「おう、若造! 言うに事欠いて、なんて事をぬかしやがるんでぇ!」
アーセルは絨毯に座っているムハンマイドの前に立ち、殺気に満ちた目を向ける。
「ボクや他の連中を疑うつもりでいるのなら、あんただって例外ではないと言う話だよ」ムハンマイドは平然とした顔でアーセルを見上げる。「条件は皆同じだと言いたいのさ。だから、ジェシルだって疑おうと思えば疑えるはずだ」
「そうね」ジェシルは答える。「ここに居る皆、容疑者の可能性は否定できないわね……」
「だが、部屋の構造を知っているのは誰だね?」オーランド・ゼムが口を開く。「正直、わたしは知らなかったよ」
「オレだって知らねぇぜ!」アーセルが声を荒げる。「部屋の事を知っているのは、若造! お前ぇだぜ! それによう、お前ぇ、年寄りを嫌っているじゃあねぇかよう!」
「たしかに、ボクがこの空間を作ったし、ボクは年寄りが嫌いだ」ムハンマイドは落ち着いた声で言う。「でもね、自分を不利な立場に置く様な事はしないさ。もし、こんな事をするんなら、証拠を残すような事は絶対にしない」
「犯人がシンジケート連中と内通している可能性が大きいって言ったじゃない?」ジェシルが言う。「だから、わざわざ自分で手を下す必要は無いとも言えるわ。目的は果たした、後は宜しくって感じかしら?」
「……異次元空間を出入りできるヤツか……」オーランド・ゼムはつぶやくと、ジェシルを見た。「ジェシル、覚えているかい? わたしの異次元アジトに来た時、君が盗聴盗撮用に装置を破壊した事をさ」
「そんな事があったかしらねぇ?」
「おや、忘れてしまったのかね? 物忘れは年寄りの始まりだぞ?」オーランド・ゼムが笑む。「……あれはベスタの一味の仕業だった」
「ベスタだとお!」アーセルが怒鳴る。「あいつか? あいつは、何かあると、直ぐにこそこそと別の次元に身を隠しやがる腰抜け野郎だぜ!」
「でもね、もし、ベスタの一味がリタを襲ったとしてもよ」ジェシルは、興奮しているアーセルを無視して話す。「わたしたちがここに居る事を知っていなければ、出来ないはずだわ」
「話は振り出しに戻ってしまうか……」ムハンマイドがつぶやく。「この中の誰かが裏切っているわけだ……」
ムハンマイドの言葉に、皆が互いを見合った。ジェシルは部外者目線で皆の様子を眺めていた。重い空気が漂っている。
「……じゃあ、こうしましょう」見かねたジェシルが言う。「わたしが宇宙パトロールに報告するわ。そして、この星まで迎えに来てもらうの。その際に宇宙連合軍の一隊でも付けてもらえるように評議院の叔父に頼んでみるわ。そうすれば、さすがのシンジケートの連中も手が出せないでしょ?」
「それは無理だな……」ムハンマイドが言って立ち上がった。「出来ないよ」
「何?」ジェシルの右手が熱線銃に触れる。「冗談なの? それとも……」
「まあ、待てよ……」ムハンマイドが苦笑する。「この星には通信システムは設置していないんだよ」
「どう言う事?」
「この星はボクが思索を深めるために作り替えた星だ。だから、外界とは連絡できないようにしてある」
「へん!」アーセルが割って入る。「そんなのよう、この部屋を作ったみたいに、ちょいちょいとやりゃあ出来るだろうがよう!」
「無理だ。システムが全然違うんでね」
「若造よう! 何だかんだぬかしてやがるがよう、オレたちを孤立させているじゃねぇかよう!」アーセルがムハンマイドをにらむ。「お前ぇじゃないのか? 裏切り者ってのはよう? シンジケート潰しじゃなくて年寄り潰しが目的なんじゃねぇのか?」
「ふざけた事を言うな!」ムハンマイドが声を荒げる。「仮にボクだったとしたら、あんたが飲んでいる酒に毒を仕込む事だって容易に出来るんだぞ!」
そう言われて、アーセルは手にしたグラスをカウンターに置いた。
