ああ、そうか。舞っていたのは雪だったのか。
いやに寒くて冷たくて、でも風の形に降る白が軽やかで華やかで、うっかり桜のことを思ったんだ。
あれはとても寒い春の日だったから、ついそう思ってしまった。
いやに寒くて冷たくて、でも風の形に降る白が軽やかで華やかで、うっかり桜のことを思ったんだ。
あれはとても寒い春の日だったから、ついそう思ってしまった。
眩しさも冷たさも変わらないのに、ぼくたちは随分遠くまで来てしまったね。
同じ笑顔で微笑む君は、そんなぼくをやさしく包んでくれるけど、ぼくは君に温もりをちゃんと届けられているのかな。
年が明けたよ。また新しいことをたくさんしよう、君と一緒に。
コーヒーをふたつのカップに注ぐ。
明るい部屋に充ちる香りに、戯言だと君は笑うだろうか。
ふたりで近所を歩く。
家々の庭先に咲く花の名を、君はひとつずつぼくに教えてくれる。冬の花は強い。枯れたような町を明るく彩る。君みたいだ。
季節が変わると、ぼくはその花たちの名をいつも思い出せずにいた。そんなことを繰り返して、ぼくらは季節の中でたくさん笑った。
風が鳴いている。電線が揺れる。影が、揺らぐ。
そうか、桜じゃなかったのか。
空に流れる薄雲がまぶしくて、ぼくは眼を細めた。
そうか、桜じゃなかったんだな。
滲んだ白の中で咲いているのは、君。