お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ  弐拾参

2019年08月01日 | オチラ 対 モヘラ(全27話完結)
 宗教団体の取材を行っていたABCジュノー支局のピーター・ピーターソンは、公会堂の崩落から辛うじて逃げ出す事が出来た。
 ピーターソンは、羽ばたきを続けながら空中に留まっているモヘラを見上げた。愛くるしいと思われていた顔がそのままである事が憎らしかった。しかし、それ以上に憎らしく思うものがあった。公会堂を飲み込んだ亀裂から上がった禍々しい雄叫びだ。地上を破壊し回ったあいつの声だ。瓦礫の中で埃まみれになったピーターソンは亀裂を注視した。
 再び雄叫びが上がった。
 モヘラは警戒するように更に高く舞い上がった。
 地が揺れた。そして、亀裂から湧き上がるように黒い塊が姿を見せ始めた。
 凶悪な光を湛えた双眼を左右に配り、破壊と残虐とを全身に漲らせ、オチラは地上にその禍々しい姿を再び現したのだ。
 オチラは倒壊したジュノー市を見回して雄叫びを上げた。それから、ゆっくりと顔を上げた。空中で羽ばたきながら留まっているモヘラを見た。モヘラもオチラを見下ろしている。
 ピーターソンには、二大怪獣が互いの意志を通わせているように見えた。最悪の状況になった、地球はこの二大怪獣によって破滅へと向かうだろう。モヘラは人類を食べ尽くし、オチラはすべてを破壊し尽くす。ピーターソンは悲しい笑みを浮かべると瓦礫の上に寝転んだ。
 オチラもモヘラも人間も、全て等しく神が造り給うたものであるならば、食われる事にも、破壊される事にも、神の御意志があるのだろう。ならば、人間が抗っても無意味なのではないか。ピーターソンは互いを見合っている怪獣を見ながら思っていた。
 そこへ、アメリカ空軍戦闘機F-16「ファイティングファルコン」が五機、飛来した。事態を把握したペンタゴンがアンカレッジにあるエルメンドルフ空軍基地から発進させたものだった。寝転がっていたピーターソンは立ち上がった。そうだ、抗う事も神の御意志なのかもしれない。ピーターソンは耳を弄さんばかりの戦闘機の轟音を力強いものに感じていた。
 戦闘機からペンタゴンへオチラ出現の報がもたらされた。ペンタゴンでは対オチラについては別部隊を送る旨を伝え、今はモヘラに注力せよと命じた。
 モヘラはオチラから戦闘機へ向きを変えた。羽ばたきを強め、風圧で戦闘機を墜落させるつもりのようだった。だが、パイロットたちはその攻撃を想定していた。羽ばたきが始まると、横並びで飛行していた隊列を分散させて、モヘラの風をかわした。モヘラは周囲を飛び回る戦闘機に苛立ったのか、甲高い声で鳴くと、一機に向かって突進した。体当たりで破壊するつもりのようだ。追われた戦闘機は回避が間に合わなかった。
 と、モヘラと戦闘機の間を、青白い光線が隔てた。モヘラの突進が止まり、戦闘機は難を逃れた。
 モヘラは発せられた光線の源へ身体を向けた。
 鋭い牙の並んだ口を大きく開けたオチラが、モヘラを睨み付けていた。


 次回「大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ 弐拾四」を待て。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣... | トップ | 大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣... »

コメントを投稿

オチラ 対 モヘラ(全27話完結)」カテゴリの最新記事