「……ところで、一つ聞きたいんだけど」
六郎の悲鳴がすっかり消えてから、コーイチは逸子と洋子に言った。
「なあに?」
「何ですか?」
二人はコーイチに振り返る。
「あの両側からの蹴り、よく止められたなあって思ってさ……」
「そうそう」花子も不思議そうな顔をする。「大王に操られていたのに、よく止まったと思ったわ」
「それは……あれよ」逸子は考えながら言う。「操られていても、本心ではコーイチさんってわかったから止めたのよ。多分、きっと、おおよそ……」
「わたしもそう思います」洋子もうなずいた。「これが六郎だったら、プレス機で挟んだみたいにぺちゃんこにしてました」
洋子は言いながら、両の手の平を打ち合わせてぱちんと音を立てた。……芳川さん、結構怖い娘かもしれない。コーイチは思った。
「その通りよ!」逸子は言うと、コーイチの腕にしがみついた。「大事なコーイチさんだもの、もう二度と同じ事はしないわ」
「え? 同じ事?」コーイチは驚いたように逸子を見る。「同じ事って…… 前に蹴られたみたいな言い方だけど……」
「いえ、な、何でもないわ!」逸子があわてて否定した。「わたしの勘違いみたい。ね? 洋子ちゃん?」
「は? あ、はい……」洋子も戸惑いながら答えた。「そうですよ、逸子さんの勘違いですよ」
二人は、パーティ会場でコーイチに両側から蹴りを入れて挟み込んだのを思い出していた。さすがに言える事ではなかった。しかし、この出来事が蹴りを止める一因ともなったのだろう。
「……そうか、そうだよね」コーイチは二人の引きつった笑顔の意味を考えることなく、納得したように大きくうなずいた。「とにかく、後は大王だけだね」
「そうなんだけど、大王が出て来ないわね……」花子は腰に手を当てて周囲を見回す。「さては、わたしたちに恐れをなしたのかしら?」
「きっとそうよ!」逸子が笑って言う。「他人を操って、自分はその後ろに隠れているんだから、本当は弱虫なのよ!」
「仲間だった三人もいないですしね」洋子も微笑みながら言う。「もう味方はいない状況ですから、勝ち目はないでしょうね」
「……あの、あんまり言うと、大王が怒るかも……」コーイチだけがおろおろしている。「……ぼくはパーティ会場のエレベーターで、恐ろしい目に遇ったんだ…… それに、また、逸子さんや芳川さんが操られちゃうかもしれないし……」
「心配性ねぇ、コーイチさん!」花子は自信満々に言う。「わたしはこの世界の主なのよ。それに、こんなに心強い仲間が二人もいるし!」
「そうよ、コーイチさん!」逸子も胸を張る。「操られた屈辱を晴らしてやるわ!」
「わたしも、消しゴムを守る任務を全うします、コーイチさん!」洋子も大きくうなずく。「そして、犯罪者を連れ戻します!」
「……と言うわけだから」花子はコーイチに笑顔を向けた。「コーイチさんは安全な場所に隠れていてね」
「……はい……」
コーイチは素直に答えると、きょろきょろと周りを見回した。隠れる所は無さそうだ。……さて、どうしよう…… コーイチは目をつぶって腕組みをし、考え込んだ。
「わっ!」
「きゃっ!」
「いやっ!」
突然、三人の悲鳴が上がった。
コーイチはあわてて声の方を見た。
三人はそれぞれが黒い鉄格子で出来た檻に閉じ込められていた。
「出せ~っ!」花子が鉄格子をつかんで叫ぶ。「大王の卑怯者~っ!」
「不意打ちなんて、最低ね!」逸子は鉄格子を叩きながら叫ぶ。「わたしたちが恐いんでしょ!」
「わたしたちをどうするつもりですか!」洋子もくやしそうに叫ぶ。「勝ち目は無いんですよ!」
「逸子さん! 花子さん! 芳川さん!」コーイチは閉じ込められた三人の前をうろうろするばかりだった。「ああ、どうしよう、どうしよう……」
「どうしようも出来ませんでしょうなぁ……」
不意に大王の声がした。コーイチはびくんとからだを震わせると、ゆっくりと声の方に振り返った。
エレベーターで会った時の中世風な姿ではなく、黒のタキシードに黒の蝶ネクタイ、そして、黒のマントを羽織っていた。映画で良く見た「吸血鬼ドリキュラ」を思い出させた。大王は穏やかな笑みをたたえていた。
「……大王……」コーイチは後退りながら言う。「三人を閉じ込めるなんて……」
「ほう、三人を閉じ込めるなんて、卑怯者と? 弱虫と? 勝ち目が無いと?」大王は楽しそうに言う。「そうかもしれませんなぁ…… 何しろ歳が歳ですからなぁ。まともに戦っては厳しいでしょうなぁ」
「だからって、閉じ込めなくても……」
「ほう、そうですか、そうですか……」大王は笑顔でうなずく。「実は、あの三人の弱点がわかったものですからねぇ……」
「弱点……?」
「そう」大王はコーイチを指さした。「あなたですよ」
六郎の悲鳴がすっかり消えてから、コーイチは逸子と洋子に言った。
