お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

盗まれた女神像 ⑩

2019年07月08日 | 盗まれた女神像(全22話完結)
「メイム、おめえは最高だぜ……」マグが四つの目を白黒させながら、息も絶え絶えに言う。「こんなに隙間なく乗られたのは、初めての体験だぜ……」
 ここはマグの邸のベッドルームだ。
 ぶよぶよのでぶ女を自分の店「ラ・ヴィンランクス」で見初めてから入れ替えた、通常のダブルベッドの二倍の幅の特注ベッドの上で、その大半の面積を占める自身のからだを面倒臭そうに横向きにし、隣のマグに顔を向けたのが、そのでぶ女メイムだった。
「そうかい? じゃあ、また、乗っかってやろうか? 今度はあんたは俯せになって、その上に乗ってやるよ。命の保証はしないけどね! さあ、俯せな!」
 メイムは、気の利いた冗談を言ったつもりだったのか、ぐふぐふと笑い出した。
「いや、ちょっと休ませてくれ」マグが慌てて言う。「それにしても、おめえみてえな最高の女にゃ、何か褒美をやらねぇとなぁ」
「もう十分良くして貰ってるよ」
「いやいや、良くして貰っているのはオレだ。こんな理想の相手に恵まれてよ」
「そうかい。そんなに言うなら、褒美を貰ってやるよ」
「そうかい。……で、何が良い?」
「何でも良いのかい?」
「オレの命以外ならな」
「小さい事言うんじゃないよ!」メイムは言うと、ぶよぶよで重そうな二の腕をマグの顔に乗せた。マグの顔全体に、二の腕の脂肪が隙間なく乗り、口と鼻を完全に塞いだ。「そうだねぇ…… じゃあさ、あんたが盗ったて言う、メルーバの女神像を貰ってやるよ」
 マグが手足をばたばたさせて苦しそうに呻いた。メイムはゆるゆると腕をどかした。はあはあと息を整えるマグに、小馬鹿にしたような目を向けるメイムだった。
「あんた、あたしの話、聞こえてた?」
「ああ…… 聞いてたぜ……」マグは言うと、にやりと笑った。「それにしても、おめえの二の腕も最高だぜ」
「ふん、次は最高の胸と尻を味わわせてやるよ」メイムはつまらなさそうに言う。「そんな事より、どうなんだい? 返事は?」
「メルーバの女神像だっけ……」
「そうだって言ってんだろ!」
「分かった、分かったから、そう怒るんじゃねぇ」マグはにやにやしながら言う。「あんな像、おめえに比べりゃ、どうって事ねぇよ」
「ずいぶんとあっさりと言うじゃないか。まさか偽物じゃないだろうね?」
「馬鹿言うんじゃねぇ! オレは西のボスだぜ! 嘘なんぞ付くわけねえだろう!」
「そうかい、じゃあ、今すぐ頂戴な」
「今すぐは駄目だ。別の場所に保管しているからな」
「じゃあ、一週間後、あたしの指定するところへ一人で持って来るんだ」
「1人でかい?」
「そうよ。……それとも一人じゃ動けないって言うのかい? 女のあたしに一人でここに来させてるくせに?」
「分かったよ。一人で行くよ。で、場所はどこだ?」
「それは当日教えるよ。あれこれ調べられるのが嫌だからさ。構わないだろ?」
「ああ、分かったよ」マグは四つの目の目尻を下げる。「じゃあ、さっき言ってた、胸と尻でオレの顔を埋めてくれ。その後は俯せの上に全体重をかけて乗ってくれ……」
「しょうがないヤツだねえ……」
 メイムはぐふぐふ笑うと、のろのろと上半身を起こした。大きく弛んだ胸の片方を持ち上げてマグの顔の上に乗せ、そのまま覆い被さる。
 窪みの無い、丸く盛り上がった背中がベッドの上に拡がる。


 つづく



コメントを投稿