会議は和やかに、円滑に進み、ほぼ合意に達して終了した。
コーイチは時計を見た。洋子と谷畑が話し合いを始めてから三十三分が経っていた。・・・同じ三十三分でも、こうした有効な時間にも出来るんだよな。コーイチは、まだシャッター音を鳴らし続けている鞍馬の六郎を見て、そう思った。
「・・・芳川さん・・・」
資料を片付けたいた洋子に、谷畑がためらいがちに声をかけた。
「はい?」
洋子は笑顔で谷畑の方に顔を向けた。・・・笑顔が出来るんじゃないか! それなのに、どうして僕にはこわい顔をして見せるんだ? やっぱり、消しゴムに一件かなぁ・・・ コーイチは溜め息をついた。
「初会議も順調に進んだし、その・・・」谷畑は言いながら恥ずかしそうに下を向いた。「どうかな? 今夜食事でも。会議の成功とお近付きの記念を兼ねてって感じで・・・」
・・・おやおや、こりゃあ、僕はお邪魔って感じで・・・
「そうですねぇ・・・」洋子は笑顔のまま答えた。「素敵なお誘いですが、今日は課の方で歓迎会をして下さる事になっているんですの」
「えっ?」
コーイチは驚いた顔を洋子に向けた。洋子はこわい顔でコーイチを見つめた。メガネのレンズがきらりと光る。
「やだ、コーイチさん、お忘れなんですか?」洋子は楽しそうに笑ったが、目は笑っていなかった。「・・・思い出したでしょう?」
「あ、ああ、そうだったね・・・」有無を言わせない洋子の表情に、コーイチは思わず答えた。「そうだった、そうだった・・・」
「そうなんですか、それは残念だなぁ・・・」谷畑は口を尖らせながら言った。「・・・でも、次はお願いしますよ」
「そうですね、次回の会議の時には、お誘いをお受けしますわ」洋子は意味ありげな目付きをして見せた。「では、今日は、この辺で。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、良い仕事が出来そうで、嬉しいですよ」
洋子と谷畑は握手をした。・・・さわやかカップルの誕生って所かな。コーイチは一人にまにましていた。・・・でも、歓迎会なんて聞いてなかったがなぁ。コーイチは寄り目がちになりながら考え込んでいた。
「コーイチさん!」洋子が声をかけて来た。振り向くと、洋子はドア付近に立っていた。「何をにまにましたり、寄り目になったりしているんですか。用件は終わりました。長居は先方さんにご迷惑ですよ。それに、会社に戻って報告もあります」
「ああ、そうだね・・・」
コーイチはあわてて立ち上がった。鞍馬の六郎を見た。鞍馬の六郎はしゃがみ込んで、撮った映像を黙々と見ていた。
「あ、六田さんの事はご心配なく」コーイチの視線に気付いた谷畑が笑顔で言った。「いつもの事なんです。都合が悪くなると、病気になってみたり、機嫌が悪くなってみたり。はじめはみんなで心配していたんですが、同情や注目を集めたいだけだと知れてからは、放っておく事になったんです。まあ、お気になさらずに」
谷畑は会議室のドアを開け、コーイチと洋子を先に通した。そして、後に続いて会議室を出ると、鞍馬の六郎が居るにもかかわらず、ドアを閉めた。
「いいのかい?」コーイチが不安そうに聞く。「ちょっとイっちゃっている感じだけど・・・」
「大丈夫ですよ。あれはポーズですから。そのうちこっそりと出て来て、何事も無かったような顔をして、自分の机に居るはずですから。すでに、傾向と対策が出来ているんです」
谷畑は笑顔で言った。心なしか残酷な感じがしていた。
つづく
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コーイチは時計を見た。洋子と谷畑が話し合いを始めてから三十三分が経っていた。・・・同じ三十三分でも、こうした有効な時間にも出来るんだよな。コーイチは、まだシャッター音を鳴らし続けている鞍馬の六郎を見て、そう思った。
「・・・芳川さん・・・」
資料を片付けたいた洋子に、谷畑がためらいがちに声をかけた。
「はい?」
洋子は笑顔で谷畑の方に顔を向けた。・・・笑顔が出来るんじゃないか! それなのに、どうして僕にはこわい顔をして見せるんだ? やっぱり、消しゴムに一件かなぁ・・・ コーイチは溜め息をついた。
「初会議も順調に進んだし、その・・・」谷畑は言いながら恥ずかしそうに下を向いた。「どうかな? 今夜食事でも。会議の成功とお近付きの記念を兼ねてって感じで・・・」
・・・おやおや、こりゃあ、僕はお邪魔って感じで・・・
「そうですねぇ・・・」洋子は笑顔のまま答えた。「素敵なお誘いですが、今日は課の方で歓迎会をして下さる事になっているんですの」
「えっ?」
コーイチは驚いた顔を洋子に向けた。洋子はこわい顔でコーイチを見つめた。メガネのレンズがきらりと光る。
「やだ、コーイチさん、お忘れなんですか?」洋子は楽しそうに笑ったが、目は笑っていなかった。「・・・思い出したでしょう?」
「あ、ああ、そうだったね・・・」有無を言わせない洋子の表情に、コーイチは思わず答えた。「そうだった、そうだった・・・」
「そうなんですか、それは残念だなぁ・・・」谷畑は口を尖らせながら言った。「・・・でも、次はお願いしますよ」
「そうですね、次回の会議の時には、お誘いをお受けしますわ」洋子は意味ありげな目付きをして見せた。「では、今日は、この辺で。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、良い仕事が出来そうで、嬉しいですよ」
洋子と谷畑は握手をした。・・・さわやかカップルの誕生って所かな。コーイチは一人にまにましていた。・・・でも、歓迎会なんて聞いてなかったがなぁ。コーイチは寄り目がちになりながら考え込んでいた。
「コーイチさん!」洋子が声をかけて来た。振り向くと、洋子はドア付近に立っていた。「何をにまにましたり、寄り目になったりしているんですか。用件は終わりました。長居は先方さんにご迷惑ですよ。それに、会社に戻って報告もあります」
「ああ、そうだね・・・」
コーイチはあわてて立ち上がった。鞍馬の六郎を見た。鞍馬の六郎はしゃがみ込んで、撮った映像を黙々と見ていた。
「あ、六田さんの事はご心配なく」コーイチの視線に気付いた谷畑が笑顔で言った。「いつもの事なんです。都合が悪くなると、病気になってみたり、機嫌が悪くなってみたり。はじめはみんなで心配していたんですが、同情や注目を集めたいだけだと知れてからは、放っておく事になったんです。まあ、お気になさらずに」
谷畑は会議室のドアを開け、コーイチと洋子を先に通した。そして、後に続いて会議室を出ると、鞍馬の六郎が居るにもかかわらず、ドアを閉めた。
「いいのかい?」コーイチが不安そうに聞く。「ちょっとイっちゃっている感じだけど・・・」
「大丈夫ですよ。あれはポーズですから。そのうちこっそりと出て来て、何事も無かったような顔をして、自分の机に居るはずですから。すでに、傾向と対策が出来ているんです」
谷畑は笑顔で言った。心なしか残酷な感じがしていた。
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