「わっ!」
突然、背中を押されて前のめりになり、両膝を床に付いた花子は、何事が起ったのかと振り返った。
花子の立っていた場所に、コーイチが立っていた。
コーイチは肩をすくめ、両目を固く閉じ、唇を真一文字に結んでいた。
その両頬には、逸子と洋子の右脚の蹴りが入っていた。逸子は花子に背を向け、洋子は花子の方を向いて、左脚でからだを支え、じっと動かずにいる。
「コーイチさん!」花子は叫んで立ち上がった。「……あれ?」
コーイチは右目を開けた。それからしばらくして左目を開けた。すくめていた肩をゆっくりと下げた。そして、ぽかんとした顔で見つめている花子を、それに負けないくらいぽかんとした顔で見返した。
二人の蹴りは、コーイチの頬ぎりぎりで当たっていなかったのだ。
「……当たっていない……」コーイチはつぶやくと、ふらふらと前へ出た。「花子さん、当たっていない……」
「そうね……」花子もつぶやく。「当たってないわ……」
逸子と洋子はそのまま動かない。
「……動かないね……」コーイチは花子の隣に立って二人を見た。「まさか、このままって事はないだろうなぁ……」
急に花子が怒った顔でコーイチを見た。
「なによ! やっぱりコーイチさんは、わたしよりこの二人の方が心配なのね!」
「い、いや……」花子の権幕に圧されてコーイチはおろおろしている。「そうじゃない……と言うか……」
「だって、わたしを突き飛ばしたじゃない!」
「あれは、花子さんが蹴られたらいけないって思って……」
「そうね、わたしが倒れたら、戦う人がいなくなっちゃうもんね!」
「そこまで考えちゃいなかったよ…… ただ、戦いがイヤなだけなんだ」
「本当?」
「当然だよ。ぼくにできるのはそんな所だけど……」
「……ごめんなさい……」花子は素直に言うと、そっとコーイチに寄り添った。花子は頭をかしげてコーイチの肩に乗せようとした。「……やっぱりコーイチさんって、優しいのね……」
「あ、あ、あ……!」
コーイチは変な声を上げながら前に出た。花子はかしげた首を元に戻し、不満そうに頬を膨らませた。
「花子さん! 見て! 芳川さんの目!」
コーイチは言って、蹴りを繰り出したままの姿の洋子を指さした。
洋子の白濁の目に徐々に黒目が戻ってきた。虚ろで焦点の定まらない目が、くるくると回っている。やがて洋子の瞳がコーイチで止まった。
「コーイチ……さん……」
洋子が乾いた声で言った。
「えっ! コーイチさん?」
背中を向けていた逸子が言った。そして、右脚を蹴りだしたままで左脚を軸にしてくるりと回った。逸子の目も元に戻っていた。
逸子と洋子は蹴り出していた右脚を下ろし、じっとコーイチを見つめた。
「コーイチさん!」
逸子と洋子は同時に声を上げ、同時に涙を流し、同時にコーイチに抱きつき、同時にわあわあ泣き出した。
「あの、その……」コーイチは困った顔を花子に向けるが、花子はぷいと横を向いてしまった。「……その、二人とも、落ち着いて、落ち着いて……」
「……だって、コーイチさんなんだもん」逸子が泣きながら言う。「気が付いたらコーイチさんが目の前にいるんだもん」
「わたしもここに連れて来られて……」洋子も泣きながら言う。「操られないように頑張ったんですけど…… でも、気が付いたら、コーイチさんがいて……」
また二人はわあわあ泣き出した。
「はいはいはい!」花子は逸子と洋子の肩に手をかけて引っ張り、コーイチから離した。「あのね、今は再会を喜び合ってる場合じゃないの!」
「……洋子ちゃん、この人、どなた?」逸子が花子をじろじろ見ながら言う。「なんとなく、コーイチさん好みだけど……」
「逸子さん、こちらは花子さん」洋子は花子の隣に立って紹介する。「わたしとコーイチさんとが、とってもお世話になっているんです」
「そう……」逸子は花子にぺこりと頭を下げた。「わたしのコーイチさんに、ありがとうございます」
「わたしの……って……」花子は逸子の前に立った。「恋人をアピールするつもり?」
「アピールも何も、恋人そのものですが、何か?」
「大王の操り人形だったくせに、何を言っているのよ!」
「言っている事がわかりませんが……」
花子は全身からピンク色のオーラを噴き出させた。
「なに? やる気なの?」
逸子の全身から赤いオーラが噴き出した。
突然、背中を押されて前のめりになり、両膝を床に付いた花子は、何事が起ったのかと振り返った。
