お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 2

2023年01月10日 | ジェシルと赤いゲート 
 ジャンセンの「お願い」と言うのは、ジェシルの住む屋敷についてだった。
「ちょっと調べさせてもらいたいんだよ」ジャンセンは言う。「実はさ、あの屋敷って地下三階くらいになっているだろう?」
「知らないわ、そんな事!」ジェシルはけんか腰の口調で答える。「わたしは単にあそこに住んでいるだけだから。さっさと引っ越したいんだけど、『お前は直系なのだから、ここに住まねばならない』なんて言われて、イヤイヤ住んでんのよ!」
「ジェシルって、本当に物の価値ってのに無関心と言うか、無知と言うか……」ジャンセンの大きなため息が聞こえる。ジェシルはむっとする。「あのさあ、あの屋敷って連邦政府が管理しているんだぜ。それってどう言う事か分かるかい?」
「叔父様たちが面白がってやっているんじゃないの?」ジェシルは、連邦評議員のタルメリック叔父の突き出た腹と薄い頭と老獪な顔を思い浮かべた。「わたしに任せておくと、ぶっ壊しかねないからって」
「うん、それは言えるな。ジェシルは幼い時から乱暴だったものな」ジャンセンが真面目に答える。ジェシルはますますむっとする。「……でもね、それ以上に重要なのは、歴史的価値なんだ。特に地下には歴史的に非常に貴重で興味深い物がたくさんあるんだ」
「そうなの? 全然知らなかったわ」ジェシルが答える。「それに、地下があるなんて、わたし本当に知らなかった」
「そうなのかい? 君は直系なんだろう? それなのに、知らないのかい?」ジャンセンの声には驚きと軽蔑とが混じっている。「いやはや…… 何と言って良いのか……」
「そこまで言うんなら、あなたがあの屋敷に住めば良いじゃない!」ジェシルは爆発した。「わたし、あんな大袈裟な屋敷なんて全く興味が無いんだから、あなたに譲るわ。これからタルメリック叔父様に連絡して、そうしてもらうから!」
「どうして君はそう短絡的なんだ?」ジャンセンが呆れたように言う。「あの屋敷は直系が住むって決まっているんだ。それを興味が無いで済ませようなんて、人格が疑われるな」
「大きなお世話よ!」
「ジェシル、君はさ、宇宙で一番古い家柄の直系なんだからさ、もっと自覚と責任を持つべきだよ」ジャンセンが諭すように言う。「本来なら、君が連邦評議員になるべきなんだよ。それをさ、宇宙パトロールの捜査官だなんてさ、ご先祖が聞き知ったら泣いちまうぜ」
「大きなお世話だわ!」ジェシルの怒りが頂点に達した。手が無意識にメルカトリーム熱線銃を握った。「……あなた、命が惜しくないようね……」
「それで話を戻すけど……」ジャンセンはジェシルの怒りに構う事無く続ける。「今度の君の休暇日に屋敷を訪れて、地下の各階を調べさせてほしいんだ。トールメン部長さんの話だと、三日後が休暇日のようだからさ、その時に屋敷へお邪魔するよ。そうだなぁ、昼前には行けると思う。あ、昼食の心配はしないで結構。弁当を持って行くから。じゃあ、よろしく」
 ジャンセンは一方的に通話を切った。
「……トールメン部長めぇ……」
 ジェシルは見えない連打攻撃をトールメン部長に浴びせ、倒れた所を見えない熱線銃の出力を最大限にして焼き尽くしていた。
  
 その夜、タルメリック叔父から連絡があり、何とかジャンセンの願いを通してほしいと頼まれた。
「あいつはあれで優秀な歴史学者なのだ。あの屋敷の地下の事を知ってから、再三再四調査したい旨を聞かされていてな。だから、ジェシルを説得できたら許可しようと答えたのだ」
「わたし、説得されていないし、許可もしていませんわ!」ここでもジェシルはけんか腰の物言いだ。「不躾な野郎としか思わなかったわ」
「まあ、そう言うな。それにな、あいつは説得も出来、許可も得たと思っているのだよ」叔父の声が急に猫撫で声になる。「……ジャンセンは元々が美少年だったからな。そして、そのまま大人になった感じだ。会っても損はないと思うぞ」
「それって……」ジェシルの口調がきつくなる。「どう言う意味ですの?」
「まあ、いや、その、あれだ」叔父は慌てる。「とにかく、頼むよ。私怨は捨ててくれ。純粋に学術的な事への協力なのだから。それに……」
 結局、ジェシルは受け入れた。付加条件でベルザの実一年分が約束されたからだった。

つづく

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