お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 1

2008年07月21日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「今日付けで営業四課に配属になった、芳川洋子君だ」
 西川課長が言った。・・・この時期に異動なんて、珍しい事があるもんだなあ・・・ コーイチは、連日深夜に放送されているカーレース番組のせいで、寝不足のぼうっとした頭で思った。
 西川に紹介された芳川洋子は、小柄でコーイチよりも若く、化粧っ気はないが整った顔立ちをしている。 しかし、黒い真っ直ぐな髪の毛を肩口で切り揃え、レンズの大きめな黒縁のメガネをかけ、グレーのスーツに白い飾りのないブラウス、スーツとお揃いの膝下まで丈のあるスカート、踵の低い黒の靴と言う姿は、若い女性特有の明るさを拒絶しているようだ。
「芳川君は、海外支社勤務を経て来た、若いがなかなかのキャリアの持ち主だ」西川はぼうっとしているコーイチを見た。「コーイチよりずっと仕事が出来そうだな」
 洋子は西川の視線の先のコーイチを見た。不意に名前を呼ばれてきょとんとした顔をしているコーイチを見て、「確かに」と言うように二、三度うなずいた。
「西川課長」林谷が手を上げて言った。「我が社に海外支社があるなんて初耳ですね」
「そうなんだ。私も初めて聞かされたんだ」
「その支社って、どこの国にあるのかしら?」清水が洋子に聞いた。「魔法の国とかかしら、うふふふふ」
「どこの国にあるのかはお答えできません。ただ、魔法の国ではない事は確かです」洋子は真面目に答えた。外見同様、明るさのない小さな声だった。「それに、どこにあるのかは企業秘密なんです・・・」
「ほう、社員にも内緒なんだ」印旛沼が驚いたように言った。「社長も水臭いねぇ・・・」
「まあ、そんなわけだから、要らない詮索はしないで、仲良くやってもらいたい」西川はひとりひとりの顔を順に見ながら言った。「さて、芳川君の席はコーイチの隣の岡島の席にしよう。いつまでも空けておいても仕方がないしな」
「分かりました」
 洋子は言うと、つかつかと歩き出し、コーイチの隣の席にどっかりと座り込んだ。
「コーイチ、色々と面倒を見てやってくれ。・・・そのうちお前が面倒を見てもらうことになるかもしれんがな」
 西川が言うと全員が笑った。コーイチはぶすっとした顔をして見せた。洋子はそんな様子のコーイチをしげしげと見つめていた。視線に気付いたコーイチが洋子の方を向いた。
「コーイチさん」洋子は言いながらメガネの奥の目を細めた。「わたしは大丈夫ですから、ご心配なく。コーイチさんはご自分のお仕事をなさって下さい」
 言い終わると、洋子は大きめのバッグから幾つもの書類を取り出し、机に並べた。
「は、はい、それは、どうも・・・」
 コーイチは申し訳なさそうに頭をぽりぽりと掻いた。

       つづく


にほんブログ村 小説ブログへ


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宇宙探検隊の冒険 38 ~宇... | トップ | コーイチ物語 2 「秘密の... »

コメントを投稿

コーイチ物語 2(全161話完結)」カテゴリの最新記事