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コーイチ物語 「秘密のノート」 74

2022年09月18日 | コーイチ物語 1 9) パーティ会場にて オン・ステージ  
 パーティ会場は広かった。
 天井が高く、軟らかな光のシャンデリア(多分、どこかの国の最高級品なんだろう)が、幾つも下がっていた。
 壁の高い所にはどれも料理を静物画にした大きな油絵(多分、どこかの国の最高級品なんだろう)が、幾つも飾られ、壁の中ほどからは、心弾ませる感じのややオレンジ色がかった壁紙(多分、どこかの国の最高級品なんだろう)が、張り巡らされていた。
 床には品の良い濃さの赤いじゅうたん(多分、どこかの国の最高級品なんだろう)が、一面に敷き詰められていた。
 長方形になっている会場は、短い辺の一つがステージになっていて、それに向かう三方に壁際には両側を人が通れるような配置で長テーブルが置かれ、テーブルの上には様々な料理を盛り付けた様々な形の器と、様々な種類の飲み物(主に酒類だが)が、ぎっしりとずらりと並んでいた。
 人も相当数いるが、狭い感じは全くしない。あちこちでグループが出来ていて、手に手に小皿を持ち、その上に取り分けた数種類の料理が載っていた。談笑しているグループの間を、制服に身を包んだ店のウェイターとウェイトレスが気取った足取りで行き来していた。
 やっぱりこんな雰囲気は苦手だよなぁ…… コーイチは会場に入ったものの、ドアの横の壁に背中をもたれたまま動かなかった。こんな中を平気で動ける人って尊敬しちゃうよな。……いや、負けちゃいけない! ガンバレ、オレ! コーイチは自分自身を励ました。
 何気なく視線を上げると、岡島が見えた。いつの間に戻ったんだろう。しかも、すっかり元気じゃないか。立ち直りが早いと言うか、あの落ち込みは本当にポーズだったのか……
 岡島はボーイスカウト姿の綿垣社長と同じくらいの年配のスーツ姿の紳士たち数人のグループの話を熱心に聞いていた。あの一団はあちこちの会社の社長やら会長やらのおエライさんたちなんだろうな、コーイチはそう思いながら眺めていた。岡島は大きく頷いてみたり、一緒に笑ってみたりしている。へえー、岡島もなんだかんだ言って、凄い人たちと知り合いだったんだ、コーイチは感心した。
 不意に社長が岡島を指差して何事が言ってから、しきりに首をひねっていた。岡島はにこりとして短く何か言い、一礼するとその場を離れた。
 その時、コーイチと目が合った。岡島はコーイチの方へ近づいてきた。そして、きょろきょろと周りを見て声を低くして聞いてきた。
「あの娘は?」
 コーイチも調子を合わせて答える。
「ちょっと出掛けている。いつ戻るかは言ってなかった」
「そうか!」岡島は安心したような声で答えた。「……ところで、コーイチ、今の見てたのか」
「見てた。お前が社長や他の会社のおエライさんたちと知り合いだったとは驚いたな」
 コーイチは言った。岡島の顔がパッと明るくなった。
「そうか、そう見えたか。いやいや、オレもこれでお前に少し差をつけちまった形になったなかなあ」
「別にボクは出世街道を行く気はないよ。お前が頑張ればいいさ」
「オレが部長になっている頃には、お前はまだヒラのままって事になるなあ」
「かもな……」
 コーイチはうんざりしたような声で言った。また自分語りか…… 長くなるぞぉ……
「Hey! You! コーイチ君じゃないの! ちょっと遅刻かな。ま、パーティだ、ごちゃごちゃ言わないで、楽しくやろうね!」
 不意に声をかけられ、びっくりしたコーイチが振り返ると、赤い顔の綿垣社長がにこにこしながら立っていた。少し酔っている様だ。
「あっ、社長、どうも、あのその、こんばんわ」
 コーイチはしどろもどろで返事をし、頭を下げた。
「社長、先程は今後に役立つ貴重なお話を窺いまして、有難うございます」
 岡島は言いながら、深々と一礼した。頭を上げるとき、コーイチに勝ち誇った様な眼差しを送った。
 しかし、社長はまた岡島を指差した。
「さっき立ち聞きしていたYouだね。さっきも言ったけど、ダメよ、なんの役に立てるのかは知らないけど、用も無いのに人の話に聞き耳を立てちゃ」
 それから、またしきりに首をひねり出した。
「ところで、You、さっきも聞いたけど、名前なんだっけ?」
「いえ、いいんです」
 岡島はにこりとして一礼すると、呆れた顔で自分を見ているコーイチを無視して、その場を離れて行った。

       つづく

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