数珠が錫杖に打ち付けられる音が頭に響きました。不快感が増して、目が開けていられないほどの痛みが頭に渦巻きました、また、胃の腑が締め付けられるように痛くなってまいりました。あまりの気持ち悪さに、わたくしは吐きました。吐き出すと言うよりは、口から流れ出し、顎を伝って庭に落ちいて行くというものでございました。それは井戸から這い出てきた人形を作る汚泥のような黒い塊でございました。それが次々と口から流れ出します。わたくしは息が継げず、苦しさに涙が溢れてまいりました。
坊主はわたくしの様子を見てとると、数珠を打ち続けながら、聞いた事もない念仏を唱え始めました。
「やめい! やめい!」わたくしの口が叫びます。「やめぬと喉を掻っ切るぞ!」
わたくしの両手の爪がいきなり指の長さ程に伸び、先の尖ったものとなりました。そして、両手を坊主に向けました。
「戯けが!」坊主は臆する様子がございませぬ。「お前など怖れなければ何程のものでもないわ!」
わたくしの眼は坊主を睨み付けます。目尻が吊り上るのが分かります。左右の口の端が切れ上がり、口が大きく開きました。頬の半分ほどまで裂けたような開き方でございました。自分でも驚くような嫌な臭気が開いた口から漂います。舌が長く伸び出しました。それは先端が細長く二つに割れて、それぞれが勝手な動きをしております。左右の鬢窓から何かが伸び出しました。
「うぬ……」坊主はわたくしを見て念仏を止めました。「角まで揃うた鬼となったか……」
「この娘は鬼になりたがっておるのだ! 邪魔をするな!」
わたくしの口が言います。……そう、わたくしは鬼、青井の鬼の血を継ぐ鬼でございます。
「賢しらな事をぬかすな!」坊主が一喝します。「お前は骸となった亡者を弄び、さらには、娘さんの揺らいだ心を弄び、己れの快楽の為のみに動いておるのじゃ!」
「そうだとして、どうすると言うのだ?」わたくしの口が言います。「骸どもは恨みを持ち、この娘は鬼を欲しておるのだぞ! それをかなえるは我は鬼ではのうて仏じゃ!」
「大戯けめが! 御仏をも侮るとは!」
「元々が地獄の者だ、今さら仏など畏れぬわ!」
わたくしの口がそう言うと、これまたいきなり背が伸びたように感じました。坊主を下に見下ろしていたからでございます。坊主もわたくしを見上げております。
「ははは…… 鬼に己れの様な糞坊主如きが敵いはせぬ!」
突然、屋敷からぼうっと音を立てて炎が噴き出してまいりました。わたくしは振り返り炎を見ました。
「ははは…… 懐かしき地獄の様相じゃ!」
わたくしの口は喜悦の笑い声を立てました。
つづく
坊主はわたくしの様子を見てとると、数珠を打ち続けながら、聞いた事もない念仏を唱え始めました。
「やめい! やめい!」わたくしの口が叫びます。「やめぬと喉を掻っ切るぞ!」
わたくしの両手の爪がいきなり指の長さ程に伸び、先の尖ったものとなりました。そして、両手を坊主に向けました。
「戯けが!」坊主は臆する様子がございませぬ。「お前など怖れなければ何程のものでもないわ!」
わたくしの眼は坊主を睨み付けます。目尻が吊り上るのが分かります。左右の口の端が切れ上がり、口が大きく開きました。頬の半分ほどまで裂けたような開き方でございました。自分でも驚くような嫌な臭気が開いた口から漂います。舌が長く伸び出しました。それは先端が細長く二つに割れて、それぞれが勝手な動きをしております。左右の鬢窓から何かが伸び出しました。
「うぬ……」坊主はわたくしを見て念仏を止めました。「角まで揃うた鬼となったか……」
「この娘は鬼になりたがっておるのだ! 邪魔をするな!」
わたくしの口が言います。……そう、わたくしは鬼、青井の鬼の血を継ぐ鬼でございます。
「賢しらな事をぬかすな!」坊主が一喝します。「お前は骸となった亡者を弄び、さらには、娘さんの揺らいだ心を弄び、己れの快楽の為のみに動いておるのじゃ!」
「そうだとして、どうすると言うのだ?」わたくしの口が言います。「骸どもは恨みを持ち、この娘は鬼を欲しておるのだぞ! それをかなえるは我は鬼ではのうて仏じゃ!」
「大戯けめが! 御仏をも侮るとは!」
「元々が地獄の者だ、今さら仏など畏れぬわ!」
わたくしの口がそう言うと、これまたいきなり背が伸びたように感じました。坊主を下に見下ろしていたからでございます。坊主もわたくしを見上げております。
「ははは…… 鬼に己れの様な糞坊主如きが敵いはせぬ!」
突然、屋敷からぼうっと音を立てて炎が噴き出してまいりました。わたくしは振り返り炎を見ました。
「ははは…… 懐かしき地獄の様相じゃ!」
わたくしの口は喜悦の笑い声を立てました。
つづく
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