会場が次第に暗くなって行き、ステージにスポットライトが当たり始めた。ライトに浮かび上がってきたのは開いたドアの付いたドア枠だった。他には何もない。不意にドアがバタンと大きな音を立てて閉まり、直ぐに元の通りに開いた。すると、そこに印旛沼が、白の燕尾服に白いステッキ姿で立っていた。会場から驚きの声と拍手が起こった。
「お待たせいたしました。営業四課、印旛沼陽一によります、ミニマジックショーでございます」
林谷のアナウンスが、オーケストラの奏でるフレンチポップスに乗って流れた。
印旛沼は一礼しながらドアから出てきて、ステッキから手を離した。すると、ステッキはゆっくりと上昇し、印旛沼の頭上より高い位置で止まった。それからステッキは横向きになった。印旛沼がパンと手を叩くと、ステッキは白い絹のスカーフになって落ちてきた。
印旛沼はそれを受け止め、右手で一端を持ち、くるくると振り回し始めた。見ている間にスカーフは長くなり、印旛沼の背丈ほどになった。大きくなったスカーフを頭上で回し続け、最後にパッと放り投げた。
巨大スカーフはステージの床に広がったまま落ちた。印旛沼は歩み寄り、スカーフの中央をつまみ、さっと持ち上げ、今度は後ろへ放った。
スカーフの中から、ぴっちりとした袖なしの白いミニドレスを纏い、白い網タイツに白いブーツを履き、頭に白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶった、黒いショートヘアの印旛沼の娘が、にこやかな笑顔をたたえて現われた。
会場はさらに驚きに声と拍手とで溢れ返った。
「さすが印旛沼さんだ! 凄いや!」
コーイチは目を輝かせながら拍手をしていた。
「凄いわね! 信じられないわ!」
京子も拍手をしながら言った。コーイチは不思議そうな顔で京子を見た。
「君は魔女だろう? こう言う事、やろうと思えばやれるんじゃないか?」
「やれるわよ。でもね、魔力のない普通の人がこう言う事をするのがすごいんじゃない! どんな仕掛けなのかは分からないけれど、この鮮やかさや衝撃度は、そこいらの魔女なんかじゃ歯が立たないわね」
「へーっ、そうなんだ」
魔女も感心するなんて、印旛沼さん、やっぱり凄い人なんだ。
「でも、一つだけ文句があるわ……」
京子はステージを睨みながら言った。コーイチは不安そうな顔を向ける。まさか、印旛沼さんを何かに変えちゃうんじゃ……
「スカーフから出て来た娘よ。白い服なんて、私と被ってるじゃない。それが気に入らない!」
「ちょっと待って、何をするつもり……」
ステージ上の印旛沼の娘の白い服が、すーっと赤い色に変わった。会場は大きくどよめき、また大喝采に沸き返った。
なぜ色が変わったのか分からない印旛沼父娘だったが、あわてふためく事なく、いかにもこれも手品の一環ですと言った様子で、会場に向かって一礼をした。ステージは暗くなり、会場は明るくなった。
「う~む、何があっても“Show Must Go On”って感じだね」
コーイチはステージを見ながら言った。
「えっ? 『週末は合コン』? なにそれ?」
コーイチは京子の言葉を無視し、おもむろに京子の方を向いて続けた。
「もう魔法を使うのはやめて欲しいな。印旛沼さんだから何事も起こらなかったけど、別の人なら大騒ぎになってたよ」
「あら、私に意見しようって言うの?」
京子はこわい顔でコーイチを見つめた。コーイチはヒキガエルになった自分、コウモリになった自分を想像してしまった。
「い、いや、そうじゃないけど……」
京子はあたふたしているコーイチに笑顔を向けた。
「分かってるわよ。もうめったな事では使いません!」
「そう、それは良かった」コーイチふと思いついた事があった。「ところで、君の本当の名は何て……」
「あら、また何か始まりそうだわ!」
京子は再びステージの方へ顔を向けた。
つづく
「お待たせいたしました。営業四課、印旛沼陽一によります、ミニマジックショーでございます」
林谷のアナウンスが、オーケストラの奏でるフレンチポップスに乗って流れた。
印旛沼は一礼しながらドアから出てきて、ステッキから手を離した。すると、ステッキはゆっくりと上昇し、印旛沼の頭上より高い位置で止まった。それからステッキは横向きになった。印旛沼がパンと手を叩くと、ステッキは白い絹のスカーフになって落ちてきた。
印旛沼はそれを受け止め、右手で一端を持ち、くるくると振り回し始めた。見ている間にスカーフは長くなり、印旛沼の背丈ほどになった。大きくなったスカーフを頭上で回し続け、最後にパッと放り投げた。
巨大スカーフはステージの床に広がったまま落ちた。印旛沼は歩み寄り、スカーフの中央をつまみ、さっと持ち上げ、今度は後ろへ放った。
スカーフの中から、ぴっちりとした袖なしの白いミニドレスを纏い、白い網タイツに白いブーツを履き、頭に白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶった、黒いショートヘアの印旛沼の娘が、にこやかな笑顔をたたえて現われた。
会場はさらに驚きに声と拍手とで溢れ返った。
「さすが印旛沼さんだ! 凄いや!」
コーイチは目を輝かせながら拍手をしていた。
「凄いわね! 信じられないわ!」
京子も拍手をしながら言った。コーイチは不思議そうな顔で京子を見た。
「君は魔女だろう? こう言う事、やろうと思えばやれるんじゃないか?」
「やれるわよ。でもね、魔力のない普通の人がこう言う事をするのがすごいんじゃない! どんな仕掛けなのかは分からないけれど、この鮮やかさや衝撃度は、そこいらの魔女なんかじゃ歯が立たないわね」
「へーっ、そうなんだ」
魔女も感心するなんて、印旛沼さん、やっぱり凄い人なんだ。
「でも、一つだけ文句があるわ……」
京子はステージを睨みながら言った。コーイチは不安そうな顔を向ける。まさか、印旛沼さんを何かに変えちゃうんじゃ……
「スカーフから出て来た娘よ。白い服なんて、私と被ってるじゃない。それが気に入らない!」
「ちょっと待って、何をするつもり……」
ステージ上の印旛沼の娘の白い服が、すーっと赤い色に変わった。会場は大きくどよめき、また大喝采に沸き返った。
なぜ色が変わったのか分からない印旛沼父娘だったが、あわてふためく事なく、いかにもこれも手品の一環ですと言った様子で、会場に向かって一礼をした。ステージは暗くなり、会場は明るくなった。
「う~む、何があっても“Show Must Go On”って感じだね」
コーイチはステージを見ながら言った。
「えっ? 『週末は合コン』? なにそれ?」
コーイチは京子の言葉を無視し、おもむろに京子の方を向いて続けた。
「もう魔法を使うのはやめて欲しいな。印旛沼さんだから何事も起こらなかったけど、別の人なら大騒ぎになってたよ」
「あら、私に意見しようって言うの?」
京子はこわい顔でコーイチを見つめた。コーイチはヒキガエルになった自分、コウモリになった自分を想像してしまった。
「い、いや、そうじゃないけど……」
京子はあたふたしているコーイチに笑顔を向けた。
「分かってるわよ。もうめったな事では使いません!」
「そう、それは良かった」コーイチふと思いついた事があった。「ところで、君の本当の名は何て……」
「あら、また何か始まりそうだわ!」
京子は再びステージの方へ顔を向けた。
つづく
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