花子の立っていた場所に、コーイチが立っていた。
コーイチは肩をすくめ、両目を固く閉じ、唇を真一文字に結んでいた。
その両頬には、逸子と洋子の右脚の蹴りが入っていた。逸子は花子に背を向け、洋子は花子の方を向いて、左脚でからだを支え、じっと動かずにいる。
「コーイチさん!」花子は叫んで立ち上がった。「……あれ?」
コーイチは右目を開けた。それからしばらくして左目を開けた。すくめていた肩をゆっくりと下げた。そして、ぽかんとした顔で見つめている花子を、それに負けないくらいぽかんとした顔で見返した。
二人の蹴りは、コーイチの頬ぎりぎりで当たっていなかったのだ。
「……当たっていない……」コーイチはつぶやくと、ふらふらと前へ出た。「花子さん、当たっていない……」
「そうね……」花子もつぶやく。「当たってないわ……」
逸子と洋子はそのまま動かない。
「……動かないね……」コーイチは花子の隣に立って二人を見た。「まさか、このままって事はないだろうなぁ……」
急に花子が怒った顔でコーイチを見た。
「なによ! やっぱりコーイチさんは、わたしよりこの二人の方が心配なのね!」
「い、いや……」花子の権幕に圧されてコーイチはおろおろしている。「そうじゃない……と言うか……」
「だって、わたしを突き飛ばしたじゃない!」
「あれは、花子さんが蹴られたらいけないって思って……」
「そうね、わたしが倒れたら、戦う人がいなくなっちゃうもんね!」
「そこまで考えちゃいなかったよ…… ただ、戦いがイヤなだけなんだ」
「本当?」
「当然だよ。ぼくにできるのはそんな所だけど……」
「……ごめんなさい……」花子は素直に言うと、そっとコーイチに寄り添った。花子は頭をかしげてコーイチの肩に乗せようとした。「……やっぱりコーイチさんって、優しいのね……」
「あ、あ、あ……!」
コーイチは変な声を上げながら前に出た。花子はかしげた首を元に戻し、不満そうに頬を膨らませた。
「花子さん! 見て! 芳川さんの目!」
コーイチは言って、蹴りを繰り出したままの姿の洋子を指さした。
洋子の白濁の目に徐々に黒目が戻ってきた。虚ろで焦点の定まらない目が、くるくると回っている。やがて洋子の瞳がコーイチで止まった。
「コーイチ……さん……」
洋子が乾いた声で言った。
「えっ! コーイチさん?」
背中を向けていた逸子が言った。そして、右脚を蹴りだしたままで左脚を軸にしてくるりと回った。逸子の目も元に戻っていた。
逸子と洋子は蹴り出していた右脚を下ろし、じっとコーイチを見つめた。
「コーイチさん!」
逸子と洋子は同時に声を上げ、同時に涙を流し、同時にコーイチに抱きつき、同時にわあわあ泣き出した。
「あの、その……」コーイチは困った顔を花子に向けるが、花子はぷいと横を向いてしまった。「……その、二人とも、落ち着いて、落ち着いて……」
「……だって、コーイチさんなんだもん」逸子が泣きながら言う。「気が付いたらコーイチさんが目の前にいるんだもん」
「わたしもここに連れて来られて……」洋子も泣きながら言う。「操られないように頑張ったんですけど…… でも、気が付いたら、コーイチさんがいて……」
また二人はわあわあ泣き出した。
「はいはいはい!」花子は逸子と洋子の肩に手をかけて引っ張り、コーイチから離した。「あのね、今は再会を喜び合ってる場合じゃないの!」
「……洋子ちゃん、この人、どなた?」逸子が花子をじろじろ見ながら言う。「なんとなく、コーイチさん好みだけど……」
「逸子さん、こちらは花子さん」洋子は花子の隣に立って紹介する。「わたしとコーイチさんとが、とってもお世話になっているんです」
「そう……」逸子は花子にぺこりと頭を下げた。「わたしのコーイチさんに、ありがとうございます」
「わたしの……って……」花子は逸子の前に立った。「恋人をアピールするつもり?」
「アピールも何も、恋人そのものですが、何か?」
「大王の操り人形だったくせに、何を言っているのよ!」
「言っている事がわかりませんが……」
花子は全身からピンク色のオーラを噴き出させた。
「なに? やる気なの?」
逸子の全身から赤いオーラが噴き出した。
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