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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 8

2022年05月31日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 百合恵は白のブラウスに黒のロングスカートと言う姿だった。さらっとした黒髪が肩で揺れる。
「お運び、ありがとうございますぅぅぅ!」
 朱音としのぶは、百合恵の前に並んで立つと、そう言いながら上半身を直角に曲げる。百合恵は楽しそうに見ている。姫野先生は驚いている。松原先生は「まあまあ、落ち着いて」と言った表情で姫野先生を見て苦笑する。
「姐さん……」アイは麗子の支えを解こうとする。「すみません、こんなみっともない姿をお見せしちゃって……」
「良いのよ、アイちゃん」百合恵は笑む。「しっかりと愛しの麗子ちゃんに支えてもらいなさいな」
「え? ……あ、はい……」アイは答えながら頬を赤くする。「姐さん……」
「あのう…… 百合恵さん……」さとみが言う。しかし、表情は暗い。「今日はまたどうして?」
「何となく、今からさとみちゃんに会わなきゃ、って気になっちゃってね。それで来たわけ。校長先生と教頭先生が出迎えてくれたわ」百合恵はくすくすと思い出し笑いをする。松原先生はその様子に見惚れている。「お二人から、アイちゃんの事を聞いて。それでここに来たってわけ。……最近、その手の勘が働くのよねぇ」
 百合恵は笑みを浮かべたままの顔をさとみに向ける。さとみは笑い返す事をしなかった。いつもなら率先して挨拶をしてくるさとみが動かなかったのも気になる。百合恵の笑みが消える。
「……さとみちゃん、何かあった?」
「会長、何もかも投げ出したいって言うんです」しのぶが言う。「何だか、とっても悩んでいるようで……」
「まあ……」
 百合恵は驚いた顔でさとみを見る。さとみは相変わらず暗いままだ。
「それに、会長を狙っている幽霊が出たって……」朱音が言う。「アイ先輩、そのせいで怪我をしちゃって……」
「……アイちゃん、それって?」百合恵の口調は穏やかだが、顔付きは真剣だ。しばらくアイを見つめる。「……そう、屋上で。さゆりか……」
「特別顧問! 分かっちゃうんですか?」しのぶが驚いた顔で百合恵を見る。「凄いです……」
「ふふふ。何となく分かっちゃうのよねぇ」百合恵はしのぶに笑顔を向ける。「しのぶちゃんでも、同じ事をしたんじゃない? さとみちゃんの事好きみたいだし」
「あっ、わっ!」しのぶは慌てて両手を振る。「そんな! それは誤解です! いえ、会長を好きじゃないって言うんじゃないんですけど。でも、好きって……」
「敬愛してるって言えば良いのよ」朱音が横から言う。「本当、のぶって言葉を知らな過ぎよ! 国語力が足りなさ過ぎ!」
「何よう!」しのぶがむっとした顔で朱音を見る。「わたしが本気だしたら、かねなんかをすぐに追い抜いちゃうんだから!」
「無理無理、だって、のぶは興味のある事にしかのめり込まないじゃない? どんな小説でも二、三行で放り出しちゃうじゃない」
「だって、縦書きって目が上下して疲れるんだもの……」
「おい、お前ら、姐さんの前で何やってんだ!」アイが一喝する。朱音としのぶは「すみませんでしたぁぁぁ!」と百合恵に頭を下げた。「……で、姐さんのお見通しのままです。会長の身代わりになったんですが、無駄でした……」
「そんな事はないわよ」百合恵はうなずく。「立派な舎弟よ。ただし、今後は控えるのよ」
「それって……」
「そう。そのさゆりって、とっても強力だから、次は危ないわよ」
 百合恵の言葉に皆がしんとなる。
 百合恵はさとみを見る。さとみは百合恵の視線に気がついていない。
「……こりゃ、重傷だわ」百合恵はため息をつく。「さとみちゃん!」
「え? あ、はい……」突然の百合恵の大きな声で我に返ったさとみだった。「何でしょうか?」
「ちょっと散歩でもしない?」
 百合恵は優しい笑みをさとみに向ける。
「でも、もうすぐ午後の授業が……」
「な~に言ってんの!」百合恵は言う。「今はそれどころじゃないでしょ? それはさとみちゃんも分かっているはずよ」
「……はい……」
 さとみは力なく答える。
「……と言う事で、松原先生、さとみちゃんをお借りしますわね」
 百合恵は言うと、松原先生の返事も待たず、さとみの腕をつかむと強引に保健室から連れ出した。

 百合恵とさとみは、保健室を出ると北校舎へと向かう。向かう間は生徒たちのにぎやかな声が飛び交っていたが、北校舎に来ると、妙にしんとしていた。
 百合恵には、蹲ってじっとこちらの様子を窺っている邪な霊たちが見えていた。その数も増していたが、邪さも増している。屋上に現われたさゆりと関係があるのだろうと、百合恵は思った。当然、さとみにも見えているはずだが、さとみは反応を示さない。黙ったまま百合恵の後ろについて来ているだけだった。……かなりの重傷だわ。百合恵はため息をつく。
 百合恵は足を止めた。不意に足を止めたので、さとみは百合恵の背中にぶつかった。
「あ…… ごめんなさい……」
 さとみはぺこりと頭を下げる。百合恵は振り返って、さとみを見る。さとみは不安そうな顔をし、目に涙を溜めている。
「さとみちゃん……」
 百合恵はさとみを抱きしめた。
「辛いのは分かるわ。みんないなくなっちゃったんだから……」百合恵はさらに強くさとみを抱きしめる。「でもね、そんな事に負けちゃダメよ! さとみちゃんがみんなを助けるのよ! それに、今だってさとみちゃんのおばあちゃんたちもいてくれるし、片岡さんだって力になってくれるって言ったし、及ばずながら、わたしだって! ね、さとみちゃん……」
 さとみの返事が無い。百合恵は驚いて、さとみから身を離す。いつもなら顔を横に向けて呼吸を確保するさとみだったが、それが出来ていなかった。百合恵の豊かな胸にすっかりと顔がうずまっていたのだ。
「ぷはあぁ……」
 ようやく息が継げたさとみだった。百合恵は心配そうにさとみを見ている。
「へ…… へへへ……」
 さとみは意味不明な笑い声をあげると、その場に座り込んでしまった。


つづく

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