりの中に転がり込み、そしてまた、大きな悲鳴。「えええっ!!」  キャッチした携帯で、所かまわずの大声で通話。


「え、えらい事です!!本物がで、出ました!!本物です!わ、わわ和解マンですわ!!十字架に生首が・・・しゃ、しゃべってる!いや、ホンマですホンマです!!化け物?!すぐ、ここに来て下さい!早く!!」


 


 


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4 コメント

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一気読み! (ココ)
2010-04-14 03:43:22
こんばんわ^^
お姫がようやく寝てくれたのでこっそり遊びに参りました(^皿^)

「大調査の進展」からダダーっと一気読みしてしまいましたが、物語が劇的に展開していてものすっごく面白いです!

最初「なないろ」のメンバー達にとっては好奇心とHiたかおへの友情(仲間意識?)だけの所謂「巻き込まれ」感があったのですが、サソリの動向によっていきなりその中心部へ投げ込まれる感じ。
それが大調査を続けている生き物たち、特に「よも清さん」の冷静な対応とうまくマッチングして
「読み手には事情的にはよく分からないままなのに状況的に把握できる」という一番面白い立ち位置で読み進めることができています。

こりゃもうぐいぐい惹きつけられるわけさ!(笑)

それにしてもバンバン出てくる生き物たちの個性さったら(笑)

少し前の話になりますが、ぽち&ゆきりんとその子どもたちの登場シーンでは何故か感動すら覚えました

子どもたちの「声」を表現した色遣い、その下に描かれた子どもたちのイラストのやわらかさと可愛らしさに癒されたり

一の妄の衝撃の登場「つわぁ!」にはお腹抱えて笑わせて頂きましたし(笑)

その中で出てきた斎元さんの普通っぽさが逆に浮くくらい(笑)個性的なキャラクター達に、毎回子どものように目をキラキラさせて見入ってしまっています

こんな混乱した場所にそらくん達が合流したらどうなってしまうのか…楽しみで仕方ありません

そらくん、早くおいで!(笑)

物語もいよいよ佳境(…かな?!)
井川さんがこれからどんなトラップを仕掛けてくるのか、どんな風に驚かせてくれるのか、本当に楽しみです

お仕事も忙しい中、これだけの物語をこれだけのハイスピードでUPするのは気力体力ともに大変なことだと思います。
それなのに早く続きが見たい!と急かしてしまう私かいるのですが(笑)
お体には気をつけて(あと井川さん家の毒ちわわにも 笑)物語、綴ってくださいね

またまた長くなってすみません
また遊びに参ります
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ココおかあちゃんへ (いかわ)
2010-04-14 10:24:42
あ!!ココおかあちゃんだ!!
唯ちゃん、やっと寝付いてくれましたかつかの間の時間を割いてのコメント、本当にありがとうございます~

最近、物語の世界に入りこみすぎて、客観的に見難くなっていたのですが、「読み手には事情的にはよくわからないままなのに、状況的には把握できる、そんな立ち位置」、との言葉は、僕自身の立ち位置(笑)の確認にもなりました!!

”楽しんで下さっている!” という感覚は、本当に励みになります!ただでさえ「突っ走りすぎてる感」満載なのに、どこまで突っ走らせるのでしょうか(大笑)

ーバンバン出てくる生き物たちー
このあと、もう少し出てきますよ
「姿」は出来てて、「名前」が決まらない生き物と、「名前」が先に出来ていて、「姿」が思い浮かんでいない生きもの。 仕事中にこれを考え出すと、とっても危険なんです 「ぐふふふふ」とか言いながらの仕事になってしまうので(笑)

ー一の妄の「つわぁっ!!」ー
これは、 ”パンク・ロック” なんです(笑)!!ライブなんかで、コブシを振り上げてステージと客席で叫び合うのですが、それを「平仮名」にすると、な~んとコミカルな(笑)・・・・大分と気に入ってます。

ーぽち&ゆきりん&子供たちー
今は取りあえず、「ちょい役的」にしか出てきませんが、今、大切にあたためているエピソードがありますので、お楽しみに
「ぽち&ゆきりん&子供たち」には、生命の大切さを投げかける様なエピソードで、主人公なみに活躍して頂きますよ~

ー和解マン・トラップー
これ、作ってる本人がなんとも盛り上がってしまって(笑) 熱くなり過ぎると、ちょっと「冷まして」からUPするようにしています。「お鍋」とか「煮物」とかと一緒ですね(笑) ”一晩 ねかせた” 方が良い!!
なかなか出てこない「和解マン」と誰それをからめる、これ、結構難しいんだけども、なんともおもしろい
もう少し、ミステリアスな(&コミカルな感じ?)感じで 頑張ってみようと思っています。

仕事との兼ね合いについては、お察しの通り、本当に強烈な毎日ですが、不思議と忙しい時の方が、少ない脳もいっちょまえに活性化しているのか、ドーパミンだけになっているのか、なんか、発想が出てきます。 寝不足で「ハイ」になっているだけかもしれない
ココさんの、あったかい激励!がっちり戴きましたぁーありがとうございます~!!

あ、そうそう、うちの「毒ちゃん」!昨日、またやってくれました
そう、僕が「そらの物語」を書く為だけに買ってあった、極細のインクぺん!! しかも、ちょっと高いのに しかも しかも、他に「カジカジ」するペンはい~~ぱいあったのに・・ 
またもや・・ピンポイントでやられていました
取りあえず、うちの「激・猛毒ちわわ」は、元気いっぱいです

長文のコメント!本当にありがとうございました!!お返事を書くのも楽し~

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こんにちは~♪ (すず)
2010-04-14 23:03:00
堂々と遊びにきました!
ココさんのコメントを読み、
私が申し上げることは もう無いかなぁ…って
感じですよ。

私も事情が良く飲み込めないままに
何となく状況把握に努めている感じかな。
そういえば、初めて利用者さん達、総勢130名プラス職員35名。
誰が職員で誰が何処の利用者さんなのか
分からないままキョロキョロとあいさつしまくっていた「個性的な生き物たち」さんと同じく「個性的な利用者さん達』との出逢いのシーンを思い出しています。

てんやわんや。でも楽しい。
そんな感じ?

また、遊びにきますね!
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てんやわんやっ!!(すずさんへ) (いかわ)
2010-04-15 05:57:58
そうそう、てんやわんや(笑)!
ようするに、てんやわんやしてるんです(笑)
なんだかわからないけど、えらいこっちゃぁ!!みたいな感じです。 「100名の集団」の後ろの方の人の中には、とりあえず騒いどけ(笑)みたいな人もいたかも知れません。

この”てんやわんや”は、次回(か、ひょっとするとその次)で突然の幕引きとなるのですが、これが「そらの物語」全体の結構大切な「伏線」となるんです。 ”一瞬” です。ほんの ”一瞬” なんで、コウご期待(?)
実は、この「一瞬」の為に「集合は京橋駅」くらいからずう~~っと準備してきたんです 
「よも清さん」と「和解マン」の ”化かし合い” みたいな視点で見ても、おもしろいかもしれませんよ だまされてるのはどちらか(笑)??みたいな感じで
で、結論は実は「そら」くん一人が握ってる、という感じで

この「ごちゃごちゃ」に付き合ってもらえて、本当にうれしいです感謝・感謝!!!です~
すずさん、ありがとうございます!!
あ、そういえば、我が家の「すず」は、この前、初めて「立つ」ことができましたよ~!!!ひくい机につかまって、「よっこいしょっ!!」って!!

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