「なあに?」
「何ですか?」
二人はコーイチに振り返る。
「あの両側からの蹴り、よく止められたなあって思ってさ……」
「そうそう」花子も不思議そうな顔をする。「大王に操られていたのに、よく止まったと思ったわ」
「それは……あれよ」逸子は考えながら言う。「操られていても、本心ではコーイチさんってわかったから止めたのよ。多分、きっと、おおよそ……」
「わたしもそう思います」洋子もうなずいた。「これが六郎だったら、プレス機で挟んだみたいにぺちゃんこにしてました」
洋子は言いながら、両の手の平を打ち合わせてぱちんと音を立てた。……芳川さん、結構怖い娘かもしれない。コーイチは思った。
「その通りよ!」逸子は言うと、コーイチの腕にしがみついた。「大事なコーイチさんだもの、もう二度と同じ事はしないわ」
「え? 同じ事?」コーイチは驚いたように逸子を見る。「同じ事って…… 前に蹴られたみたいな言い方だけど……」
「いえ、な、何でもないわ!」逸子があわてて否定した。「わたしの勘違いみたい。ね? 洋子ちゃん?」
「は? あ、はい……」洋子も戸惑いながら答えた。「そうですよ、逸子さんの勘違いですよ」
二人は、パーティ会場でコーイチに両側から蹴りを入れて挟み込んだのを思い出していた。さすがに言える事ではなかった。しかし、この出来事が蹴りを止める一因ともなったのだろう。
「……そうか、そうだよね」コーイチは二人の引きつった笑顔の意味を考えることなく、納得したように大きくうなずいた。「とにかく、後は大王だけだね」
「そうなんだけど、大王が出て来ないわね……」花子は腰に手を当てて周囲を見回す。「さては、わたしたちに恐れをなしたのかしら?」
「きっとそうよ!」逸子が笑って言う。「他人を操って、自分はその後ろに隠れているんだから、本当は弱虫なのよ!」
「仲間だった三人もいないですしね」洋子も微笑みながら言う。「もう味方はいない状況ですから、勝ち目はないでしょうね」
「……あの、あんまり言うと、大王が怒るかも……」コーイチだけがおろおろしている。「……ぼくはパーティ会場のエレベーターで、恐ろしい目に遇ったんだ…… それに、また、逸子さんや芳川さんが操られちゃうかもしれないし……」
「心配性ねぇ、コーイチさん!」花子は自信満々に言う。「わたしはこの世界の主なのよ。それに、こんなに心強い仲間が二人もいるし!」
「そうよ、コーイチさん!」逸子も胸を張る。「操られた屈辱を晴らしてやるわ!」
「わたしも、消しゴムを守る任務を全うします、コーイチさん!」洋子も大きくうなずく。「そして、犯罪者を連れ戻します!」
「……と言うわけだから」花子はコーイチに笑顔を向けた。「コーイチさんは安全な場所に隠れていてね」
「……はい……」
コーイチは素直に答えると、きょろきょろと周りを見回した。隠れる所は無さそうだ。……さて、どうしよう…… コーイチは目をつぶって腕組みをし、考え込んだ。
「わっ!」
「きゃっ!」
「いやっ!」
突然、三人の悲鳴が上がった。
コーイチはあわてて声の方を見た。
三人はそれぞれが黒い鉄格子で出来た檻に閉じ込められていた。
「出せ~っ!」花子が鉄格子をつかんで叫ぶ。「大王の卑怯者~っ!」
「不意打ちなんて、最低ね!」逸子は鉄格子を叩きながら叫ぶ。「わたしたちが恐いんでしょ!」
「わたしたちをどうするつもりですか!」洋子もくやしそうに叫ぶ。「勝ち目は無いんですよ!」
「逸子さん! 花子さん! 芳川さん!」コーイチは閉じ込められた三人の前をうろうろするばかりだった。「ああ、どうしよう、どうしよう……」
「どうしようも出来ませんでしょうなぁ……」
不意に大王の声がした。コーイチはびくんとからだを震わせると、ゆっくりと声の方に振り返った。
エレベーターで会った時の中世風な姿ではなく、黒のタキシードに黒の蝶ネクタイ、そして、黒のマントを羽織っていた。映画で良く見た「吸血鬼ドリキュラ」を思い出させた。大王は穏やかな笑みをたたえていた。
「……大王……」コーイチは後退りながら言う。「三人を閉じ込めるなんて……」
「ほう、三人を閉じ込めるなんて、卑怯者と? 弱虫と? 勝ち目が無いと?」大王は楽しそうに言う。「そうかもしれませんなぁ…… 何しろ歳が歳ですからなぁ。まともに戦っては厳しいでしょうなぁ」
「だからって、閉じ込めなくても……」
「ほう、そうですか、そうですか……」大王は笑顔でうなずく。「実は、あの三人の弱点がわかったものですからねぇ……」
「弱点……?」
「そう」大王はコーイチを指さした。「あなたですよ」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます