表紙と裏表紙をぐるりと包んでいる黒い皮は思いのほか硬く、指でこじ開けて間に挟まっている薄いクリーム色のノート部分を覗こうとしたが、びくともしない。また、どういう結び方をしているのかさっぱり分からないが、赤い紐もしっかりと縛ってあり、とてもほどけそうにない。
さては、あの二人のどちらかが、わざと入れたんじゃないだろうか。
だとしたら、何の為だろう……
「清水さん、このノート、清水さんの?」
「あら、ありがと」目だけ笑っていない笑顔で答える。「……ところで、中を見た?」
「とんでもない、見ていませんよ」
「じゃあ、見せてあげるわ、うふふふふ」
コーイチが結構ですと言う前に、清水はノートの紐をほどき、硬い皮表紙を開いた。中には見たこともない文字がずらずらと書かれている。
「これは、大魔王コレストウトスをこの世に蘇えらせる呪文なのよ」清水の顔から笑いが消えた。「これを見たからにはコーイチ君も私たちの仲間ね。うふふふふ」
その夜、清水に郊外の廃墟になった教会に連れて行かれ、頭もからだもすっぽりと包む全体が真っ黒なフードつきマントを着せられ、知らず知らずのうちに入信の儀式が執り行われ、その日からコレストウトスの下僕として、この世のものとは思われない陰惨で阿鼻叫喚な日々を送る事になってしまった……
オカルト人間の清水さんなら十分考えられる話だな、コーイチの喉がゴクリと鳴った。
「林谷さん、このノート、林谷さんの?」
「おお、ありがと」林谷は見たことも無い高級銘柄のタバコを吸いながら答える。「……ところで、中を見た?」
「とんでもない、見ていませんよ」
「じゃあ、見せてあげよう、わっはっはっは」
コーイチが結構ですと言う前に、林谷はノートの紐をほどき、硬い皮表紙を開いた。中には見たこともない設計図がぎっしりと書かれている。
「これは、僕が全財産を投じて世界征服のために組織したジャークの開発した殺人兵器の設計図だよ」林谷の眼が怪しく光った。「これを見たからにはコーイチ君も僕たちの仲間だ。わっはっはっは」
その夜、林谷の屋敷に連れて行かれ、頭もからだもすっぽりと包む全体が真っ黒なからだにぴったりな制服を着せられ、その日から悪の組織ジャークの戦闘員として、この世のものとは思われない陰惨で阿鼻叫喚な日々を送る事になってしまった……
大富豪の林谷さんなら十分考えられる話だな、コーイチは一人でに頷いていた。
突然、手元から煙が立ち上った。煙は赤い紐からだった。原因はコーイチが考えを巡らせている間、無意識に赤い紐をこすっていたせいだった。コーイチは驚いてノートを布団の上に落とした。燃え移ってはいけないと吉田課長製作の資料の一つで叩き消した。
煙が消えると、赤い紐も消えてしまっていた。
ノートの表紙が、自らの意志を持ったかのように開き始めた。
つづく
さては、あの二人のどちらかが、わざと入れたんじゃないだろうか。
だとしたら、何の為だろう……
「清水さん、このノート、清水さんの?」
「あら、ありがと」目だけ笑っていない笑顔で答える。「……ところで、中を見た?」
「とんでもない、見ていませんよ」
「じゃあ、見せてあげるわ、うふふふふ」
コーイチが結構ですと言う前に、清水はノートの紐をほどき、硬い皮表紙を開いた。中には見たこともない文字がずらずらと書かれている。
「これは、大魔王コレストウトスをこの世に蘇えらせる呪文なのよ」清水の顔から笑いが消えた。「これを見たからにはコーイチ君も私たちの仲間ね。うふふふふ」
その夜、清水に郊外の廃墟になった教会に連れて行かれ、頭もからだもすっぽりと包む全体が真っ黒なフードつきマントを着せられ、知らず知らずのうちに入信の儀式が執り行われ、その日からコレストウトスの下僕として、この世のものとは思われない陰惨で阿鼻叫喚な日々を送る事になってしまった……
オカルト人間の清水さんなら十分考えられる話だな、コーイチの喉がゴクリと鳴った。
「林谷さん、このノート、林谷さんの?」
「おお、ありがと」林谷は見たことも無い高級銘柄のタバコを吸いながら答える。「……ところで、中を見た?」
「とんでもない、見ていませんよ」
「じゃあ、見せてあげよう、わっはっはっは」
コーイチが結構ですと言う前に、林谷はノートの紐をほどき、硬い皮表紙を開いた。中には見たこともない設計図がぎっしりと書かれている。
「これは、僕が全財産を投じて世界征服のために組織したジャークの開発した殺人兵器の設計図だよ」林谷の眼が怪しく光った。「これを見たからにはコーイチ君も僕たちの仲間だ。わっはっはっは」
その夜、林谷の屋敷に連れて行かれ、頭もからだもすっぽりと包む全体が真っ黒なからだにぴったりな制服を着せられ、その日から悪の組織ジャークの戦闘員として、この世のものとは思われない陰惨で阿鼻叫喚な日々を送る事になってしまった……
大富豪の林谷さんなら十分考えられる話だな、コーイチは一人でに頷いていた。
突然、手元から煙が立ち上った。煙は赤い紐からだった。原因はコーイチが考えを巡らせている間、無意識に赤い紐をこすっていたせいだった。コーイチは驚いてノートを布団の上に落とした。燃え移ってはいけないと吉田課長製作の資料の一つで叩き消した。
煙が消えると、赤い紐も消えてしまっていた。
ノートの表紙が、自らの意志を持ったかのように開き始めた。
つづく
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