「百合江さん! おみっちゃんも負けた……」竜二が百合江の前に現れてそう言うと、座り込んでしまった。「二人とも撃沈だよう……」
「楓もみつ様も、嬢様に軽くいなされたって感じでしたよ」いっしょに現れた豆蔵がにやりと笑った。「さすが嬢様だ」
「豆蔵さん! そんな呑気なこと言うなよう!」竜二が豆蔵に詰め寄る。「このままじゃあ、さとみちゃんは、ずっとオレたちに気づかなくなるんだぜ!」
「いいじゃねぇかい。あっしらが見えなくても、嬢様は変わっちゃいねぇ。……なんかそれで満足だよ」
「豆蔵さん……」竜二がめずらしくため息をもらす。「そうなんだよ。いつだって、いつものさとみちゃんなんだよ……」
「竜二さん。前に、幸せそうな、楽しそうな嬢様を見て、このままでも良いって言ってたじゃねぇですか。……今なら良くわかりやすよ。たしかに嬢様は、いつだっていつもの嬢様でさぁ」
「……ってことは」百合江は二人のやり取りを見て、立ち上がった。「こっち側の完敗で良いのね?」
豆蔵と竜二は大きくうなずいた。
「じゃあ、みつさんと楓姐さんに戻って来るように伝えてちょうだい」
「承知しやした」
豆蔵は一礼すると、すっと消えた。
「百合江さん……」竜二は疲れ切ったように言う。「オレたちも今まで楽しかったって、さとみちゃんに伝えてくれないか……」
「……竜二さん」百合江は力無く笑む竜二を見てうなずいた。「わかったわ。みんなの気持ち、しっかり伝えるわね」
百合江は言うと、さとみに会うために歩き去った。
しばらくして、みつと楓が豆蔵と共に戻って来た。みつは涙を拭きながら、楓はぷりぷりしながら、立っている。
「全くさ!」楓が切り出す。「わたしの手練手管が通じないってのは、どう言うんだろうね! あの二人は付き合って日も浅いんだろう? それなのに、もう何年もいっしょにいるみたいじゃないか! 付け入る隙が無かったよ!」
「わたしは、改めてさとみ殿の懐の深さを知りました……」みつはすんすんと鼻を鳴らす。「無謀な行ないをしたのに、最後は、わたしに同情までしてくれました」
「……ところで、百合江さんは?」豆蔵が周囲を見回す。「あっしらの不甲斐無さに呆れて、帰っちまったのかい?」
「いや、そうじゃないんだ」竜二がしんみりとして言う。「さとみちゃんに、今までありがとうって伝えに行ってもらったんだよ。オレたちの完敗だ、これからは建一って子と幸せになりな、ってさ……」
「なるほど……」みつは大きくうなずく。「それは賢明ですね。わたしも清々しい気持ちでお別れができそうです」
「なぁに言ってやがんだい!」楓がものすごい剣幕で叫ぶ。「おい三下! あの姐さん、どっちへ行ったんだ!」
「ど、どっちって……」楓の迫力に圧倒された竜二は、震える指で方向を示した。「あっちだよ……」
「あーっ、もう!」楓は地団駄を踏む。「まだ他のやり方があったかも知れないじゃないか! それに、お前たちはこれで満足なんだろうけどさ、この楓姐さんは、あの小娘に恨み骨髄なんだよ! あきらめきれるかってんだ!」
楓は百合江の後を追って走り出した。
残った三人は顔を見合わせる。
「どうしよう……」竜二がつぶやく。「このまま放っておくかい?」
「楓はきっと何かをしでかすでしょう……」みつが腕組みをする。「今の楓は生身を得ています。さとみ殿に直接危害を加えることができる状況ですから……」
「じゃあ、あっしらも行きやしょう!」豆蔵が決然として言う。「嬢様への最期の御奉公だ!」
三人はうなずき合い、楓を追った。
つづく
「楓もみつ様も、嬢様に軽くいなされたって感じでしたよ」いっしょに現れた豆蔵がにやりと笑った。「さすが嬢様だ」
「豆蔵さん! そんな呑気なこと言うなよう!」竜二が豆蔵に詰め寄る。「このままじゃあ、さとみちゃんは、ずっとオレたちに気づかなくなるんだぜ!」
「いいじゃねぇかい。あっしらが見えなくても、嬢様は変わっちゃいねぇ。……なんかそれで満足だよ」
「豆蔵さん……」竜二がめずらしくため息をもらす。「そうなんだよ。いつだって、いつものさとみちゃんなんだよ……」
「竜二さん。前に、幸せそうな、楽しそうな嬢様を見て、このままでも良いって言ってたじゃねぇですか。……今なら良くわかりやすよ。たしかに嬢様は、いつだっていつもの嬢様でさぁ」
「……ってことは」百合江は二人のやり取りを見て、立ち上がった。「こっち側の完敗で良いのね?」
豆蔵と竜二は大きくうなずいた。
「じゃあ、みつさんと楓姐さんに戻って来るように伝えてちょうだい」
「承知しやした」
豆蔵は一礼すると、すっと消えた。
「百合江さん……」竜二は疲れ切ったように言う。「オレたちも今まで楽しかったって、さとみちゃんに伝えてくれないか……」
「……竜二さん」百合江は力無く笑む竜二を見てうなずいた。「わかったわ。みんなの気持ち、しっかり伝えるわね」
百合江は言うと、さとみに会うために歩き去った。
しばらくして、みつと楓が豆蔵と共に戻って来た。みつは涙を拭きながら、楓はぷりぷりしながら、立っている。
「全くさ!」楓が切り出す。「わたしの手練手管が通じないってのは、どう言うんだろうね! あの二人は付き合って日も浅いんだろう? それなのに、もう何年もいっしょにいるみたいじゃないか! 付け入る隙が無かったよ!」
「わたしは、改めてさとみ殿の懐の深さを知りました……」みつはすんすんと鼻を鳴らす。「無謀な行ないをしたのに、最後は、わたしに同情までしてくれました」
「……ところで、百合江さんは?」豆蔵が周囲を見回す。「あっしらの不甲斐無さに呆れて、帰っちまったのかい?」
「いや、そうじゃないんだ」竜二がしんみりとして言う。「さとみちゃんに、今までありがとうって伝えに行ってもらったんだよ。オレたちの完敗だ、これからは建一って子と幸せになりな、ってさ……」
「なるほど……」みつは大きくうなずく。「それは賢明ですね。わたしも清々しい気持ちでお別れができそうです」
「なぁに言ってやがんだい!」楓がものすごい剣幕で叫ぶ。「おい三下! あの姐さん、どっちへ行ったんだ!」
「ど、どっちって……」楓の迫力に圧倒された竜二は、震える指で方向を示した。「あっちだよ……」
「あーっ、もう!」楓は地団駄を踏む。「まだ他のやり方があったかも知れないじゃないか! それに、お前たちはこれで満足なんだろうけどさ、この楓姐さんは、あの小娘に恨み骨髄なんだよ! あきらめきれるかってんだ!」
楓は百合江の後を追って走り出した。
残った三人は顔を見合わせる。
「どうしよう……」竜二がつぶやく。「このまま放っておくかい?」
「楓はきっと何かをしでかすでしょう……」みつが腕組みをする。「今の楓は生身を得ています。さとみ殿に直接危害を加えることができる状況ですから……」
「じゃあ、あっしらも行きやしょう!」豆蔵が決然として言う。「嬢様への最期の御奉公だ!」
三人はうなずき合い、楓を追った。
つづく
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