会場が水を打った様に静まり返った。皆の視線はステージへと注がれている。林谷に当たっていたスポットライトがゆっくりと消えて行き、音量を絞られていたドラムロールが徐々に大きくなって行った。
やけに気を持たせるなぁ…… 林谷さん、こういう演出が好きだからなぁ…… コーイチはそう思いながらも、ワクワクしながらステージを見つめていた。
ドラムロールが高まり、とどめと言う様にシンバルがジャーンと鳴り響いた。残響が次第に消えて行く。
急にステージが明るくなり、そこにオフィス街を思わせるセットが組まれていた。軽やかでダンサフルなスウィング調のビッグバンドの音楽が流れ出し、ビジネススタイルの衣装に身を包んだ男女のダンサーが、ステージ両袖からそれぞれ十名ほど、一分の隙もない、見事に揃ったステップを踏みながら登場した。
ダンサーたちは中央まで進み出ると、曲に合わせて、順番に片膝を付き始め、最後の一人が付いたと同時に両腕をまるで主役を迎えるかのように、ステージ中央に向けて差し出した。そして、それに誘われる様に西川課長がステージ中央の奥から歩み出て来た。
林谷が着ていた様なキラキラ生地の緑色のスーツ、金色に染められた髪の毛、凛々しさを増したメイクを施された西川は、堂々とした態度で歩いていた。
「本日の主役、営業四課の西川行則新課長でございます!」
林谷の声が音楽の間を縫うように流れた。
「仮課長だ!」
西川がすかさず叫んだ。
叫んだ途端、ロックバンドの演奏する激しくビートの効いた曲に変わった。ステージの照明が同調するかのように激しく明滅を繰り返し出した。すると、その曲に合わせて西川が独りで踊り始めた。曲以上に激しい動きでありながら、手足の先まで神経の行き届いたシャープな動きでビシビシとポーズを決める。
……そう言えば、西川さん、学生時代にこう言うダンスを結構やっていたと話していたな。でも、ここまでやれるとは思っていなかった。何事も極めなければ気がすまない西川さんの事だから、「結構」は普通の人の数十倍って事だろうな。なんだかんだ言って、凄い人だよなぁ。
西川のダンスが終わり、照明が戻り、会場内も明るくなった。
拍手と口笛指笛と歓声が入り混じって、会場は大喝采に沸き返った。
「へぇー、あの人、凄いわね」
我を忘れて見入っていたコーイチは、隣から聞こえた声に驚いて振り向いた。
京子がにっこりと笑って立っていた。手にはコーイチが食べようとしていたイカの握りを持っていた。それをひょいと口に放り込み、もぐもぐと可愛らしい赤い唇を動かした。
「これ、なかなかイケるわね」
食べ終わった京子は言って、コーイチに笑顔を向けた。
「あれ?」
コーイチは京子の姿を改めて見直し、首を傾げた。
赤いふわふわしたブラウスにミニスカートだったのに、白いミニのチャイナ服に白のブーツになっていた。
長い髪は真ん中から左右に分けられ、耳元でくるくるとまるめられて白いピンで留められていた。
「ああ、この格好?」
京子はコーイチの視線に気が付いて言った。
「折角のパーティだから着替えたの」京子はウインクをして続けた。「魔力でね。んふふふふ……」
「なるほどね」コーイチはもはや驚かない。「……ところで、用事の方は無事に終わったのかい? いやなヤツに会わなきゃならないって言ってたけど……」
「いやなヤツ……か。んふふふふ」
京子は思い出し笑いをしているようだった。
「そんなにいやなヤツでもなかったわ。とっても友好的に話し合えて、万事全て解決よ!」
「そう、それは良かったね。ボクはてっきり……」
「あら、また何か始まりそうよ」
京子はステージの方へ顔を向けた。
つづく
やけに気を持たせるなぁ…… 林谷さん、こういう演出が好きだからなぁ…… コーイチはそう思いながらも、ワクワクしながらステージを見つめていた。
ドラムロールが高まり、とどめと言う様にシンバルがジャーンと鳴り響いた。残響が次第に消えて行く。
急にステージが明るくなり、そこにオフィス街を思わせるセットが組まれていた。軽やかでダンサフルなスウィング調のビッグバンドの音楽が流れ出し、ビジネススタイルの衣装に身を包んだ男女のダンサーが、ステージ両袖からそれぞれ十名ほど、一分の隙もない、見事に揃ったステップを踏みながら登場した。
ダンサーたちは中央まで進み出ると、曲に合わせて、順番に片膝を付き始め、最後の一人が付いたと同時に両腕をまるで主役を迎えるかのように、ステージ中央に向けて差し出した。そして、それに誘われる様に西川課長がステージ中央の奥から歩み出て来た。
林谷が着ていた様なキラキラ生地の緑色のスーツ、金色に染められた髪の毛、凛々しさを増したメイクを施された西川は、堂々とした態度で歩いていた。
「本日の主役、営業四課の西川行則新課長でございます!」
林谷の声が音楽の間を縫うように流れた。
「仮課長だ!」
西川がすかさず叫んだ。
叫んだ途端、ロックバンドの演奏する激しくビートの効いた曲に変わった。ステージの照明が同調するかのように激しく明滅を繰り返し出した。すると、その曲に合わせて西川が独りで踊り始めた。曲以上に激しい動きでありながら、手足の先まで神経の行き届いたシャープな動きでビシビシとポーズを決める。
……そう言えば、西川さん、学生時代にこう言うダンスを結構やっていたと話していたな。でも、ここまでやれるとは思っていなかった。何事も極めなければ気がすまない西川さんの事だから、「結構」は普通の人の数十倍って事だろうな。なんだかんだ言って、凄い人だよなぁ。
西川のダンスが終わり、照明が戻り、会場内も明るくなった。
拍手と口笛指笛と歓声が入り混じって、会場は大喝采に沸き返った。
「へぇー、あの人、凄いわね」
我を忘れて見入っていたコーイチは、隣から聞こえた声に驚いて振り向いた。
京子がにっこりと笑って立っていた。手にはコーイチが食べようとしていたイカの握りを持っていた。それをひょいと口に放り込み、もぐもぐと可愛らしい赤い唇を動かした。
「これ、なかなかイケるわね」
食べ終わった京子は言って、コーイチに笑顔を向けた。
「あれ?」
コーイチは京子の姿を改めて見直し、首を傾げた。
赤いふわふわしたブラウスにミニスカートだったのに、白いミニのチャイナ服に白のブーツになっていた。
長い髪は真ん中から左右に分けられ、耳元でくるくるとまるめられて白いピンで留められていた。
「ああ、この格好?」
京子はコーイチの視線に気が付いて言った。
「折角のパーティだから着替えたの」京子はウインクをして続けた。「魔力でね。んふふふふ……」
「なるほどね」コーイチはもはや驚かない。「……ところで、用事の方は無事に終わったのかい? いやなヤツに会わなきゃならないって言ってたけど……」
「いやなヤツ……か。んふふふふ」
京子は思い出し笑いをしているようだった。
「そんなにいやなヤツでもなかったわ。とっても友好的に話し合えて、万事全て解決よ!」
「そう、それは良かったね。ボクはてっきり……」
「あら、また何か始まりそうよ」
京子はステージの方へ顔を向けた。
つづく
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