「それにだ」ムハンマイドは続ける。「リタの命だけ奪って、残った連中を脅すなんて面倒な事を、わざわざすると思うのか? 全員の命をまとめて奪った方が効率的だろう?」
「でもよう、わざとそうやっているって事だって考えられるじゃねぇかよう!」
「じゃあ、あんただって、始終酒を飲んでいるけど、それってみんなを油断させるカモフラージュじゃないのか?」ムハンマイドはアーセルに食って掛かる。「呑兵衛の無能者って思わせて、実はベスタとか言うヤツと通じているんじゃなのか? ベスタの悪口を言っていたけどさ、そうすれば敵対していると思わせる事が出来るだろうからな!」
「おいおい、二人とも落ち着きたまえ」オーランド・ゼムが割って入る。「裏切り者の話はジェシルが言い出しただけだ。そうと決まったわけじゃないだろう? なあ、ジェシル、そうだろう? 君も確信があって言ったわけじゃないだろう?」
「まあ、そうね」ジェシルは認める。「あくまでも可能性の一つよ……」
「わたくしもそう思います!」
ミュウミュウが大きな、きっぱりとした声を出した。皆が驚いてミュウミュウを見る。ミュウミュウは階段を降りた。それから、男たちの一人一人の顔を見る。
「わたくしには、この中に裏切り者がいるとは全く思えないのです」そう言うと、ミュウミュウは優しく微笑む。「リタ様をお救い下さるように手配をしてくださったオーランド・ゼムさん。そのために尽力下さったジェシルさん。ケンカ腰ながらもリタ様を元気づけて下さったアーセルさん。そして、こんなにも快適な場所をご提供下さったムハンマイドさん。……わたくしには、皆さんの中に悪意を持っている人がいるとは、どうしても思えないのです」
皆の雰囲気が一変した。ぎすぎすした空気が霧散した。
「……そうだよなあ。おい、若造よう……」アーセルがムハンマイドに言う。「考えてみりゃあよう、お前ぇのおかげで、こうして楽が出来ているんだよなぁ」
「いや、あんただって 呑兵衛で口は悪いけどさ」ムハンマイドがアーセルに言う。「リタを好きだった事は良く分かっている。だから、犯人を捕まえたいって言う、強い気持ちが出過ぎているのは分かっていたよ」
「こうなった責任は、全てわたしにある……」オーランド・ゼムが言う。「わたしがもっとしっかりしていれば……」
「それで、ミュウミュウがどう考えているの?」ジェシルが言う。「裏切り者がいないとなると……」
「きっと、わたくしたちが行動を起こす前から、監視されていたのだと思うんです」ミュウミュウは言う。「今回のように行動を起こす前から密なやり取りをしておりましたから、シンジケートの連中が感付いたのですわ。特に、リタ様はこの手の隠し事を秘めておくと言うのが苦手でいらしたものですから、そこから漏れたのですわ」
「そうかも知れないな」オーランド・ゼムはうなずく。「リタは姫様育ちだ。隠し事の出来る人ではなかったな。シンジケートがリタを追えば、わたしたちとの繋がりを見いだすのは時間の問題だ。その時から監視を続けていれば、手の内は全て読まれている事になる。実際、アーセルの時もリタとミュウミュウの時も、すっかりばれていた」
「そうだったわね」ジェシルが口を尖らせる。「おかげで大変だったのよ」
「ははは、それはすまなかったと思っているよ」オーランド・ゼムは笑う。「でも、ジェシルなら乗り切れるとは思っていたけどね」
「それで、いよいよ最後と言う段になって、脅しを掛けて来たってわけか……」ムハンマイドがつぶやく。「最後通達ってところだな……」
「裏切り者がいるかもって思わせる手段でもあったのかもね」ジェシルが悔しそうに言う。「まんまと乗せられちゃうところだったわ」
「……でも、良かったですわ、皆さんの疑心が溶けて……」
ミュウミュウの言葉に皆がうなずいた。
つづく
