新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

見えるもの

2024-07-26 07:17:50 | Short Short

既視感に苛まれる世界に戸惑う。
ここは、人々に内在する混沌や葛藤がついに具現化して目の前に現れただけの、誰しもが内的もしくは無意識に知っていた世界ではないのか。

戻らない憧れは歪んだ焦燥へのアプローチ。
あの光の中ですくい取ろうとしたものは、確かだと信じた手ごたえの記憶だけになってしまった。
手のひらを見つめても、そこに見出せるものは何もない。
当たり前にあった世界への絶望だろうか。それとも自分への失望か。
にわかに恐怖が心の内に染みていく不快な感触。

それでもふと顔を上げた先で窓に射す朝の光はいま目の前にあって、それがぬくもりであり喜びだと「わかる」。風に木々がざわめき、それこそがこの星からのメッセージではと耳を澄ます。そうであれと願う自分が白い闇に跪く。

言葉にならない何かが胸の奥にそっと置かれた。
その僅かな気配が消えぬうち、掴み取ろうとそろり手をのばす。

さっき感じていた不快な手触りは、胸の奥にチカッと芽吹いた微かな光に気づき浸食の歩をゆるめる。
研ぎ澄ましていた耳に聞こえてきたのは、遠くこだまするように響く笑い声。
意思を持った混沌が現実と幻想をかき混ぜ、あちら側から笑っているのか。
疑いはどこまでもやまない。

間を置かず、どんっ、という衝撃。
生暖かい塊が膝の上に落ち、とたん胸に張り付いた。
無防備に脱力していた体が反射的にのけぞる。と同時に我に返る。
遮断されていた世界と現実とが結ばれ、幼い娘が眩い笑みで私を見上げている。小さな手がなんの疑いもなくひしと私に抱きつく。
つられて自分も笑っていることに気づく。

世界がぐるんとひっくり返る。


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