お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

大怪獣オチラ 対 宇宙怪獣モヘラ  八

2008年01月13日 | オチラ 対 モヘラ(全27話完結)
 繭玉の亀裂はさらに数を増して行った。それに伴い剥がれ落ちて行く数も増える。
 疎らながらも見えてきた緑色の生物はやはり芋虫状の形態をしているようだった。
 対応策の検討を求められていた昆虫学界ではあったが、昆虫学界の両雄と言われ、それぞれが巨大な派閥を作っているポーランドのアレクサンドロ・デニゲンとドイツのハインツ・ヒンデルマンとが調査方法で対立し、国連の再三の要請にも拘わらず、全く進んでいなかった。
 一月の中頃、止むことなく降り続ける雪の中、ついに繭玉は崩壊した。中にいた芋虫状の生物が大きく全身を伸ばしたからだった。二つ折りの状態で繭玉の中にいたのだろう、体長は繭玉の倍はあった。白一色の中で緑色の体は不気味なほど生命力を宿しているように見えた。
 再び多国籍軍の司令官に任命されたハリス・ホーソンはその生物への全軍一斉攻撃を命じた。
 心中には前回の攻撃で命を落とした兵たちあった。R‐509部隊のドナルド・オーウェン大佐の悲壮な最期があった。弔い合戦のつもりもあった。それは攻撃に参加した兵たちも同様だった。
 激しい攻撃が続いた。繭玉を支えていたドームには何の反応も起きなかった。やはり繭玉を外敵から保護する事が目的だったようだ。戦車隊が前進し砲撃を加えた。空軍が戦闘機でピンポイント爆撃を行った。海軍は巡航ミサイルを発射させた。炸裂し燃え上がる炎が雪を照らし雪を溶かす。
 だが、効果は全く見られなかった。無傷な緑色の体を横たえたままだった。ホーソンは攻撃を中止させ、様子を窺った。舞い上がっていた雪が治まり、静寂が訪れた。
 突然、鋭い金属的な叫びを上げ、上体を立て起こした。緑色だった目が赤色に変わり、左右に開いた口から白い霧状のものを吹き出し始めた。
 それが周囲に堆積し始めると、そこからまた意志を持ったもののように糸状のものが伸び始めた。全軍が退避をした。その中をゆっくりと移動し始めた。移動の先には海があった。
 その生物は頭から海へと潜って行き、大きな波紋を作った。艦隊が激しく揺れた。瞬く間に追跡用のソナーの圏外に消えた。陸上に残った糸状のものはぱたりと動かなくなった。多国籍軍の兵士たちは呆然とした面持ちで残された残骸を見回していた。ホーソンは一人意を決したように廃墟となった市街地へと向かった。
 雪はまだ降り続いていた。

次回「大怪獣オチラ対宇宙怪獣モヘラ 九」を待て。



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