さゆりはさとみに顔を向ける。さゆりは穏やかな表情だ。
「やっと会えたねぇ……」さゆりは笑む。その笑みに悪意は感じられない。「あ、夢で会ってたっけ」
くすくす笑うさゆりとは対照的に、さとみは緊張している。
さとみは生身だと霊体の姿は見えるが声は聞こえない。しかし、さゆりについては声が聞こえている。更に、ここにいる皆がさゆりの姿を見、さゆりの声が聞こえている。
それだけ、さゆりの霊としての力が増していると言う事だ。
「ユリアさぁ……」さゆりはユリアに言う。ユリアはびくっと背を震わせた。「やっぱり、あんたは弱いじゃないの」
「だ、だからさ……」ユリアはさゆりを見る。先程とは違い、戸惑った表情だ。「このおばさんの生身が悪いんだよ! ポンコツなのさ! 若いわたしにはふさわしくないんだよ!」
「ふ~ん……」
さゆりはつぶやく。と、不意に姿を消した。そして、すぐにユリアの傍に現われた。
「あんたさぁ……」さゆりはユリアをじっと見つめる。うっすら笑んでいるが、目は笑っていない。「そんなポンコツおばさんを選ぶってところで、ダメなんじゃない?」
「そう、かしら……?」ユリアが緊張した面持ちで答える。「結構、いけると思ったんだけどなぁ……」
「全然ダメ」さゆりがきっぱりと言う。「もう、あんたはいらないわ」
「いらないって……?」
さゆりはユリアの肩に軽く手を置いた。途端に、ユリアは後ろに弾き飛ばされ、ごろごろと床を転がる。
「何すんだよう!」ユリアが起き上がってさゆりを睨む。「痛いじゃないか!」
「そんなポンコツ生身だからだろ?」さゆりは小馬鹿にする。「もうあんたは邪魔なだけ。どこかへ行っちゃってよ」
「勝手な事を言わないでよ!」ユリアが慌てる。「わたしがいなきゃ、あの碌で無しどもを仕切れないんだよ?」
「あいつらの気は、もう充分過ぎるくらいもらったよ。おかげで力が満ち満ちている感じだわ」さゆりは言う。「それにさ、目的は達したしねぇ……」
「目的って……」ユリアは言うと、はっとしたような顔でさとみを見た。「綾部さとみ……」
「そう言う事」
さゆりはさとみに顔を向け、にこりと笑んだ。さとみも思わずそれに答えようと笑みそうになって、顔を引き締めた。
「だから、ユリア、あんたはいらない」さゆりの声は冷たい。「わたしの四天王とか何とか言ってたけど、そんなのいらないし」
「ふざけんじゃないよ!」
「ふざけちゃいないよ。大真面目さ」
「こん畜生があ!」
ユリアは我を忘れてさゆりの飛び掛かった。だが、生身のユリアはさゆりを通り抜けて床に転がった。
「みっともないねぇ……」さゆりは鼻で笑う。「だから生身って嫌いなのさ」
さゆりは右の手の平をユリアに向けた。それを見たユリアが床の上を転がって逃げた。さゆりの手の平から衝撃波が放たれた。ユリアは避けたと思っていたが、衝撃波は途中で曲がり、逃げたユリアに当たった。
「きゃっ!」
ユリアは悲鳴を上げた。
「ははは、ユリア、あんたも女の子らしい悲鳴を上げるんだね」さゆりは笑う。「……これで分かったろう? 力が満ちているってのがさ。それに、もうあんたなんかいらないって事がさ」
さゆりは再び手の平をユリアに向ける。
「もう止めてあげなさいよう!」さとみは耐えきれずに言う。「もう充分でしょ? それに、あなたの狙いって、わたしなんでしょ?」
「……まあ、そうだけどさ」さゆりは手の平をユリアに向けたまま、顔だけさとみに向ける。優しい笑みを浮かべている。「わたし、弱いヤツって嫌いなのよ。それも、強がっていたくせに実際は弱いって言うヤツがね」
「違うわよ」さとみが言う。「あなたが強くなり過ぎたのよ。あなただって元々は強くは無かったはずよ!」
「そんな事、忘れちまったよ……」さゆりは言うと、ユリアを見る。「さあ、ユリア、あんたはおしまいだ」
ユリアはさゆりを睨む。それから周囲を見回す。みつと冨美代と虎之助がすぐにでも動けるようにと身構えている。