アーセルは絨毯に座っているムハンマイドの前に立ち、殺気に満ちた目を向ける。
「ボクや他の連中を疑うつもりでいるのなら、あんただって例外ではないと言う話だよ」ムハンマイドは平然とした顔でアーセルを見上げる。「条件は皆同じだと言いたいのさ。だから、ジェシルだって疑おうと思えば疑えるはずだ」
「そうね」ジェシルは答える。「ここに居る皆、容疑者の可能性は否定できないわね……」
「だが、部屋の構造を知っているのは誰だね?」オーランド・ゼムが口を開く。「正直、わたしは知らなかったよ」
「オレだって知らねぇぜ!」アーセルが声を荒げる。「部屋の事を知っているのは、若造! お前ぇだぜ! それによう、お前ぇ、年寄りを嫌っているじゃあねぇかよう!」
「たしかに、ボクがこの空間を作ったし、ボクは年寄りが嫌いだ」ムハンマイドは落ち着いた声で言う。「でもね、自分を不利な立場に置く様な事はしないさ。もし、こんな事をするんなら、証拠を残すような事は絶対にしない」
「犯人がシンジケート連中と内通している可能性が大きいって言ったじゃない?」ジェシルが言う。「だから、わざわざ自分で手を下す必要は無いとも言えるわ。目的は果たした、後は宜しくって感じかしら?」
「……異次元空間を出入りできるヤツか……」オーランド・ゼムはつぶやくと、ジェシルを見た。「ジェシル、覚えているかい? わたしの異次元アジトに来た時、君が盗聴盗撮用に装置を破壊した事をさ」
「そんな事があったかしらねぇ?」
「おや、忘れてしまったのかね? 物忘れは年寄りの始まりだぞ?」オーランド・ゼムが笑む。「……あれはベスタの一味の仕業だった」
「ベスタだとお!」アーセルが怒鳴る。「あいつか? あいつは、何かあると、直ぐにこそこそと別の次元に身を隠しやがる腰抜け野郎だぜ!」
「でもね、もし、ベスタの一味がリタを襲ったとしてもよ」ジェシルは、興奮しているアーセルを無視して話す。「わたしたちがここに居る事を知っていなければ、出来ないはずだわ」
「話は振り出しに戻ってしまうか……」ムハンマイドがつぶやく。「この中の誰かが裏切っているわけだ……」
ムハンマイドの言葉に、皆が互いを見合った。ジェシルは部外者目線で皆の様子を眺めていた。重い空気が漂っている。
「……じゃあ、こうしましょう」見かねたジェシルが言う。「わたしが宇宙パトロールに報告するわ。そして、この星まで迎えに来てもらうの。その際に宇宙連合軍の一隊でも付けてもらえるように評議院の叔父に頼んでみるわ。そうすれば、さすがのシンジケートの連中も手が出せないでしょ?」
「それは無理だな……」ムハンマイドが言って立ち上がった。「出来ないよ」
「何?」ジェシルの右手が熱線銃に触れる。「冗談なの? それとも……」
「まあ、待てよ……」ムハンマイドが苦笑する。「この星には通信システムは設置していないんだよ」
「どう言う事?」
「この星はボクが思索を深めるために作り替えた星だ。だから、外界とは連絡できないようにしてある」
「へん!」アーセルが割って入る。「そんなのよう、この部屋を作ったみたいに、ちょいちょいとやりゃあ出来るだろうがよう!」
「無理だ。システムが全然違うんでね」
「若造よう! 何だかんだぬかしてやがるがよう、オレたちを孤立させているじゃねぇかよう!」アーセルがムハンマイドをにらむ。「お前ぇじゃないのか? 裏切り者ってのはよう? シンジケート潰しじゃなくて年寄り潰しが目的なんじゃねぇのか?」
「ふざけた事を言うな!」ムハンマイドが声を荒げる。「仮にボクだったとしたら、あんたが飲んでいる酒に毒を仕込む事だって容易に出来るんだぞ!」
そう言われて、アーセルは手にしたグラスをカウンターに置いた。
「それにだ」ムハンマイドは続ける。「リタの命だけ奪って、残った連中を脅すなんて面倒な事を、わざわざすると思うのか? 全員の命をまとめて奪った方が効率的だろう?」
