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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 28

2022年07月31日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「おやまあ……」ユリアは、この前憑いたアイを目の前にしてにやりと笑う。「どう? 右腕の痛みは消えた?」
「え? 何で……?」
 アイは戸惑う。さゆりを締めてやろうと屋上に行って、気がついたら、話し方が少し変だった麗子に助けられていた。その時、右腕が少し痛かった。
「どうして、そんな事を知ってんだ?」
「ははは、どうしてだろうねぇ……」ユリアは楽しそうに言う。「『知らぬが仏』って言うじゃない? あら、仏だってさ、このわたしが! きゃははははは!」
 ユリアはけたたましく笑う。アイは不安そうな顔をさとみに向けた。戦う事に臆したのではなく、事の真相を知りたがっているのだ。真相を知ったら、アイは落ち込むかもしれない。落ち込んだら、戦う気を失うかもしれない。
「……どうしてあなたが谷山先生に憑いているのよ?」さとみはアイの横に並んでユリアに訊く。あえて話題を逸らす。「さゆりに見限られたんでしょ? 大人しくどこかへ行けば良いのに」
「うるさい!」ユリアは怒鳴り、さとみを睨む。すっかり関心がさとみに向いたようだ。「わたしは馬鹿にされるのが我慢できないの。それがさゆりだったとしてもね!」
「だったら、わたしじゃなくて、さゆりと戦えば良いじゃない」
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 勝てるわけないじゃない!」ユリアが呆れたように言う。「だから、あなたを狙うのよ」
「それって、答えになっていないわ」さとみが言う。「どうして谷山先生に憑いているのよ?」
「このおばさん(ユリアは言って胸をどんと叩いて見せた)も、今夜来るって聞いたから、おばさんの様子を見ていたんだ。そのうちにさ、からかってやろうっと思って、色々としたんだ。すぐ傍に物を落とすとか、がたがた揺すって音を立てるとか、変な声を聞かせるとか、血まみれになったおばさんの顔を鏡に映してやるとか……」
「うぇっ、悪趣味……」
「そうしかめっ面しないでよ」ユリアは笑う。「そんなこんなでからかってたら、おばさんが気を失っちゃってさ。で、試してみたら憑けたのさ。それで、今に至る」
「何を解説文みたいなことを言ってんのよ」さとみは口を尖らせる。「さっさと離れなさいよ!」
「イヤだ」ユリアは即答する。「あんたの後ろには、女侍やら薙刀女やら女装空手家やらが、じっとわたしを睨んで立ってんだ。抜け出したら総攻撃を喰らうじゃないのよ。そうなったら、さすがにちょっとねぇ…… だから、こんなおばさんでも、生身の方がまだマシだよ」
 霊体は直接生身に手は出せない事を、ユリアは言っている。
「何だか分からねぇけど……」アイはさとみの前に出て、さとみを背後に隠した。「わたしが相手してやるよ。憑いたって言ってもさ、そんなおばさんじゃ、わたしには勝てねぇよ」
「それはどうかしらぁ?」ユリアが小馬鹿にしたように言う。「このおばさんなんかどうなっても良いんだからさ、わたしは無茶苦茶するよぉ……」
「かまわねぇよ」アイはあっさりと言う。「わたしは谷山先生が嫌いだから、どうなったって気にしねぇ」
「そう……」ユリアががっかりしたように言う。「この先生、人気が無いんだ……」
「そう言う事さ」アイは言うと身構える。「それに、鍛えていなさそうだから、弱いぜ」
「それは、わたしが何とかするわ」
 ユリアは言って、にやりと笑う。アイも、ユリアの笑みの意味が分かった。しばしの間、アイとユリアは見つめ合う。互いに表情を変えない。さとみはそろそろと後ろに下がった。
 突然、ユリアはアイに向かって跳躍した。ユリアはアイの顔面に目がけて右脚で回し蹴りを放って来た。それを見越していたのか、アイは左腕を曲げ、放って来た右脚の脛に肘打ちを食らわせた。
「うっ……」
 ユリアは呻くと、右の脛を押さえながら屋上の床を転がった。
「だから言っただろう?」アイが小馬鹿にしたように言う。「谷山先生はからだを鍛えていないんだってさ」
「その様だねぇ……」ユリアは立ち上がる。「それじゃ、お前の生身をもらおうか……」
 ユリアの言葉に、みつは抜刀し、冨美代は薙刀を上段に構え、虎之助は構えを取った。ユリアが谷山先生から抜け出そうものなら、即討ち込めるようにと体制を整えたのだ。
「やるわけねぇだろう!」アイが怒鳴る。「もし欲しいんなら、力づくで来やがれ!」
「おや、凄い自信ねぇ…… 『油断大敵』って言葉、知っているかしら?」
「知らねぇなぁ!」
 アイは言うと、右拳を大きく引いてユリアに突進した。アイはユリアの顔を見ながら、右拳を真っ直ぐに繰り出す。ユリアはそれをかわそうと、頭を後ろに下げた。と、アイがその場で、右脚を軸にして、からだをやや前に倒し気味で、右回りに勢い良く回転させた。アイの右の拳の甲側が、ユリアの右頬に大きな音を立ててかまされた。ユリアは再び屋上の床に転がされた。悔しそうな顔でアイを見上げている。
「ははは! 『油断大敵』って、お前の事じゃねぇか!」アイは馬鹿にしたように言う。「それに言っただろ? そのおばさん、鍛えていないってさ!」
「……くそぅ……」ユリアは右頬を押さえてよろよろと立ち上がる。「ここまでわたしを侮辱したヤツは、生きている間も死んでからも初めてだ!」
「だったら、どうだってんだ?」アイは平然とした表情で訊く。「諦めて降参しろよ。谷山先生じゃ、わたしには敵わないぜ」
「ふん!」ユリアは邪悪そうな笑みを浮かべる。「このおばさんがダメなら、他の生身にすりゃ良いのさ!」
 ユリアは言うと、朱音たちのいる所へと駈け出した。
「麗子!」さとみは咄嗟に叫ぶ。「逃げて! ユリアはあなたを狙っているわ!」
「え? えええええっ!」
 麗子は驚く。途端に腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。松原先生と片山とが麗子の前に立つ。
「どけえぇ!」
 ユリアは叫びながら突進する。
「……お待ちよ」
 大きなものではなかったが、ぞっとするほど冷たい声がした。その声にユリアの足が止まった。皆が声のする方を見た。
 若い美しい娘が立っていた。ぼろぼろになったくすんだ赤色の着物姿で、帯は無く、太めの黒い紐で腰の辺りを縛っている。着物の裾が太腿の途中から千切れていて、すらりとした白い脚が晒されている。
「さゆり!」
 さとみが思わず声を上げる。 


つづく

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