「戻って来たのか……」トールメン部長が、オフィスに駆け込んできたジェシルに言った。普段表情のないトールメン部長だったが、この時は明らかに不快感を露わにしていた。「で、何をしに戻って来たのだ? 忘れ物でも取りに来たのか?」
「何をつまらない事を言っているんですか!」ジェシルはトールメン部長のデスクを両手で叩いた。「わたしの家が襲撃されたそうじゃないですか! だから戻って来たんです!」
「ああ、その件だったのか」トールメン部長はいつもの表情のない顔になっていた。「四日前の事だ。君に連絡をしようとメック星のローワード渓谷の保養所に連絡を入れたが、君は居なかった。出掛けているのかと思ったが、最初から来てはいなかった」
「ええ、ちょっと気分が変わったので、別の場所にしたんです」
「勝手な事ばかりするな、君は」
「命を狙われているんですから、大目に見て下さい」
「……まあ、いいだろう。この件はビョンドル統括管理官にも届いている。統括管理官も君に連絡がつかないと慌てていた」
「そうですか」
「教えてもらったポクワ星のヒータロン高原の保養地にも君は居なかった。ここは君の叔父上から教えてもらった場所だと言う事だったがな」
「そこも止めて、別の場所にしたんです」
「叔父上は、君が屋敷に潜んでいたに違いない、あの爆破で死んだかもしれないと、散々慌てておった」
「部長は残念だったでしょう?」
皮肉っぽく言うジェシルにトールメン部長は返事をしなかった。
「……ところで、爆破の件を誰から聞いたのだ?」軽く咳払いをしてからトールメン部長は言った。「誰も君に連絡できなかったのだが」
「わたしが叔父に直接連絡して知りました。それで慌てて戻って来たんです」
「一体、どこにいたのだ?」
「地球です」
「なぜあんな辺境の惑星へ行ったんだ?」
「あそこなら、襲われる心配も無いですから。それに、地球へ行っている間に解決すると思っていたんですけどね……」
「そうかね」ジェシルの皮肉などに全く動じないトールメン部長だった。「それよりも、地球で何かやらかしてはいないだろうな? あそこは辺境人保護法の適用地なのだからな。何かあったら問題だぞ」
「信用が無いんですね。わたしは大人しく目立たないようにしていました」
「……まあ、いいだろう」トールメン部長はそう言ったが、疑いの眼差しをジェシルに向けたままだ。「多分、爆破の犯人はクェーガーだろう。足取りが全くつかめないがな。取りあえずはクェーガーの居所を探るのが先決だろう」
「それとクェーガーの背後にいるヤツを探り出さなければいけません」
「君はまだパトロール内にそのような輩がいると思っているのか?」
「わかりませんが、可能性がある限りは疑います。……もちろん、部長も含んでいますわ」
トールメン部長は椅子を回転させ、ジェシルに背を向けた。もう話す気はないとその背中が言っている。ジェシルは見えない爆弾をありったけトールメン部長のからだに括り付け、泣き喚くトールメン部長をにやにやしながら眺めつつ発火装置を押した。
トールメン部長のオフィスを出ると、カルースに会った。カルースは相変わらず気楽そうな雰囲気で、ジェシルを見るとにやりと笑って見せた。
「ジェシル、雲隠れしてたんじゃなかったのか? ……そうか、オレに会いたくなって戻って来たのか」
「気持ちの悪い事言わないで! 家が爆破されたって聞いたんで戻って来たのよ!」
「ああ、そうだってなあ。クェーガーの仕業かい?」
「部長はそう言ってるわ。わたしもそう思う」
「敵も必死なんだろうさ」
「そうかもね」
「それで、これからどうするんだい?」
「家の様子を見に行ってみるわ」
「なんだかんだ言って心配なんだな」
「そうじゃないわ。あの家が住めるようにならないと、わたしは親戚たちに囲まれて暮らさなきゃならないからよ! 考えただけで死んじゃいそうだわ! まだ穴だらけの家の方がましよ!」
