出会い系の白馬に乗った王子様
2010年8月3日~
原稿用紙 枚
2010/08/03より執筆開始。
内容は恋愛ものだが、ドロドロした様子を書いていこうと思う
広告代理業だったうちの会社の営業方針が、百八十度方向転換したのはいきなりの事だった。何と出会いサイトの会社として生まれ変わるらしい。だけどそんなもので、会社の建て直しなんてできるものだろうか?
確かに通常の業務では潰れるのも時間の問題。ボーナスだって、ここ三年は出ていない。別に俺が悪い訳ではないのに、家ではいつも妻に嫌味を言われる始末。給料がもっともらえ、会社が大きくなるのなら、この際何だっていいか。駄目なら駄目で、身の振り方を考えればいいだけだ。
内容が内容なので、この日家に帰っても妻には内緒にしておいた。出会い系サイトの会社になったなんて、とてもじゃないが言えやしない。これじゃ恥ずかしくて、知り合いにも言えないな。
社長から十万円の臨時収入と、一週間の休暇をもらう。この期間で社内の設備を大幅に変えるようだ。もちろん妻には五日間休暇が出てって事にして、残りの二日間はどこかの安いホテルにでも泊まって、ホテトル嬢を呼んでこっそり楽しもうじゃないか。
同僚の道先と会社を出て、今後について話し合う。
「なあ、道先…、内の会社って、どうなっちゃうんだろうな」
「どうなるって、なるようにしかならないだろ。まあ求人広告の依頼も、こんな不況じゃロクな商売ないし、数も減っている。それに通常の広告にしたって、今じゃほとんど大手からの依頼がメインで、うちみたいな零細企業なんて下請けすら回ってこない現状だ。社長が出会い系サイトを立ち上げて、何をしたいのかなんて分からないが、まあ、会社自体に金が入って、俺たちまで潤えばそれでいいんじゃないの」
道先は淡々とした表情でそう言った。こいつが会社の中で一番頑張っていたのにな。もう少し怒りがあると思ったけど、感情を出さないようにしているだけなのか。
「まあ、本当に潤うのならね……」
「本当なら今までのように広告をデザインして、クライアントと打ち合わせしてって業務がいいんだけどな。でも、それじゃ食っていけないような現実になってしまったんだ」
「もはやモラルも何もなしって感じだな」
「しょうがないさ。道徳だけじゃ、人間生きていけないし」
「一杯飲みに行くか?」
「いや、降って沸いた一週間の休暇だ。久しぶりに実家にでも顔を出して来るよ。お袋の顔も久しく見ていないしな。おまえこそ、奥さん大事にしてやれよ」
「ふん、大きなお世話だ」
俺たちは駅で別れ、それぞれの方法へ向かう。
出会い系サイトって一口に言っても、一体どんなサイトにするんだろうな? 真面目な出会い系なんていっても、今じゃほとんどがサクラばかりだって聞く。気軽に誰でもできるようになった分、もう騙される奴なんていやしない。この手のやつって、結婚相談所とか、お見合いパーティーとか、色々なものがあるけど、インターネット上でというのが一番怪しい。人物が実在しているかどうかすら、確認する術がないからだ。まだ同じサクラでもパーティーとかなら実在する女に会える。それなのに出会い系サイトを今頃なんて、本当にうちの会社大丈夫なのかな……。
まあ社長が十万も臨時収入としてくれたんだ。それなりに考えてあっての事だろう。
一社員の俺が、気にしてもしょうがないか。
ぼんやりしながら家に戻ると、妻は奥の居間で寝そべってテレビを見ていた。気だるそうにこっちを振り向くと、「おかえり」と呟くように口を開き、再びテレビを眺めている。
「……」
すっかり冷えた夫婦生活。乱暴にカバンを置くと、キッチンへ向かう。
妻の冷めた対応の原因は、自分にある事を自覚していたので、苛立ちはしたが怒鳴りつける訳にもいかない。サランラップの掛かった冷えた食事を一人で済ませ、食器を洗った。
新婚当初、貪るように妻の体を求めた俺。歓喜の声を漏らしながら受け入れた妻。仕事から帰れば毎日のように抱き合い、お互いを愛し合った。
しかしある日を境に何故か、急に妻を抱く気がなくなってしまった。「今日は疲れているから」のひと言で妻の誘いを断り、それ以降できるだけ抱かない口実を日々考えるようになる。最初の内は黙って頷いていた妻であるが、その内積極的に誘ってくるようになった。根負けして抱くが、愛情が足りないとか手抜きをしているとか文句を言われるようになり、どうでもいい些細な事から夫婦喧嘩は始まったのだ。
気がつけば、三年ほど妻を抱いていない生活を送っている。
あれだけ毎晩うるさくセックスをせがんできた妻も、今では何も言わず、俺に関心を示さなくなった。子供の一人でもいれば、また違ったんだろうが、あいにく子宝には恵まれない。
もう俺も今年で三十になる。そろそろ子供の一人でもほしいとは思っていた。
スーツを脱ごうとして、先ほど社長からもらった十万円の入った封筒を思い出す。妻に全部渡す前に、半分ほど抜いておいてと……。
「おい、明美」
