熱を発するラジオ波(電磁波)を使い、肝臓がんの病巣を焼いて消滅させる「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法」が急速に普及している。病巣の切除手術と違って切開しないので患者の負担が少ない上、技術の進歩で治療成績が向上し、保険も適用されるからだ。臓器をできるだけ残すことで、再発しても繰り返し治療できる。患者の状態に応じて切除手術などと組み合わせて効果を高める方法も取り入れられ、再発率が高い肝臓がんの治療の「第1選択」として有力な手段になってきている。(坂口至徳)
ラジオ波焼灼療法は、超音波画像のモニターで病巣の位置や大きさを確認しながら、直径1・5ミリの金属製の電極針を患部に刺す。病巣の中心を貫通したところで針を止め、通電。するとラジオ波により100度近くの熱を発し、病巣を焼く。針には、病巣で針先が傘のように開いて幅3センチ程度の範囲を焼くことができる「展開針」や、2つの電極を持ち広範囲に焼くタイプが使われることが多い。
80代のある男性は、C型肝炎ウイルスに感染して肝硬変になった。その後、肝臓内に肝細胞がんがみつかり、病巣に栄養を送る動脈を薬剤でふさいで壊死(えし)させる肝動脈化学塞栓療法を行ったが効果はなかった。
焼灼療法を多く手掛けている近畿大医学部付属病院(大阪府大阪狭山市)の消化器内科に転院。男性の腫瘍は横隔膜の近くにあり、超音波を伝えない空気を多く含む肺が邪魔をして病巣が見えなかったため、同病院では肺と肝臓の間に生理食塩水を入れてモニター画面に映しながら、病巣を完全に焼くことに成功した。
男性は6日後に退院。2年後の現在も再発しておらず「食欲が増え、腹部の違和感もなくなった」と元気に過ごしている。
同科の工藤正俊教授は、ラジオ波焼灼療法が普及した理由を「肝臓がんの治療では、肝臓の正常な機能をできるだけ残すことが重要で、その点から選択する病院が増えている。再発しても簡単にまた治療できる。装置や安全性を考慮した治療法の開発に加え、超音波検査では見えにくい患部の画像を鮮明にする技術の進歩も大きい」と指摘する。
工藤教授は、肝臓がんの周囲にある特定の細胞(クッパー細胞)に取り込まれる造影剤を使う方法を応用して、超音波画像では見えない肝臓がんを検出し治療する方法を開発。現在、世界中で使われている。このほか、超音波の画像とCT(コンピューター断層撮影)画像をオンラインで同時にモニターに映し、病巣の位置確認をしやすくする方法も広く普及している。
工藤教授は「日頃から検診でC型肝炎ウイルスなどの感染をチェックしておき、発見されればすぐに肝臓専門医を受診することが大切だ。早期であるほど治療の効果が高くなる」と話している。
■ガイドラインでも外科と並ぶ選択肢
肝臓がんは、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスの感染による慢性肝炎や肝硬変から発症することが多い。最近では、脂肪肝など生活習慣病から発がんするケースも増えている。
ラジオ波焼灼療法は、平成25年の肝がん診療ガイドライン(日本肝臓学会)の改訂で、外科手術による切除とともに「腫瘍が3センチ、3個以下」の肝臓がんの治療の第1の選択肢になった。
日本肝癌(がん)研究会の全国追跡調査によると、5年生存率は「切除」が61.4%。「焼灼療法」は全国平均55.7%だが、近畿大では64.8%など施設によってばらつきがある。現在、積極的に導入しているのは東京大、順天堂大、近畿大の各病院や大阪赤十字病院など。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150818-00000514-san-hlth
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