コーイチと京子は並んで立った。
「よっ! コーイチ!」
大きな掛け声がかかった。……この馬鹿でかい声は名護瀬だな。あいつ、一体ワインボトルを何本空けたんだろう。
「きゃーっ、京子さあん、その服、素敵ぃ!」
これは逸子さんだな。服が変わった事には全然疑問を持たないんだ。多分、用意してあったとでも思っているんだろうな。これが魔法だと知ったらどうなるかな。……教えちゃおうかな。
何故か変な事を考えているコーイチだった。
「えーっと、ところでコーイチ君は何をしてくれるのかな?」
林谷がマイクに向かって言った。
「え?」
……すっかり忘れていた! そう言えば、ボクは何をするんだろう?
コーイチは戸惑った顔で林谷を見ていた。林谷の笑顔が段々と薄れ、困惑した表情へと変わり始めた。
「コーイチ君、まさか、……まさかとは思うけど、何をするのか、決めてないんじゃないのかい?」
林谷が心配そうな声で言った。……確かに林谷さんの言う通りだ。全部任せて、大丈夫、私を信用して、なんて事を言うから、ボク自身、本当に何も考えていないんだ。
コーイチは京子の方へ顔を向けた。京子は、暗い場内に向かって、にこにこしながら手を振っていた。
「おい、何をしてるんだよ!」
コーイチは京子の耳元で言った。言われた京子はにこにこ顔のままコーイチを見た。そして、同じく耳元で言った。
「何って、どうやら私にファンが出来たみたい。あちらこちらで手を振ってくれているから、嬉しくなっちゃって、手を振り返しているのよ」
「場内は暗いのに、見えるって言うのかい?」
コーイチは驚いたように聞いた。
「見えるわよ。だって私、魔女だもん」
京子は当たり前だと言ったように答えた。コーイチはあわてた。
「いいかい、君が魔女だって事はボク以外知らないんだよ! だから、あんまり変わったことはしないで欲しいな」
京子は、一瞬つまんなさそうな顔をしたが、すぐに笑顔でうなずいた。
「そうね、さっき約束したものね。分かりました。言う通りにします。……って、ちょっと手遅れかなあ?」
「おやおや、二人で何やら仲良くひそひそ話かなあ?」林谷がからかうように言った。「内緒の話は後ほどにしてもらって…… さあ、お客様もお待ちかねだよ。何をしてくれるのかな?」
「え、あのう……」
コーイチが答えに困っていると、京子がにこにこしながら手を上げた。
「はい、コーイチ君の幼なじみの京子さん!」
林谷が学校の先生よろしく京子を指名した。京子は手を上げたまま、マイクの前に立った。
「えーっと……」
京子がマイクに向かって一声発すると、場内のあちこちから「京子ちゃーん!」と男性の声がかかった。場内が笑いに包まれた。
笑いが治まるのを待って、京子が再びマイクに向かった。
「えーっと、コーイチ君が皆さんの頭上を飛びます!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!?」
コーイチは驚いたような呆れたような声を出しながら、京子を見つめた。京子はにっこりと可愛い笑顔をコーイチに向け、指をパチンと鳴らして言った。
「では、場内の照明、オン!」
場内の照明が点き、眩しいくらいに明るくなった。
つづく
「よっ! コーイチ!」
大きな掛け声がかかった。……この馬鹿でかい声は名護瀬だな。あいつ、一体ワインボトルを何本空けたんだろう。
「きゃーっ、京子さあん、その服、素敵ぃ!」
これは逸子さんだな。服が変わった事には全然疑問を持たないんだ。多分、用意してあったとでも思っているんだろうな。これが魔法だと知ったらどうなるかな。……教えちゃおうかな。
何故か変な事を考えているコーイチだった。
「えーっと、ところでコーイチ君は何をしてくれるのかな?」
林谷がマイクに向かって言った。
「え?」
……すっかり忘れていた! そう言えば、ボクは何をするんだろう?
コーイチは戸惑った顔で林谷を見ていた。林谷の笑顔が段々と薄れ、困惑した表情へと変わり始めた。
「コーイチ君、まさか、……まさかとは思うけど、何をするのか、決めてないんじゃないのかい?」
林谷が心配そうな声で言った。……確かに林谷さんの言う通りだ。全部任せて、大丈夫、私を信用して、なんて事を言うから、ボク自身、本当に何も考えていないんだ。
コーイチは京子の方へ顔を向けた。京子は、暗い場内に向かって、にこにこしながら手を振っていた。
「おい、何をしてるんだよ!」
コーイチは京子の耳元で言った。言われた京子はにこにこ顔のままコーイチを見た。そして、同じく耳元で言った。
「何って、どうやら私にファンが出来たみたい。あちらこちらで手を振ってくれているから、嬉しくなっちゃって、手を振り返しているのよ」
「場内は暗いのに、見えるって言うのかい?」
コーイチは驚いたように聞いた。
「見えるわよ。だって私、魔女だもん」
京子は当たり前だと言ったように答えた。コーイチはあわてた。
「いいかい、君が魔女だって事はボク以外知らないんだよ! だから、あんまり変わったことはしないで欲しいな」
京子は、一瞬つまんなさそうな顔をしたが、すぐに笑顔でうなずいた。
「そうね、さっき約束したものね。分かりました。言う通りにします。……って、ちょっと手遅れかなあ?」
「おやおや、二人で何やら仲良くひそひそ話かなあ?」林谷がからかうように言った。「内緒の話は後ほどにしてもらって…… さあ、お客様もお待ちかねだよ。何をしてくれるのかな?」
「え、あのう……」
コーイチが答えに困っていると、京子がにこにこしながら手を上げた。
「はい、コーイチ君の幼なじみの京子さん!」
林谷が学校の先生よろしく京子を指名した。京子は手を上げたまま、マイクの前に立った。
「えーっと……」
京子がマイクに向かって一声発すると、場内のあちこちから「京子ちゃーん!」と男性の声がかかった。場内が笑いに包まれた。
笑いが治まるのを待って、京子が再びマイクに向かった。
「えーっと、コーイチ君が皆さんの頭上を飛びます!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!?」
コーイチは驚いたような呆れたような声を出しながら、京子を見つめた。京子はにっこりと可愛い笑顔をコーイチに向け、指をパチンと鳴らして言った。
「では、場内の照明、オン!」
場内の照明が点き、眩しいくらいに明るくなった。
つづく
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