「やあ、コーイチ君!」
京子が盛ってくれた料理をフォークで刺し、口元まで運んだ時に後ろから声をかけられた。そのままの姿勢で振り返ると、印旛沼が立っていた。ステージの時とは違い、いつもの地味目なスーツ姿だった。
「見ていてくれた? 私のステージ?」
「はい、もちろん! いつ見ても凄いですね!」
コーイチは素直に感想を言った。
「本っ当、凄かったわぁ…… 魔女も顔負けって感じね」
印旛沼はコーイチの横に立つ京子に目を向けた。
「こちらの可愛いお嬢さんは?」
「わたし、コーイチ君の幼なじみの京子です」
京子はにっこりと笑顔を作った。
「ほう、コーイチ君の幼なじみの京子さんですか」
印旛沼は大きく頷いた。
「そうです、コーイチ君の幼なじみの京子です」
……きっとこの会話で相手に魔法をかけちゃうんだろうな。コーイチは京子と印旛沼を交互に見比べた。
「でも驚いたよ。娘の衣装がいきなり赤くなっちゃうんだもんねぇ」
印旛沼は不思議そうに言った。
「あら、それ、わたしがやったのよ!」
京子は平然と言った。印旛沼は驚いた顔をした。
ああ、やってしまった! この娘は言った事の内容の重大さが分かっているんだろうか? もし、印旛沼さんが「どうやったんだい?」なんて聞いて、「こうやったのよ」なんて実演してみせたら、それこそ大騒ぎになるぞ。この世界に魔女が存在するなんて! これだけの大人数だ。きっと報道関係の人もいるはずだ。そんな人に見つかりでもしたら…… 『魔女、パーティー会場に現る!』とか『魔女、その目的は何か?』とか記事になってしまうぞ。それだけじゃない、『魔女に人類を売り渡した男』なんてボクまで巻き込まれて、とんでもない事になってしまうだろう……
あたふたしているいると、驚いた顔をしていた印旛沼が急に大笑いし始めた。
「……これはこれは、面白い事をおっしゃるお嬢さんだ。可愛い上にユーモアのセンスもある」
それから、コーイチの方を向いて、肩をパンパンと叩き付け加えた。
「まあ、色が変わった原因は不明だけど、色を変えるタネは思いついたよ。それと、このお嬢さん、幼なじみの京子さんを大事にしなよ」
「え、はあ、まあ……」
コーイチはあいまいな返事をした。印旛沼が指をパチンと鳴らした。その手の平に白いバラの花が一輪乗っていた。それを京子に渡す。
「じゃ、ちょっと失礼。二人とも仲良くね」
そう言って印旛沼は別の所へ行ってしまった。
「やれやれ……」
コーイチが肩の力を抜き、京子を見た。京子は嬉しそうにバラの花を見て、胸に飾った。飾られた白いバラは赤青黄色のストライプのバラに変わった。
「この方が綺麗でしょ?」
京子はコーイチにウインクして見せた。コーイチはあわてて言った。
「ダメだよ! そんなバラなんか無いよ。誰かに見つかったら、色々と面倒になってしまう!」
「ふ~ん、つまんないの……」バラの花は元の白に戻った。「ま、あんまりコーイチ君を困らせるのも気の毒だわね」
本気で言ってるのかなぁ…… 素直に喜べないコーイチだった。
料理を再び口元まで運んだ時だった。
「あの、コーイチさん…… ですよね?」
また後ろから声をかけられた。またそのままの姿勢で振り返った。
最新ファッションで身を包んだ印旛沼の娘、逸子が立っていた。見れば見るほどスタイルが良いし美人だし…… そんな女性に見つめられて、コーイチはドキドキしていた。
「は、はぁ、コーイチですが……」
「お一人ですか?」
「え?」
コーイチは京子の方を見た。京子はどこかへ行ってしまったらしく、居なかった。
「ま、まあ、一人と言うか、何と言うか…… 何のご用ですか?」
「父から度々コーイチさんのお話を聞いていて、楽しそうな方だなあと思っていました。……あの、お邪魔でしたか?」
「ええっ?」コーイチの口元が思わずゆるむ。「ええっ?」コーイチの目尻が下がる。「ええっ?」コーイチの頬がほんのり赤らむ。
「あら、コーイチ君、その方どなた?」
いきなり横から声がした。照れてにやけたままの顔を向けると、京子がこわい顔をして立っていた。
つづく
