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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 7

2022年05月30日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 さとみは黙り込んでしまった。
 黒い影も、さとみの名を呼び、邪魔をするなと言っていた。それがそのまま、さゆりと言う強力な霊体に引き継がれているようだ。
 ……ひょっとして、そのさゆりって言う霊体と闘うのかしら? さとみはイヤな顔をする。今までは困っている霊体を助ける事が目的だった。しかし、この度は違っている。明らかに対峙した関係だ。仲間もやられている。まさに闘いだ。でも、どうして? どうしてわたしが闘わなきゃいけないの? わたしは学校の心霊現象を解決しただけなのに。まさか、それが原因? でも、今までだってそんな事はあったけど、今回の様な面倒な事にはならなかった。
「……会長……」
 さとみは、アイの声で我に返った。きょとんとした顔をアイに向ける。
「何?」
「すみませんでした…… 会長の代わりにあいつを何とかしてやりたかったんですが……」
「その、さゆりを?」
「はい…… 悔しいです……」
 と、麗子が立ち上がった。
「やめてよう!」麗子が声を荒げる。「わたし、ずっとずっと言えなかったけど、本当はこんな幽霊だの何だのってイヤだったの! 怖かったの! さとみは知っているくせに『弱虫麗子』ってからかうから、無理してたけど、もう限界!」
「おい、麗子……」アイが戸惑った顔で麗子を見る。「……こう言っちゃ何だけどさ、その事、知ってたぜ」
「え?」麗子は驚いた顔でアイを見る。「知ってたって……?」
「はい、わたしたちも気がついていました」しのぶが言う。隣で朱音がうなずいている。「麗子先輩の様子を見ていたら、分かります」
「でも、わたしたち、麗子先輩が好きです」朱音が言う。しのぶが大きくうなずく。「だから、サークルはやめないでください!」
「そうだぜ、麗子」アイが言って、にやりと笑う。「それに、もうわたしとお前は切っても切れない仲じゃねぇか」
「わっ! ば、ばかぁ!」麗子は顔を真っ赤にした。「何を言い出すのよう! アイのばかぁ!」
「え? 何ですか、今の発言は?」朱音が目をきらきらさせてアイを見る。「そこの所、詳しく!」
「そうです!」しのぶも目をきらきらさせている。「お二人に何かあるとは思っていましたが、詳しく!」
「もうっ!」麗子はそっぽを向いてしまった。「もう、知らない!」
「それは会長の口癖だぜ」
 アイは笑う。朱音もしのぶも「そうそう、会長そっくり!」と笑う。麗子はほっとした。もう堂々と「弱虫麗子」でいられるからだ。
 麗子はさとみを見る。さとみは黙り込んで考え事をしているようだ。
「……さとみ?」麗子が心配そうに声をかける。「どうしたのよ?」
「……うん」さとみは床を見たまま、曖昧に返事をする。「……よかったね、麗子。もう『弱虫麗子』って言えなくなっちゃった」
「何よ? それで拗ねちゃったってわけ?」
「いや、そうじゃないの……」さとみはため息をつく。「わたしも、投げ出したいなぁって……」
 わいわい言っていた皆が黙ってしまい、さとみを見る。さとみは床を見たままで、それに気がついていない。
「……会長」アイはベッドから下りた。ちょっとふらついたアイを麗子が支える。「何て事を言い出しているんですか」
「え?」さとみは顔を上げる。皆心配そうな顔をしている。「いや、大丈夫よ……」
「ちっとも大丈夫には見えません」しのぶが言う。「それに、投げ出したいって、どう言う事ですか?」
「会長……」朱音が恐る恐る言う。「……それって、『百合恵会』を解散するって事ですか? この前、学校からもサークルが認めてもらえたのに……」
 さとみは答えない。皆不安そうな顔で互いを見合っている。
「さとみ……」麗子が言う。「弱気になってちゃダメよ。あなただから出来る事なんでしょ?」
「……なんだか、麗子に言われたくない……」さとみがつぶやく。「いや、誰にも言われたくない……」
 さとみはそう言うと黙ってしまった。暗いオーラがさとみにまとわりついている、と、実際にオーラが見えるわけではないが、皆は思っていた。
「先生……」しのぶが松原先生を見る。「どうしたら良いんでしょうか?」
「う~ん……」松原先生はぽりぽりと頭を掻く。「……こう言う時は、百合恵さんに来てもらって、話を聞いてくれると良いんだが…… 百合恵さんにも色々とあるだろうからなぁ……」
「ですよねぇ……」しのぶはうなずいて、ため息をつく。「こんなに元気のない会長は初めてです……」
 そこへ、外に出ていた姫野先生が入って来た。アイが立っている様子を見て驚いている。
「あら、もう大丈夫なの? 若いわねぇ」そう言ってから、皆の様子を見る。「どうしたの、みんな、何だか暗いわねぇ?」
「いえ、ちょっとありましてね」松原先生が言う。「今度はアイの代わりに綾部を寝かしといてくれませんかねぇ? ちょっと、塞ぎ込んじゃってましてね……」
 姫野先生はさとみを見る。ひときわ暗く落ち込んでいるのが見て取れた。
「……分かりました」姫野先生はうなずく。それから、思い出したような松原先生を見た。「あ、そうだ。お客さんですよ」
「客、ですか……?」松原先生は訝しむ。「誰です?」
 と、保健室のドアが開いた。
「わたしです」
 入って来たのは百合恵だった。


つづく

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