「ちっ!」ユリアは舌打ちをする。「生身でいりゃあ、さゆりに叩きのめされるし、霊体を抜け出させりゃあ、女侍たちが飛び掛かって来るし…… 困ったわねぇ……」
「ユリア、改心してあの世に逝って」さとみが言う。「そうすれば、きっと真面目な生き方が出来るわ」
さとみの言葉にさゆりが腹を抱えて笑い出した。しかし、ユリアは真顔でじっとさとみの顔を見つめた。
「あんた……」ユリアは言う。「あんた、根っからの良い人なんだな……」
「そんな事どうでも良いから。わたし、あなたを助けたい」
「そりゃ嬉しいけどさ……」ユリアはゆっくりと立ち上がった。「……無理ってものよ。だってさ、わたしって、根っからの悪人で、その悪人が好きだから」
ユリアは言うと、両手を空に向かって差し上げた。
「さあ、野郎ども! 出て来るんだ!」ユリアは叫ぶ。「上手い事、こいつらをぶっ倒したら、わたしの四天王にしてやるよ!」
ユリアの一言で、空間に亀裂が走り、そこからぞろぞろと碌で無しの霊体どもが湧いて出てきた。屋上が溢れ返りそうだ。霊体どもはみつたちに迫り、さゆりにも迫って行った。
「これはいけない!」
片岡は言うと、お経の様なものを唱え始めた。
「さとみちゃん、ユリアが逃げるわ!」
百合恵が言う。この混乱に乗じて、ユリアは谷山先生から離れようとしている。
みつたちがユリアに迫ろうとするが、霊体どもが絡んできて身動きが出来ない。
松原先生始め「百合恵会」のメンバーには霊体どもは見えなかったが、何やら不穏な空気の流れは感じ取っているようで、動けなくなっている。
さとみは霊体を抜け出させようとした。
「ダメです! さとみさん!」片岡の声が飛んで来た。「邪悪の気が満ちています! この中に霊体で入るのは危険です!」
「じゃあ、どうすれば良いんですか!」
さとみは泣き出そうな顔で片岡に訊く。
「こうするんだよ!」
そう言ったのはさゆりだった。
つづく
「やっと会えたねぇ……」さゆりは笑む。その笑みに悪意は感じられない。「あ、夢で会ってたっけ」
くすくす笑うさゆりとは対照的に、さとみは緊張している。
さとみは生身だと霊体の姿は見えるが声は聞こえない。しかし、さゆりについては声が聞こえている。更に、ここにいる皆がさゆりの姿を見、さゆりの声が聞こえている。
それだけ、さゆりの霊としての力が増していると言う事だ。
「ユリアさぁ……」さゆりはユリアに言う。ユリアはびくっと背を震わせた。「やっぱり、あんたは弱いじゃないの」
「だ、だからさ……」ユリアはさゆりを見る。先程とは違い、戸惑った表情だ。「このおばさんの生身が悪いんだよ! ポンコツなのさ! 若いわたしにはふさわしくないんだよ!」
「ふ~ん……」
さゆりはつぶやく。と、不意に姿を消した。そして、すぐにユリアの傍に現われた。
「あんたさぁ……」さゆりはユリアをじっと見つめる。うっすら笑んでいるが、目は笑っていない。「そんなポンコツおばさんを選ぶってところで、ダメなんじゃない?」
「そう、かしら……?」ユリアが緊張した面持ちで答える。「結構、いけると思ったんだけどなぁ……」
「全然ダメ」さゆりがきっぱりと言う。「もう、あんたはいらないわ」
「いらないって……?」
さゆりはユリアの肩に軽く手を置いた。途端に、ユリアは後ろに弾き飛ばされ、ごろごろと床を転がる。
「何すんだよう!」ユリアが起き上がってさゆりを睨む。「痛いじゃないか!」
「そんなポンコツ生身だからだろ?」さゆりは小馬鹿にする。「もうあんたは邪魔なだけ。どこかへ行っちゃってよ」
「勝手な事を言わないでよ!」ユリアが慌てる。「わたしがいなきゃ、あの碌で無しどもを仕切れないんだよ?」
「あいつらの気は、もう充分過ぎるくらいもらったよ。おかげで力が満ち満ちている感じだわ」さゆりは言う。「それにさ、目的は達したしねぇ……」
「目的って……」ユリアは言うと、はっとしたような顔でさとみを見た。「綾部さとみ……」
「そう言う事」
さゆりはさとみに顔を向け、にこりと笑んだ。さとみも思わずそれに答えようと笑みそうになって、顔を引き締めた。
「だから、ユリア、あんたはいらない」さゆりの声は冷たい。「わたしの四天王とか何とか言ってたけど、そんなのいらないし」
「ふざけんじゃないよ!」
「ふざけちゃいないよ。大真面目さ」
「こん畜生があ!」
ユリアは我を忘れてさゆりの飛び掛かった。だが、生身のユリアはさゆりを通り抜けて床に転がった。
「みっともないねぇ……」さゆりは鼻で笑う。「だから生身って嫌いなのさ」
さゆりは右の手の平をユリアに向けた。それを見たユリアが床の上を転がって逃げた。さゆりの手の平から衝撃波が放たれた。ユリアは避けたと思っていたが、衝撃波は途中で曲がり、逃げたユリアに当たった。
「きゃっ!」
ユリアは悲鳴を上げた。
「ははは、ユリア、あんたも女の子らしい悲鳴を上げるんだね」さゆりは笑う。「……これで分かったろう? 力が満ちているってのがさ。それに、もうあんたなんかいらないって事がさ」
さゆりは再び手の平をユリアに向ける。
「もう止めてあげなさいよう!」さとみは耐えきれずに言う。「もう充分でしょ? それに、あなたの狙いって、わたしなんでしょ?」
「……まあ、そうだけどさ」さゆりは手の平をユリアに向けたまま、顔だけさとみに向ける。優しい笑みを浮かべている。「わたし、弱いヤツって嫌いなのよ。それも、強がっていたくせに実際は弱いって言うヤツがね」
「違うわよ」さとみが言う。「あなたが強くなり過ぎたのよ。あなただって元々は強くは無かったはずよ!」
「そんな事、忘れちまったよ……」さゆりは言うと、ユリアを見る。「さあ、ユリア、あんたはおしまいだ」
ユリアはさゆりを睨む。それから周囲を見回す。みつと冨美代と虎之助がすぐにでも動けるようにと身構えている。
「ちっ!」ユリアは舌打ちをする。「生身でいりゃあ、さゆりに叩きのめされるし、霊体を抜け出させりゃあ、女侍たちが飛び掛かって来るし…… 困ったわねぇ……」
「ユリア、改心してあの世に逝って」さとみが言う。「そうすれば、きっと真面目な生き方が出来るわ」
さとみの言葉にさゆりが腹を抱えて笑い出した。しかし、ユリアは真顔でじっとさとみの顔を見つめた。
「あんた……」ユリアは言う。「あんた、根っからの良い人なんだな……」
「そんな事どうでも良いから。わたし、あなたを助けたい」
「そりゃ嬉しいけどさ……」ユリアはゆっくりと立ち上がった。「……無理ってものよ。だってさ、わたしって、根っからの悪人で、その悪人が好きだから」
ユリアは言うと、両手を空に向かって差し上げた。
「さあ、野郎ども! 出て来るんだ!」ユリアは叫ぶ。「上手い事、こいつらをぶっ倒したら、わたしの四天王にしてやるよ!」
ユリアの一言で、空間に亀裂が走り、そこからぞろぞろと碌で無しの霊体どもが湧いて出てきた。屋上が溢れ返りそうだ。霊体どもはみつたちに迫り、さゆりにも迫って行った。
「これはいけない!」
片岡は言うと、お経の様なものを唱え始めた。
「さとみちゃん、ユリアが逃げるわ!」
百合恵が言う。この混乱に乗じて、ユリアは谷山先生から離れようとしている。
みつたちがユリアに迫ろうとするが、霊体どもが絡んできて身動きが出来ない。
松原先生始め「百合恵会」のメンバーには霊体どもは見えなかったが、何やら不穏な空気の流れは感じ取っているようで、動けなくなっている。
さとみは霊体を抜け出させようとした。
「ダメです! さとみさん!」片岡の声が飛んで来た。「邪悪の気が満ちています! この中に霊体で入るのは危険です!」
「じゃあ、どうすれば良いんですか!」
さとみは泣き出そうな顔で片岡に訊く。
「こうするんだよ!」
そう言ったのはさゆりだった。
つづく
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