「やれやれ、直系の貴族様ってのは大変だな」
カルースは神妙な顔で言った。カルースめ、絶対、心の中では小躍りしているに違いないわ! この揉め事大好き野郎! ジェシルは憮然とした表情になった。
「そうだ、オレがお前の屋敷まで送ってやるよ。クェーガーが狙っているだろうからな」
「あなたと一緒でも狙われる確率は変わらないんじゃない?」
「何かあっても、一人より二人の方が楽しいだろう?」
「馬っ鹿じゃないの?」ジェシルは呆れたように言う。しかし、呆れすぎて笑ってしまった。深刻に考える方が馬っ鹿じゃないのとジェシルは思った。「……いいわ、お願いするわ」
「そうかい、じゃあ駐車場に行こう」
二人は並んで歩き出した。
「ところで、ジェシル。どこに雲隠れしてたんだ?」
「地球よ」
「おやおや、なんだかんだ言って、ジェシルは地球が好きなんじゃないか?」
「やめてよ! あんな未開の辺境惑星!」ジェシルは否定したが、ふと笑顔になる。「……でもねぇ、あの、宇宙の一員になれない未開で辺境な感じって言うか、宇宙なんか関係ないって言うか、あの何も知らない感じって言うのか、それら全部含めて気に入っているのかもね」
「そんな言い方したら、地球に悪いぜ」
「わたし、嘘をつけない性格だから」
駐車場に着いた。
「あれがオレの車だよ」
カルースが示したのは、最新型のメラリスだったが、色々と改造しているようで余計なものが付きすぎている。お世辞にも乗りたい車ではない。ジェシルの顔が不快感で曇る。
「うわっ、相変わらず趣味が悪いわねぇ…… 歩いて行こうかしら」
「そう言うなよ」
「言ったでしょ? わたし、嘘をつけない性格だからって」
「でもな、乗り心地は抜群だぜ」
カルースは自分の車に乗り込もうとドアを開けた。そこでカルースの動きが止まった。
「どうしたの?」
「いや、……なんて言うか、ちょっと、違和感……」
次の瞬間、カルースの車が爆発した。
つづく
「何をつまらない事を言っているんですか!」ジェシルはトールメン部長のデスクを両手で叩いた。「わたしの家が襲撃されたそうじゃないですか! だから戻って来たんです!」
「ああ、その件だったのか」トールメン部長はいつもの表情のない顔になっていた。「四日前の事だ。君に連絡をしようとメック星のローワード渓谷の保養所に連絡を入れたが、君は居なかった。出掛けているのかと思ったが、最初から来てはいなかった」
「ええ、ちょっと気分が変わったので、別の場所にしたんです」
「勝手な事ばかりするな、君は」
「命を狙われているんですから、大目に見て下さい」
「……まあ、いいだろう。この件はビョンドル統括管理官にも届いている。統括管理官も君に連絡がつかないと慌てていた」
「そうですか」
「教えてもらったポクワ星のヒータロン高原の保養地にも君は居なかった。ここは君の叔父上から教えてもらった場所だと言う事だったがな」
「そこも止めて、別の場所にしたんです」
「叔父上は、君が屋敷に潜んでいたに違いない、あの爆破で死んだかもしれないと、散々慌てておった」
「部長は残念だったでしょう?」
皮肉っぽく言うジェシルにトールメン部長は返事をしなかった。
「……ところで、爆破の件を誰から聞いたのだ?」軽く咳払いをしてからトールメン部長は言った。「誰も君に連絡できなかったのだが」
「わたしが叔父に直接連絡して知りました。それで慌てて戻って来たんです」
「一体、どこにいたのだ?」
「地球です」
「なぜあんな辺境の惑星へ行ったんだ?」
「あそこなら、襲われる心配も無いですから。それに、地球へ行っている間に解決すると思っていたんですけどね……」
「そうかね」ジェシルの皮肉などに全く動じないトールメン部長だった。「それよりも、地球で何かやらかしてはいないだろうな? あそこは辺境人保護法の適用地なのだからな。何かあったら問題だぞ」
