風のいろ・・・

どんな色?

人の思惑を超越して予測もなく・・・

2023年12月26日 | 羊の群

 

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時間にしたらほんの一瞬だった。

なのにその幸福感と充実感は、今まで味わったこともないくらい甘美に広がる。

それは涙が出そうなほどの喜びの回復だった。

信宏は急いで部屋に戻る。

自分の胸に手を置く。心臓が動いていた。

当たり前のことが嬉しかった。

自分は生きている、そういう実感だった。

血液は脈動し体中を巡っている。久しぶりの躍動感だ。

まり子が一瞬にして信宏を蘇生させた。

いいや、厳密に言えばそれはまり子自身ではなく、人を愛おしく思える気持ちが人を生かした。

それを信宏は知った。この気持ちこそが奇跡だった。

自分のような罪深く冷酷な人間にさえ、芽生えることのできる命を育む尊く純粋なもの。

それこそ生きるために最も必要な力なんだと思えた。

いや、体験を通しての実感だった。

信宏はこれを、愛などと陳腐な名で呼びたくなかった。

何故ならこの力は死と隣合わせに存在し、肉体の快楽とは遠く隔たっていたからだ。

何故なら元来自分の中にあったものではなく、突然心に現れ、人の思惑を超越して予測もなくやってきたからだ。

まるで天から与えられた魂の呼吸、やっと深く息ができたような感覚に似ている。

信宏はこの世に初めて生まれてきたような気さえしていた。

そして、それが錯覚と言うにはあまりにも瑞々しく新鮮だった。

この日以来、信宏の世界は色が塗られ輝き始めた。

しかしその六日後、怖ろしく信じ難い事件が起きた。

 

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「羊の群」より

 

 

 

 

 

 

 

God Bless You ❣