「でもよう、わざとそうやっているって事だって考えられるじゃねぇかよう!」
「じゃあ、あんただって、始終酒を飲んでいるけど、それってみんなを油断させるカモフラージュじゃないのか?」ムハンマイドはアーセルに食って掛かる。「呑兵衛の無能者って思わせて、実はベスタとか言うヤツと通じているんじゃなのか? ベスタの悪口を言っていたけどさ、そうすれば敵対していると思わせる事が出来るだろうからな!」
「おいおい、二人とも落ち着きたまえ」オーランド・ゼムが割って入る。「裏切り者の話はジェシルが言い出しただけだ。そうと決まったわけじゃないだろう? なあ、ジェシル、そうだろう? 君も確信があって言ったわけじゃないだろう?」
「まあ、そうね」ジェシルは認める。「あくまでも可能性の一つよ……」
「わたくしもそう思います!」
ミュウミュウが大きな、きっぱりとした声を出した。皆が驚いてミュウミュウを見る。ミュウミュウは階段を降りた。それから、男たちの一人一人の顔を見る。
「わたくしには、この中に裏切り者がいるとは全く思えないのです」そう言うと、ミュウミュウは優しく微笑む。「リタ様をお救い下さるように手配をしてくださったオーランド・ゼムさん。そのために尽力下さったジェシルさん。ケンカ腰ながらもリタ様を元気づけて下さったアーセルさん。そして、こんなにも快適な場所をご提供下さったムハンマイドさん。……わたくしには、皆さんの中に悪意を持っている人がいるとは、どうしても思えないのです」
皆の雰囲気が一変した。ぎすぎすした空気が霧散した。
「……そうだよなあ。おい、若造よう……」アーセルがムハンマイドに言う。「考えてみりゃあよう、お前ぇのおかげで、こうして楽が出来ているんだよなぁ」
「いや、あんただって 呑兵衛で口は悪いけどさ」ムハンマイドがアーセルに言う。「リタを好きだった事は良く分かっている。だから、犯人を捕まえたいって言う、強い気持ちが出過ぎているのは分かっていたよ」
「こうなった責任は、全てわたしにある……」オーランド・ゼムが言う。「わたしがもっとしっかりしていれば……」
「それで、ミュウミュウがどう考えているの?」ジェシルが言う。「裏切り者がいないとなると……」
「きっと、わたくしたちが行動を起こす前から、監視されていたのだと思うんです」ミュウミュウは言う。「今回のように行動を起こす前から密なやり取りをしておりましたから、シンジケートの連中が感付いたのですわ。特に、リタ様はこの手の隠し事を秘めておくと言うのが苦手でいらしたものですから、そこから漏れたのですわ」
「そうかも知れないな」オーランド・ゼムはうなずく。「リタは姫様育ちだ。隠し事の出来る人ではなかったな。シンジケートがリタを追えば、わたしたちとの繋がりを見いだすのは時間の問題だ。その時から監視を続けていれば、手の内は全て読まれている事になる。実際、アーセルの時もリタとミュウミュウの時も、すっかりばれていた」
「そうだったわね」ジェシルが口を尖らせる。「おかげで大変だったのよ」
「ははは、それはすまなかったと思っているよ」オーランド・ゼムは笑う。「でも、ジェシルなら乗り切れるとは思っていたけどね」
「それで、いよいよ最後と言う段になって、脅しを掛けて来たってわけか……」ムハンマイドがつぶやく。「最後通達ってところだな……」
「裏切り者がいるかもって思わせる手段でもあったのかもね」ジェシルが悔しそうに言う。「まんまと乗せられちゃうところだったわ」
「……でも、良かったですわ、皆さんの疑心が溶けて……」
ミュウミュウの言葉に皆がうなずいた。
つづく
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