京子が盛ってくれた料理をフォークで刺し、口元まで運んだ時に後ろから声をかけられた。そのままの姿勢で振り返ると、印旛沼が立っていた。ステージの時とは違い、いつもの地味目なスーツ姿だった。
「見ていてくれた? 私のステージ?」
「はい、もちろん! いつ見ても凄いですね!」
コーイチは素直に感想を言った。
「本っ当、凄かったわぁ…… 魔女も顔負けって感じね」
印旛沼はコーイチの横に立つ京子に目を向けた。
「こちらの可愛いお嬢さんは?」
「わたし、コーイチ君の幼なじみの京子です」
京子はにっこりと笑顔を作った。
「ほう、コーイチ君の幼なじみの京子さんですか」
印旛沼は大きく頷いた。
「そうです、コーイチ君の幼なじみの京子です」
……きっとこの会話で相手に魔法をかけちゃうんだろうな。コーイチは京子と印旛沼を交互に見比べた。
「でも驚いたよ。娘の衣装がいきなり赤くなっちゃうんだもんねぇ」
印旛沼は不思議そうに言った。
「あら、それ、わたしがやったのよ!」
京子は平然と言った。印旛沼は驚いた顔をした。
ああ、やってしまった! この娘は言った事の内容の重大さが分かっているんだろうか? もし、印旛沼さんが「どうやったんだい?」なんて聞いて、「こうやったのよ」なんて実演してみせたら、それこそ大騒ぎになるぞ。この世界に魔女が存在するなんて! これだけの大人数だ。きっと報道関係の人もいるはずだ。そんな人に見つかりでもしたら…… 『魔女、パーティー会場に現る!』とか『魔女、その目的は何か?』とか記事になってしまうぞ。それだけじゃない、『魔女に人類を売り渡した男』なんてボクまで巻き込まれて、とんでもない事になってしまうだろう……
あたふたしているいると、驚いた顔をしていた印旛沼が急に大笑いし始めた。
「……これはこれは、面白い事をおっしゃるお嬢さんだ。可愛い上にユーモアのセンスもある」
それから、コーイチの方を向いて、肩をパンパンと叩き付け加えた。
「まあ、色が変わった原因は不明だけど、色を変えるタネは思いついたよ。それと、このお嬢さん、幼なじみの京子さんを大事にしなよ」
「え、はあ、まあ……」
コーイチはあいまいな返事をした。印旛沼が指をパチンと鳴らした。その手の平に白いバラの花が一輪乗っていた。それを京子に渡す。
「じゃ、ちょっと失礼。二人とも仲良くね」
そう言って印旛沼は別の所へ行ってしまった。
「やれやれ……」
コーイチが肩の力を抜き、京子を見た。京子は嬉しそうにバラの花を見て、胸に飾った。飾られた白いバラは赤青黄色のストライプのバラに変わった。
「この方が綺麗でしょ?」
京子はコーイチにウインクして見せた。コーイチはあわてて言った。
「ダメだよ! そんなバラなんか無いよ。誰かに見つかったら、色々と面倒になってしまう!」
「ふ~ん、つまんないの……」バラの花は元の白に戻った。「ま、あんまりコーイチ君を困らせるのも気の毒だわね」
本気で言ってるのかなぁ…… 素直に喜べないコーイチだった。
料理を再び口元まで運んだ時だった。
「あの、コーイチさん…… ですよね?」
また後ろから声をかけられた。またそのままの姿勢で振り返った。
最新ファッションで身を包んだ印旛沼の娘、逸子が立っていた。見れば見るほどスタイルが良いし美人だし…… そんな女性に見つめられて、コーイチはドキドキしていた。
「は、はぁ、コーイチですが……」
「お一人ですか?」
「え?」
コーイチは京子の方を見た。京子はどこかへ行ってしまったらしく、居なかった。
「ま、まあ、一人と言うか、何と言うか…… 何のご用ですか?」
「父から度々コーイチさんのお話を聞いていて、楽しそうな方だなあと思っていました。……あの、お邪魔でしたか?」
「ええっ?」コーイチの口元が思わずゆるむ。「ええっ?」コーイチの目尻が下がる。「ええっ?」コーイチの頬がほんのり赤らむ。
「あら、コーイチ君、その方どなた?」
いきなり横から声がした。照れてにやけたままの顔を向けると、京子がこわい顔をして立っていた。
つづく
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