「何よ?」
こちらを振り向こうともしない妻。大きなケツを蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られる。
「よく分からんが、会社で設備を新しくするらしく、五日ほど休暇になったんだ。それで臨時収入として五万円をもらったんだ、ほら」
テーブルの上に五万円の入った封筒ごと放り投げる。
「五万? 何で?」
金の話になってようやくこっちを振り返る妻。
「そんなの俺だって知らないよ。多分だけど会社内を大掛かりなシステム更新でもするんじゃないか」
「いつから休みになるの?」
「明日、明後日と会社に行って、それからだな」
咄嗟に出る嘘。本当は明日から一週間の休みだが、こんな妻とずっと一緒にいたら、気が狂ってしまいそうになるだろう。
明日からビジネスホテルにでも泊まり、この金で女を買って過ごせばいい。本当なら毎日出勤するようなふりをして、十万円すべて俺自身で取っても良かったんだ。罪悪感など微塵もなかった。
服を脱ぎながら風呂場へ向かう。自分でも何故急に妻に対し、性欲が湧かなくなったのか分からない。昔ならよく一緒に風呂へ入ったものだ。
風呂に入ろうとして湯船に手を入れる。中はすっかりぬるま湯になっていた。自分が入れさえすればいいというあの感覚。仕事で疲れて戻ってきた俺の事なんて、何も気遣いなどないのだ。
こういった事が原因なのか分からないが、気付けば妻を抱くという想像をしただけでうんざりしている自分がいた。嫌なものを強引にやれと言われれば、人間は余計にしたくなくなる生き物。つまり俺ら夫婦は、すべてが悪循環の連続なのである。
とりあえず明日の朝はいつも通り家を出て、二日間が俺の自由時間だ。
一人秘密でやる事と言えば、女遊びぐらいしかない。さて、どんなタイプの女を指名するか。基本は美人系がいいが、胸もあったほうが理想だ。すべてはホテルに行ってからのお楽しみって感じかな。
この日は妻と特に会話もなく、いつものように淡々と寝た。
朝六時半に目を覚まし、洗面所へ向かう。顔を洗ってからキッチンへ行くと、妻が朝食を作っていた。トーストとサラダ、そしてベーコンエッグの簡単な朝食を済ませ、スーツに着替えると、俺は会社へ行くふりをして家を出る。妻は別段気にする様子もなく、洗い物をしていた。
さて、これからの日程だけど、まず泊まるホテル探しから。さすがに自宅近辺はマズいから、適度に離れた場所のほうがいいだろう。部屋を取ったら、風俗雑誌で確認して好みの女を呼ぶ。
久しぶりに刺激的な状況。想像しただけで興奮してくる。
「あ……」
駅に着いてから気付く。何故俺は、出張と偽って出なかったのだ……。
これじゃいつも通り、会社から帰るぐらいの時間に戻るようになってしまう。何かいいアイデアはないか? どっちみち五日間休みがあると、妻には伝えてあるのだ。だから今日明日と、どうしても緊急の作業があるから今日は泊まりになりそうだと、夕方ぐらいに電話すればいいか。
そうと決まったらホテル探しだ。近所の人に出くわすとマズいから、二、三駅行った場所がいいだろう。
コンビニへ寄り、風俗情報誌を購入する。電車の中でパラパラとめくりながら吟味した。
デリバリーヘルス…、略してデリヘル。ホテルまで風俗嬢が来てくれるのだが、最近の女の子ってやつは、どうも可愛く見える。AV女優にしてもそうだが、昔に比べたら格段と女のレベルが上がっていた。載っている写真を見ながら、こんなスタイルのいい女が本当に来るのかと、想像しただけで興奮度が増す。
駅前のビジネスホテルを探し、部屋を取った。
さて…、軍資金は五万もあるのだ。ホテル代で六千円消えるから、残りは四万四千。これを使い、いかに有意義な時間を過ごせるかが問題である。
どうせなら若い女がいい。十八から二十歳そこそこのピチピチギャルとなると…。俺はベッドの上に移動し、丹念に情報を眺めた。
だいたいどこも六十分で二万円が相場らしい。一時間という枠をその金額で体の切り売りをする少女たち。考えてみたら末恐ろしい時代になったものだ。この子らの親が実態を知ったら、きっと泣くだろうな。まあ、それを見ながらどれにしようか考えている俺は、もっとクズ野郎だが。
塾女系といっても二十代後半から三十代の女たちがメインのヘルスだと、値段も若干安めに設定されているようだ。二日間あるのだから、一日一回ずつ頼んでもいいな。だけど食事とか酒も飲みたいし、最初は一万五、六千円ぐらいの安いところを頼み、翌日粒ぞろいの店から選ぶ方法もある。
こんな風に悩むぐらいなら、最初からあんな女に半分も金を渡すんじゃなかったな。給料と違って臨時収入なのだから、黙っていれば分からないはず。
まあ今日は自由を満喫する初日。手頃な値段で抱ける女を呼び出そう。
まずは雑誌にある写真から、女を選ばないといけない。
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