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盗まれた女神像 ③

2019年07月01日 | 盗まれた女神像(全22話完結)
「やあ、ジェシル。久し振りじゃないか」ジェシルが向かいの席に座ると、ほぼ出来上がっているロールは言って、ニケ人特有の鼻の下で左右に伸びた三本ずつの長い髭をひくひくさせた。「オレとデートの約束でもしてたっけ?」
「不気味な事言わないで。ちょっと情報が欲しいだけよ」ジェシルはロールの冗談に乗らない。「メルーバ教団の女神像盗難で、何か知っている事はないかしら?」
「そうだなぁ…… まずは容疑者が三人いる」
「知ってるわ」
「一人は西のマフィアのボス。一人は東のボス。もう一人は……」
「ヤリラ教の女教主でしょ? 知ってるわ」
「じゃあ、オレの話す事はねぇなぁ……」
「ふざけるのはあなたの顔だけにして」ジェシルはロールを睨み付ける。かわいい顔だが、眉の端が吊り上って迫力があった。「もっと他の裏の情報とかないの?」
「あるよ」
「へらへらしないで言いなさいよ!」
「おいおい、何の見返りもなしで話せって言うのかい?」
「また、やらかした犯罪の目溢し? それとも宇宙一不味いドムドム酒のお代わり? ……分かったわ、お金でしょ?」
「全部外れだ。それよりも、もっと良いものだよ」
「分かんないわよ!」
「へっへっへ…… ほら、それ。大きすぎてスーツのボタンが留められず、ブラウスのボタンが弾け飛びそうな、お前さんの胸だよ」
「はぁ?」ジェシルはロールが付きつけた指先から守るように両腕で胸を隠す。「何を言い出すのよ! 馬っ鹿じゃないの!」
「宇宙パトロールの女捜査官ジェシル・アンの大きなバストは、結構有名で、数多の野郎共の憧れなんだぜ」
「それで、わたしの胸をどうするのよ!」
「へっへっへ…… 見せてくれれば良いんだよ……」
「それを情報として、あちこちへ高く売る気なんでしょ? もう、死んじゃって!」
「そうかい。じゃあ、裏情報は無しだ。他の連中にもジェシルに教えるなって言っておくさ。無駄足だったなぁ……」
 ロールは勝ち誇ったように髭をひくひくさせる。全身に殺意を漲らせて席を立ったジェシルはロールを睨む。不意にジェシルの殺意が消え、ふっとため息をついて座り直した。
「……分かったわ。教えてくれたら見せてあげるわ」
「駄目だね。見せてくれなきゃ、教えない」
「……じゃあ、こうしましょう」ジェシルはロールにウインクしてみせて胸を張る。ブラウスのボタンが一つ弾け飛んだ。「教えてくれたら、見せてあげる上に写真も撮らせてあげる。ただし、顔はNGね。おまけに触らせてあげるわ。そうすれば、あなたの情報、更に高く売れるでしょ?」
「本当か? 嘘じゃないだろうな?」
「宇宙パトロール捜査官のモットーは『正義と真実そして信頼』なのよ」
「へっへっへ……」ロールは、ニケ人が嬉しい時にやる、喉をゴロゴロと鳴らした。「良いだろう。良く聞きな……」

つづく


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