「信用が無いんですね。わたしは大人しく目立たないようにしていました」
「……まあ、いいだろう」トールメン部長はそう言ったが、疑いの眼差しをジェシルに向けたままだ。「多分、爆破の犯人はクェーガーだろう。足取りが全くつかめないがな。取りあえずはクェーガーの居所を探るのが先決だろう」
「それとクェーガーの背後にいるヤツを探り出さなければいけません」
「君はまだパトロール内にそのような輩がいると思っているのか?」
「わかりませんが、可能性がある限りは疑います。……もちろん、部長も含んでいますわ」
トールメン部長は椅子を回転させ、ジェシルに背を向けた。もう話す気はないとその背中が言っている。ジェシルは見えない爆弾をありったけトールメン部長のからだに括り付け、泣き喚くトールメン部長をにやにやしながら眺めつつ発火装置を押した。
トールメン部長のオフィスを出ると、カルースに会った。カルースは相変わらず気楽そうな雰囲気で、ジェシルを見るとにやりと笑って見せた。
「ジェシル、雲隠れしてたんじゃなかったのか? ……そうか、オレに会いたくなって戻って来たのか」
「気持ちの悪い事言わないで! 家が爆破されたって聞いたんで戻って来たのよ!」
「ああ、そうだってなあ。クェーガーの仕業かい?」
「部長はそう言ってるわ。わたしもそう思う」
「敵も必死なんだろうさ」
「そうかもね」
「それで、これからどうするんだい?」
「家の様子を見に行ってみるわ」
「なんだかんだ言って心配なんだな」
「そうじゃないわ。あの家が住めるようにならないと、わたしは親戚たちに囲まれて暮らさなきゃならないからよ! 考えただけで死んじゃいそうだわ! まだ穴だらけの家の方がましよ!」
「やれやれ、直系の貴族様ってのは大変だな」
カルースは神妙な顔で言った。カルースめ、絶対、心の中では小躍りしているに違いないわ! この揉め事大好き野郎! ジェシルは憮然とした表情になった。
「そうだ、オレがお前の屋敷まで送ってやるよ。クェーガーが狙っているだろうからな」
「あなたと一緒でも狙われる確率は変わらないんじゃない?」
「何かあっても、一人より二人の方が楽しいだろう?」
「馬っ鹿じゃないの?」ジェシルは呆れたように言う。しかし、呆れすぎて笑ってしまった。深刻に考える方が馬っ鹿じゃないのとジェシルは思った。「……いいわ、お願いするわ」
「そうかい、じゃあ駐車場に行こう」
二人は並んで歩き出した。
「ところで、ジェシル。どこに雲隠れしてたんだ?」
「地球よ」
「おやおや、なんだかんだ言って、ジェシルは地球が好きなんじゃないか?」
「やめてよ! あんな未開の辺境惑星!」ジェシルは否定したが、ふと笑顔になる。「……でもねぇ、あの、宇宙の一員になれない未開で辺境な感じって言うか、宇宙なんか関係ないって言うか、あの何も知らない感じって言うのか、それら全部含めて気に入っているのかもね」
「そんな言い方したら、地球に悪いぜ」
「わたし、嘘をつけない性格だから」
駐車場に着いた。
「あれがオレの車だよ」
カルースが示したのは、最新型のメラリスだったが、色々と改造しているようで余計なものが付きすぎている。お世辞にも乗りたい車ではない。ジェシルの顔が不快感で曇る。
「うわっ、相変わらず趣味が悪いわねぇ…… 歩いて行こうかしら」
「そう言うなよ」
「言ったでしょ? わたし、嘘をつけない性格だからって」
「でもな、乗り心地は抜群だぜ」
カルースは自分の車に乗り込もうとドアを開けた。そこでカルースの動きが止まった。
「どうしたの?」
「いや、……なんて言うか、ちょっと、違和感……」
次の瞬間、カルースの車が爆発した。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます