2024/12/14 sta
前回の章
飯も食わず、寝る時はそのまま後ろにバタンと倒れるように……。
起きればつけっ放しのパソコンに向かい、思うまま書き始める。
すべての欲を我慢して、ただ文字を打つ事だけに専念した。
さすがにトイレと食事一日一回ぐらいは時間取ったけど。
携帯電話の料金払うの忘れてて止まっても、家からすぐコンビニあるのに払いに行く時間さえ惜しんだ。
もうじき繋がります。
自分がこうして書いている事を幸せなんだなあって感じられるからこそできるのかな。
いや違う、これを今書かないと後悔するのを本能的に理解しているから書き続けているんだな。
こうやって自分を吐き出す作業が必要なんだろう。
そんな事をしながら、とりあえず二千十年一月二十五日で原稿用紙二千三十七枚まで執筆できました。
とりあえず『バトルロワイヤル』ぐらいは枚数で超したかな?
過去最高枚数……。
まだまだ物語りは続くし、そんな事どうでもいいか。
長けりゃいいってもんじゃないだろうけど……。
まあ色んなものを排除して、おかげで魂を作品に乗せる事だけはできた。
いや、まだ途中だからできているか。
不思議と一月は執筆意欲がはかどる時期だなあ。
去年も思い出すと、『新宿フォルテッシモ』を一月一八日より執筆し始め、当時KDDIにいたが、あまりに集中し過ぎて無断欠勤を一週間もしたっけ。
この時、課の上司がムチャクチャ怒ってたけど、俺にはそんな事よりも作品を完成させるほうが大事だったのだ。
二千九年二月十七日から執筆を開始した『新宿セレナーデ』の時も、また俺は同じように無断欠勤した。
この一月十八日、不思議と縁があるようで、奇しくも俺が始めて処女作の『新宿クレッシェンド』を書き始めた日が二千四年の一月十八日であった。
まあ今日は二十五日だから無関係だけど。
二千四年当時はパソコンをやり始めと言うのもあり、人差し指のみで小説をやり始めた無謀な時期だった。
主人公の苗字を『赤崎』にしたんだって、母音の『a』が三回も使えるという理由だったし……。
人間、やっていれば成長するもんで、今はスラスラ打てるようになりましたね。
あ、前回『江戸川乱歩賞』に『忌み嫌われし子』を出すとか言ったけど、今『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』をやってるから、やっぱ無し。
文字通り、文字まみれの生活。
時間の許す限り、身体の限界まで……。
俺は『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』の執筆を永遠と続ける。
しほさんからメールがあれば、じっくり読んでから返信し、気分転換にミクシィで思った事を記事にする日々。
他には何もいらない。
それでも俺はとても幸せの絶頂にいた。
駄目だ…、画面が滲む、掠れて文字が読めない。
そこまで眼精疲労を覚え、初めて後ろへそのまま倒れる。
それから自然と眠る。
起きたらこの繰り返し。
たまに食事をしないと身体が持たないだろうから、仕方なくご飯を食べた。
ヤバいよな……。
もはや人間の生活ではない。
それなのに何でこんなにも楽しいのだろう。
しほさん以外の人間から、メールが届く。
ロクス
新宿クレッシェンド読ませていただきました。
読み始めたら止まらない読みやすさで、一気に読んでしまいました。
ゲーム屋の話にリアリティがあって、主要人物と脇役のバランスも良かったと思います。
妹の件はショッキングでしたが、こめかみの傷ときちんと関連づけられて、最期に電話を持ってくれているというのが印象的でした。
愛という名前が愛しているという事に繋がるもの良かったです。
鳴戸はもちろん怖いキャラで印象的だったのですが、僕は何故か岩崎の事が同じくらい印象に残りました。
僕はホモではないんですが、不器用な優しさという物を体現しているように見えた彼に興味を持ちました。
僕はほとんど歌舞伎町には行きませんが、数年新宿区で働いた事があり、歌舞伎町の側に取引先があった事があります。
ハイジアの回りの立ちんぼも知っています。
今の歌舞伎町でも、僕は十分怖いのですが、昔はもっと危なかったんでしょうね。
しかし、このクオリティで書くスピードも早いというのは素晴らしい。
はっきりとした自分を持った上で書いていかれるとうのも、尊敬します。
僕は少し違う立ち位置になってしまいますが、頑張ろうと思っています。
続編などが出版されれば、また拝読したいと思います。
良いものを読ませていただき、ありがとうございました。
文面を見る限り、俺よりは若い物書きの人といった印象を受ける。
彼とも暇を見て、メールのやり取りをするようになった。
俺の長男である『新宿クレッシェンド』に対し、このような評価をしてくれた恩人。
お互い切磋琢磨して頑張っていきたいねと伝える。
しほさんは、とうとう俺の執筆中の『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』を読みだしたらしい。
コメントに眼精疲労になったと笑いながら書いていた。
俺にとって最大の誉め言葉。
歌舞伎町時代のような収入など無い。
だが今の俺に欲しいものなどあるのか?
こうして文章を書き続けられる幸せ。
それに比べたら、どんな娯楽もまるで及ばない。
どっぷり浸かろうじゃないか、文学の世界へ。
しほちゃん
今三百ページ過ぎくらいを読んだところです。
一週間ばかり旦那にパソコン貸していたので読んでませんが。
本当、周りの方に可愛がってもらってきたから、人間不信とかにならなかったんですね。
おじいちゃん、おばあちゃんの愛って無償の愛に一番近いですよね。
お母さんも、もしかしたら家で居場所がなくて、精神的に病んでいたのかもしれないですね。
うつ病とか、育児ノイローゼ、パニック症候群……。
そういう心の病だったのかもしれません。
女の人って、産後は凄くホルモンバランスが崩れて不安定になるらしいです。
そこに、旦那さんに対する不信とか、旦那さんの家族に対する不信が重なって全部が自分の敵みたいに感じてしまったんじゃないでしょうか。
子供を虐待するのってある意味自傷行為と一緒ですよね。
それだからといって、虐待が許されるわけではないんですけど…… 。
母として、やっぱり何よりも子供の事を考えてあげたいです。
ところで、風神さんと雷神さんのお話がちょいちょい出てくるんですけどあれ、いらないんじゃ~?
せっかくのリアルな世界観が作り物っぽくなって興ざめしちゃいます。
無いほうがきっといいですよ!
しほさんらしい文面だ。
確かに雷神と風神を部分部分で入れてしまったのは、以前群馬の先生に言われた時の事が大きく影響している。
リアルな世界観が作り物っぽくなってしまうか……。
彼女の言う通りだろう。
ただ今の俺にとっては、それさえもまだ書き途中なのだ。
後戻りして風神雷神のところを削る作業をするくらいなら、先をどんどん書いていきたい。
書き進めないと気が済まなくなっている。
ほとんど何かの病気に近いんじゃないだろうか。
最近書いていて思うようになった事。
俺の幼少期の母親による虐待。
これさえも実は試練で予め用意されていたもので、虐待の辛さを自身で感じ取り、大きくなった時にそれを文章へ返還する。
これを世に出す事によって理不尽な虐待を減らさせる意味合いで、俺は生まれ変わって現世に出る際、自分にこうなるよう課したのではないか?
流れを大事に……。
そう…、バラバラでハチャメチャな人生。
それなのにそれすらすべて受け止めて、こうして今は作品を書いている。
現状の家の中は酷い環境だ。
誰が見ても君が悪いと感じるだろう。
幼き頃の虐待。
母親だけでなく、父親はろくでなし。
しかもその妹である叔母さんまで加わって、さらに輪を掛けたような嫌がらせ。
ひょっとしてこうなるように、これまでのすべてを自分で設定し、生まれ変わってきたとしたら?
そう思った瞬間、身体がゆるりととても楽になった。
自流の流れに沿って……。
酷い人生だったかもしれない。
だけど幼い頃は、フォローしてくれたおじいちゃんとおばあちゃんがいた。
周りに優しい従業員の人たちに囲まれて大事にされてきた。
家の目の前の映画館ホームラン劇場だって、そうだ。
あそこの酒井さんを始め、どれだけ多くの人たちから俺は可愛がられてきたのだろう。
まるで天国と地獄だが、虐待ばかりではなかったという事実。
潰れないよう、ギリギリのところで俺自身が蜘蛛の糸を垂らしていたんじゃないのか?
だっておかしいだろ。
小説を書こうって執筆した作品が、いきなり賞を取って世に出た。
でも印税は入らず、苦しい現状を送る生活。
リングの上だってそうだ。
あの頃のプロレス人気は本当に凄かった。
俺のようなただの素人が、何故ジャンボ鶴田師匠みたいな人と巡り合えた?
ピアノもそう。
ドビュッシーの月の光を川越市民会館で演奏。
確かに努力はした。
でも、少し出来過ぎのような気もする。
パソコンのスキル面だって、そうだ。
先輩の坊主さんがいつの間にか俺に教えるようになり、気付けば今のようになっている。
場面場面で何かしらの動きがあるのだ。
俺が酷い目に遭っても、潰れないようギリギリのところで……。
霊感などまったく無い。
心霊関係など、以前百合子と付き合っていた頃、竜君と一緒に撮った心霊写真のようなものくらい。
それが原因で、俺は群馬へ行き、あの先生とも会った。
俺がどう望もうと、何をしようと、結局はなるようにしかならない。
ならば、流れに身を任せよう。
それがどんな辛い事だろうと、自棄にならずただ身を任せればいい。
そういえば最近群馬の先生のところへ、行ってなかったな。
今度時期を考えて、行って話を聞いてみたい。
あ、しほさんからメールが届いている。
しほちゃん
そうですね、正直私も読んでて、ぽろぽろ泣いてしまいました。
近所のおばさんたちまで虐待されていた事を知ってるなら、よっぽどだったんでしょうね。
躾で、怒鳴ったり、叱ったりする事と、自分の怒りや感情で手を上げるのとはまったく別物ですから……。
お母さんよりもお父さんのほうが酷い気もしますが……。
そんな中、おじいちゃん、おばあちゃん、おばさん、従業員の人たちの優しさが身に沁みますね。
本当、守ってくれてて良かった。
子供を愛せない親なら要らない…、なんて思ってしまいます。
この前も若い母親と父親が小学校一年生の男の子を虐待死させたニュースをみましたが、子供が命を失うほどに暴力を振るうなんて、人間としておかしいですよね。
狂ってるとしか……。
本当に世の中理不尽な事ばかりでいやになります。
しほさんの言い分で一つ間違っているところがある。
お母さんよりもお父さんのほうが酷いと思う。
虐待や暴力にランクなど無いという事を……。
無力な幼少期では、軽く叩いただけでも恐怖を覚える。
俺の場合は、玩具の電話機の受話器を持たされ、一歩ずつ本体を持ちながら後ろへ下がるお袋の時が、一番の恐怖だった。
これから何をされるのか分かっていながら、受話器を離せない恐怖。
そんな事をしたら、何をされるのかが恐ろしかった。
逃げられない状況へ置かれ、本体がこちらへいつ飛んで来るのか待つだけ。
本当に痛かったよなあ、あの時は……。
だから強くなろうって心から思ったんだ。
このままだと殺されちゃうと……。
しほちゃん
そうですね、想像で作った言葉と、実際に経験した事では、言葉の重さも思いの深さもまったく違います。
人の心に響くものがあります。
トモさんが小説を始めたのは、自分にとっても他の人たちにとっても、凄く意味のある事でしょうね。
言葉にする事で、自分を客観的に見れる気がするし。
トモさんの文章が人を惹きつけて離さないのは、リアルだからなんですよね。
もっといろんな人に読んでほしいです。
私も。
だからこそ、今度はぜひちゃんと大手の出版社で!
時間は平等。
この人は人妻で、子供たちの面倒も見るし、旦那の食事だって作らなきゃいけない。
それなのにこんなにも俺の小説に対し、一生懸命読んでアドバイスをくれる。
涙が出るほど嬉しかった。
戦う道へ行こうとすると、雷電が袖を引っ張って邪魔をする。
現世での俺は、他にやるべき事があると……。
群馬の先生の言葉を思い出す。
こんな感慨深くなるのは、おそらくそのやるべき事を今こうしてやっているからではないのだろうか?
俺は時間を見て飯野君を食事へ誘ってみた。
帰ってきて早速ミクシィで記事にする。
前回同級生のかわごえれっずさんと一緒に食事へ行き、旅行や食べ物の話で盛り上がったが、今日はできる事からやっていこうとカーニバルブッフェに行く。
最初に置いてある様々な料理を持ってきて……。
ピザ、カレー、ミネストローネ、ドリア、ポテト、ハンバーグ、味噌ラーメン、サラダなど。
さらにドリアなどを追加。
鍋焼きうどん。
ガーリックライス。
どうでもいいけど、主食が多いなあ……。
そしてデザート。
この時失敗したのが、今日生まれて初めてティラミスというものを食べてみた為、ヨーグルトとの組み合わせは最悪という事が判明。
チョコとヨーグルトは相性が悪いのを知る。
昔は甘いものが苦手だったが、ここ最近年のせいか何とかこれぐらいの量なら食べる事ができるようになったのだ。
このあと自分で作るパンケーキなどを持ってくる。
これらを食べ、腹八分目になった頃、ローストビーフのサービス始まったので食べてみるが、これはとてもまずかった。
まるでゴムを食っているようだ。
だから写真など撮るものかと思った。
しかし千五百円の値段でこれだけのものを食べているのだから、まったく不満はなし。
我ながらどうでもいいくだらない記事である。
しかし他愛ないこのくだらなさが、自身を癒していた。
同級生の飯野君の存在には、本当に感謝だ。
ミクシィで再び繋がってから、ずっと俺の小説を励ましてくれた恩。
俺は再び報いる為にも、更に努力が必要だ。
賞を取るとかでなく、思うままひたすら書き連ねる。
作品でいえば『打突』。
時期で表すなら全日本プロレス入門前。
あの頃は本当に肉体を研ぎ澄ませた。
人生で初めて本気で頑張ってみようと思った時期。
しほちゃん
いま七百枚ぐらいで、土木の仕事をしながらプロレスラー目指して身体作りをしているところです。
他の作品と違って、小さい頃から順に書いていってるから、文章構成力もまったく問題ないし、何よりも文章に勢いがあって、どんどん作品世界に引き込まれちゃいますね。
すっごい面白いです。
面白いって言葉が適切かどうかわからないんですけど、先が気になってしょうがないですね。
読み応えあります。
枚数無制限の賞があるなら、これを出したほうがいいですね!
でも賞とかより、本当いろんな人に読んでもらって、ベストセラーとかになりそうな感じがするん
ですけど。
ぜひ、これを持って売り込みに行って下さい!
そこら辺の人気作家が書いた小説よりも、断然面白いと思います。
今書いている『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』は、これまで書いた『打突』や『新宿プレリュード』以降の作品すべてが詰まったものになっている。
自分で張りきって懸命に書いてはいるつもり。
俺の核を書いていた。
ただの自己満足小説だ。
それをこんな評価してくれるのか、しほさんは……。
叔母さんのピーちゃんは、本になった『新宿クレッシェンド』に対し、本当に酷い言葉を浴びせてくれた。
「こんな本に千円出して読む人間の気が知れない」
未だあの悔しさは忘れられない。
しほちゃん
> 『新宿クレッシェンド』が本になった時も、家族からケチョンケチョンに言われているので、あまり自分の作品に対して自信が持てなかったんですよね……。
まじで?
世の中に小説家目指してる人が何人いると思ってるんでしょう。
賞取ったり、本になったりなんて、本当に稀なことなんですよ。
もう、才能が無いと、どうしようもないことだから。
そんな人たちが五万といる中で、本を出してる事は凄いことです。
> 今書いている『鬼畜道』も傑作を俺は今書いている実感があると言うと、「それは人が決める事で自分で言うから駄目なんだ」と言われる始末なんです。
じゃあ私が認めます。
傑作だと思います。
ご存知のようにお世辞いうタイプじゃないので。
それに自分が凄い作品だって思わない作品を他人が読んで面白い訳ないじゃないですか。
駄作は自分が一番分かりますよねえ。
トモさんは表現力が抜群だから、どんな作品書いても面白いと思いますよ。
でも、ヒューマンドラマとか、人間の心の内を書いた作品が一番合ってるかも。
鬼畜道読んでると、トモさんの事がすごーく心配になってくるんですよねえ。
これってかなり作品に感情移入してるって事でしょう?
いまちょうどおばさんとの確執のところだから、「食費を入れてれば、おばちゃんもそんなこと
言わないんじゃ?」とか「今もそんな感じなのかなー」とか気になっちゃいます。
じゃあ私が認めます。
傑作だと思います。
これを見た瞬間、大量の涙が溢れた。
うん、俺はこの評価だけで生涯めげずにずっと小説を書き続ける事が、きっとできるのだろう。
確かに作品に感情移入している。
いや、魂を削りながら書いていた。
多分この評価をしほさんがくれて、俺は報われたのだ。
これまで遣る瀬無さを纏い、日陰者のように生きてきた。
俺は本を世に出した。
リングの上で戦った。
すべて空威張り。
張りぼてを隠す如く、粋がっていたに過ぎないのである。
そんな最中、家に突然の異変が訪れた。
あの忌々しい加藤皐月。
現時点で俺と徹也二兄弟の戸籍上の母親。
何があったのかまで分からないが、家を出るようだ。
早速ミクシィで記事を書いた。
この記事よりしばらく更新やめます
手放しで喜べる状況ではないが、ようやく物の怪が家から去る。
ここ三年間の悪夢の日々、少なくてもこれだけはなくなった訳だ。
こんな事ならあの時殺せば良かった。
鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~
自分の生きた軌跡をふと残したくなり、この作品を書く事にした。
賞に応募するとか、誰かに読ませるとかじゃなく、自分の為だけに書く。
そんな作品が一つぐらいあったって構わないだろう。
作家って媚びたら終わりだと思う。
人生常に自己満足のマスターベーションでしかないのだから。
非常に残虐な表現があるシーンありますので、その点を了承しながら読みたい人は勝手に読んで下さい。
あと、この作品はとても長い物語になります。
執筆して推敲、その為にここへアップしているだけなので、ある日突然読めなくなる可能性もあります。
その辺も考慮して下さい。
ひたすら文章を書き続ける。
以前鍛えた肉体は、引き換えにどんどん筋肉が削げ落ちる。
構わない。
やりたいから俺はこうしている。
前に俺に家を突然継げと言ってきた加藤皐月。
あれは、この家の財産をある程度納得できるほど取れたから、出て行く前の算段だったのだろう。
置き土産に、貴彦と叔母さんのピーちゃんの養子縁組を伝え、家の中を混乱させるように……。
それによって、自分が持ち出した財産の誤魔化しをしたに過ぎない。
今の俺にはどうでもいい事だった。
世間知らずのボンボンの親父が、物の怪にうまく利用し騙されたというだけの話。
はなっからこうなると予想はついていたのだ。
これすらも時流の流れ。
俺はただ流れに沿うだけ。
今は少しでも先に書き進める。
それだけが俺にとって意味のある行動だった。
しほちゃん
こういう記事を見つけました。
編集長に直接送る…といいらしいです。
私は出版社におりましたので参考にしてみて下さい。
マニアさんの補足になりますが、基本はやはりワープロで作成したものです。
手書きは敬遠されます。
書き終えたら、原稿用紙で二~三枚の要点を添えます。
新書を出しているような出版社の編集部に送るといいです。
それとマニアさんが仰る、できるだけ自分の論説に近い書籍を出している出版社に出す事。
大手過ぎても相手にしてもらえないと、臆するかもしれません。
しかし弱小企業だと、そうした作品にはなかなか目を向けてくれません。
出版社は、常にヒットする作品に飢えてもいます。
売れる、売れないはその出版社の姿勢にもかかわります。
さて、小学館文庫の例です。
最新刊の奥付に「発行人」の名前が出ていますので、その人物が編集部長です。
その人物宛てに作品を送ってみて下さい。
「編集人」は個々の作品の編集を担当した編集部員ですから、取り合ってもらえないかもしれません。
どの出版社でも、発行人宛てに原稿を送る事です。
小学館文庫での、過去の作品を見ますと、ちょっと専門的な作品であっても万人が受ける内容にアレンジさせて発行していますので参考にして下さい。
遠慮なく送るといいですよ。
多忙な日々を送る彼女。
それなのに俺の為に、こうしたプラスになりそうな記事を見つけては教えてくれる。
非常に有難かった。
しかし今の俺はただ書く事しかできないでいる。
気持ちは本当に嬉しいし、そうすればいいというのも理解している。
それでも書くのを止められない。
もう何かの病気なんだろう。
しほちゃん
今色々小説の賞を調べてみてるんですけど、枚数少なかったらダ・ヴィンチ文学賞とか、トモさんに合ってる気がします。
ジャンル不問!
四つの文学賞を同時に受賞した人とかいるので、賞向けに枚数ちゃんと考えて何作か出してみるのもいいかも!
賞取るのが確かに一番手っ取り早いですもんねえ。
あー良かった。
やっぱり家族は大切ですもんね。
そういうちょっとした事が気になりながら、続きを読んじゃうんですよね。
この作品を賞向けに短くするなんて超勿体ないから、何か別の作品で賞とって、これをそのまんま世の中に出せたらなあ……。
読んだら分かると思うんだけどなあ。
編集長に送ってみませんか?
知り合いの編集者とか。
新聞社でもいいです。
読んでもらえば分かる!って私は思うんです。
何という賛辞をくれるのだろうか、この人は……。
でもしほさん、まだこの作品はおそらく百分の一も書けていないんですよ。
本当に彼女の賢明さには涙が出た。
でも俺はもう『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』を止められない。
辛うじて、しほさんへメールの返信をできる程度。
そして新たな境地へ至った時、作品と両立は無理だから、記事にその事を残す為に書く。
多分この作品は魂削りながらじゃないと、書くのを許されない…、そんな感じがした。
小説を書いていて、殺したいなあと思った。
小説を書いていて、泣いてしまった。
ほかにも様々な感情が出たけど、特に強い感情はこの二つだった。
悲しみって色々な形があって、その時は分からないだろうけど、数年経って振り返ると優先順位が分かる。
小説の勉強をした訳じゃない。
書きたかったから書いたのが小説だっただけ。
確かに他の作家に比べ、文章は拙く幼稚かもしれない。
だったら誰にも真似できない一つの長い長い物語を書き綴ろうじゃないか。
二千十年二月五日 原稿用紙三千百八十三枚まで執筆中。
現在の心境を忘れない為に…、いつでも思い出せるように記事にする。
前にこの記事よりしばらく更新やめますなんて書いておいて、俺はすぐ嘘をつく。
いいんだ、そんなもの。
周りからどう思われようと、俺は俺の為に記事を書き、記憶を残すだけ。
しほちゃん
受付のお姉ちゃんに言ってもしょうがないですよ。
そこが短気と言われる所以ですね。
書いた作品を賞に送っても中々取れないのが現実みたいですね。
デビューしてからの連載用に暖めておいて、各賞の傾向と対策、過去の受賞作なんかを全部調べて、それ用にお話を作ったほうが一番確率は高いでしょうね。
どうもいろんな賞あるけど短編が多いですよね。
トモさんの文章力なら傾向と対策抑えれば、受賞は難しくないと思うんだけどな。
割り切って書いてみてはどうでしょう?
ちなみにミステリー系とホラー系はいまいちだったかな~。
発想はいいので、作り込み過ぎないほうがいいですね。
しほさん、俺はまだ物書きとしては幼稚で、蛹みたいなもの。
俺に過度な期待は必要ない。
少し前まではまた世に出したいとか野望はあった。
でもこの作品を書いてから、今はこれしかできないと自覚してしまったのだ。
多分これを書く為に、小説を始めたのかと思っているほど。
何故これを中断させてまで、彼女は賞を取る方向へ行かせるのだろう?
どんどん先へ進めないと、全然終わりが見えない。
携帯電話が鳴る。
誰だよ……。
執筆の邪魔するな。
画面を見ると、高校時代の恩師である榊先生からだった。
この人がいたから、俺は高校をちゃんと卒業できたと言っても過言ではない。
高校二、三年の担任。
ケンタッキーを一ヶ月半でクビになった俺は、親父の昔からの知り合いのガソリンスタンド山口油材で一年半以上アルバイトをしていた。
当然学校ではバイト禁止なので、内緒である。
免許もまだ無い高校生なのに、他の免許を持つ年上のアルバイトたちと同等の時給をもらっていた。
ケンタッキーの時給が当時五百四十円に対し、山口油材での最高時給は八百円。
どれだけ優遇されていたかが分かる。
当然アルバイトのつけは学校生活に来る。
三年間で遅刻回数三百五十七回の記録を持つ俺。
授業日数不足で数学の単位が取れない時、榊先生は共に頭を下げてくれ、何とかお願いしますと頼み込んでくれた。
ひと学年七百名以上のマンモス校。
全校生徒で二千人はいるが、学生の頃は喧嘩に明け暮れ、男子生徒の二割は殴った。
それでいて三年間一度も停学にすらなれなかったのは、すべて榊先生によるカバーのお陰だ。
高校二年の夏休み。
埼玉県滑川町にある笹船寿司ことジャンボ寿司へ、連れてってくれた事もある。
十八歳で卒業してから二十年。
この先生とだけは、未だ交友があった。
先生の家に何度も招かれている。
返しきれない恩義。
「お久しぶりです」
「岩上! おまえ、いつうちに来るんだよ?」
元気のいい榊先生の声。
「まあ、今は無職で休業補償もらっている段階なので、いつでも」
「じゃあ、明日来い。うちの由香と真由も、岩上に会いたがってるぞ」
「……。分かりました。明日伺います」
「ちょっと待ってろ」
先生はある程度話すと、必ず自分の娘と電話を交換する。
「岩上のお兄ちゃん?」
「由香ちゃんか。久しぶりだね」
根を詰めて文学にどっぷりハマっていた俺を現実の世界へ引っ張る力。
俺が自衛隊へ行っていた十八歳の頃、初めて榊先生の自宅へ招かれた。
その時由香ちゃんは生まれたばかり。
それから何度会った事だろう。
行く度可愛がっていた俺は、先生の元教え子という立場よりも、昔から可愛がってくれたお兄ちゃんになっていた。
そんな彼女も、俺が三十八歳になったから、二十歳になる。
いい年頃だ。
「お母さんとね、岩上のお兄ちゃん来るなら料理のお手伝いして……」
「ちょっと待って。いつも俺ばかりご馳走になっているからさ、今度は俺が作って持っていくよ」
「えっ! お兄ちゃん、料理作ってくれるの?」
「由香ちゃん、前に食べた時気に入ってくれたもんね。今回も任せて!」
電話を切ると、俺は早速食材を買いに外へ出る。
何が文学にとり憑かれただよ……。
たった一本の電話でこうだ。
俺自身、小説を書くという事で、すべてから逃げていたのかもしれない。
せっかくだから得意料理を作ろう。
買い物を済ませておかないと……。
今日と明日を使い、由香ちゃんたちが大喜びするようなご馳走を作らなきゃ。
二千十年二月六日原稿用紙三千二百四十三枚。
明日は高校時代の恩師の家に招かれているので、今回は俺が料理を作っていくと約束しました。
娘さん二人に「何が食べたい?」と聞くと、「ハンバーグ!」「スパゲッティー!」との事なんで、前日の下準備としてちょっぴり張り切りますか。
まずはカレーを作ります。
材料はジャガイモ、タマネギ、ニンジン、ソーセージなどなど……。
野菜をよく炒めたあと、下ごしらえで味付けをします。
煮込んでいる間に挽肉を使ってハンバーグを作ります。
今回はホワイトソースハンバーグにしました。
あとはオーブンで焼くだけ。
これは去年作ったものですが、完成だとこんな感じになります。
こちらは俺の得意技『究極ハンバーグ』です。
とりあえず味見をしてみます。
まだ、火の通りが早い分、味が落ち着いていないですね。
このあとグツグツと五時間煮込み、一晩寝かせましょう。
明日は『最強唐揚げ』、『ミートローフ』、『エキゾチックナポリタン』&各付け合わせを作る予定です。
今日は久しぶりに人をはたきましたが、あまりいい気分じゃないものですね。
何で分からないかな……。
俺はこの記事を書きながら、自然と泣いていた。
試練が多いか……。
本当に何故こんなタイミングで……。
手が痛いなあ……。
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