窓越しに青く濡れて艶めく銀杏の木を、その陽が陰るまで見届けた私は、自分の隅々にまで決心の揺らぎがないことを確かめ、ようやく立ち上がる。
顔を上げ「きれいだったな」と光を失くした緑のそれへ、褒美のような心持ちで再び目を遣った。
不意に、自分への褒美? 銀杏への?
顔を上げ「きれいだったな」と光を失くした緑のそれへ、褒美のような心持ちで再び目を遣った。
不意に、自分への褒美? 銀杏への?
苦笑いが浮かぶ。
最後の? それともこれからの?
ベッドに投げ出したままの薄手の上着を手に取る。床に散らばった書類や小物が目にとまるが、大切だと思うものはもう何もない。
それらを目の端で一瞥し、小さくまとめた鞄を2つ提げて、薄れゆく窓の外光をもう一度確かめる。カーテンは開けたまま部屋を出た。
マンションの外へ出て、三階のその部屋を見上げる。雨が止み、空に架かった大きな虹が、夕闇に消えるべく最後の光を放っていた。儚きそのさまに胸が疼く。
あの人もどこかでこの虹を見ていただろうか。
見慣れた山並みをなんとはなしに眺める。そして踵を返し、駅へと向かった。
最後の? それともこれからの?
ベッドに投げ出したままの薄手の上着を手に取る。床に散らばった書類や小物が目にとまるが、大切だと思うものはもう何もない。
それらを目の端で一瞥し、小さくまとめた鞄を2つ提げて、薄れゆく窓の外光をもう一度確かめる。カーテンは開けたまま部屋を出た。
マンションの外へ出て、三階のその部屋を見上げる。雨が止み、空に架かった大きな虹が、夕闇に消えるべく最後の光を放っていた。儚きそのさまに胸が疼く。
あの人もどこかでこの虹を見ていただろうか。
見慣れた山並みをなんとはなしに眺める。そして踵を返し、駅へと向かった。
彼女の背中が夕闇に細く溶けるころ、銀杏が声もなく餞別の風に揺れているのを、あの部屋だけが見ていた。