「SNSと若者と選挙」
SNSの問題点、弊害については数多く指摘されているが、当方自身SNSはあまり好きではなく、このブログ及びYouTube(こちらは見るだけだが)以外は利用していない。
(Twitter、Facebook、Instagram、LINEなどは一応アプリをダウンロードして登録してはあるが、全く使用していない)
何故かと一言でいえば煩わしいから。
好きではない当初の理由は、LINEの「既読」の表示だったが、他にもSNSには「お薦め」とか、余計なお世話だと思われる機能、情報提供が多すぎる。
これらSNSがなくても当方の生活には何ら支障はなく、不便さも感じていない。
SNSにも、情報源の多様化、多くの人と繋がることが出来るなど、それなりの意義、利用価値はあると思うが、どうも最近はその弊害の方に目が向いてしまう。
電車の中では相変わらず多くの人がスマホ片手に何やらしているが、目を悪くしないだろうかと他人事ながら心配になる。
また当方パソコンでも文章を読むのに、画面上ではよく理解できない(頭の中に入らない)ことも多く、その場合はいちいち印刷して読んでいる。
若い人たちはこのようなことはないのだろうか。
最近は授業でもタブレットを使っているようなので、慣れれば平気なのかもしれないが。
ところで、SNSの問題点、弊害については今更列挙することもないだろうが、一応総務省が纏めたアンケート結果を記しておく。
[ソーシャルメディアの情報発信者が経験したトラブル](2018年の調査結果)
「自分の発言が自分の意図とは異なる意味で他人に受け取られてしまった(誤解)」
「ネット上で他人と言い合いになったことがある(けんか)」
「自分は軽い冗談のつもりで書き込んだが、他人を傷つけてしまった」
「自分の意思とは関係なく、自分について他人に公開されてしまった(暴露)」
「自分は匿名のつもりで投稿したが、他人から自分の名前等を公開されてしまった(特定)」
「他人が自分に成りすまして書き込みをした(なりすまし)」
「自分の書いた内容に対して複数の人から批判的な書き込みをされた(炎上)」
「自分のアカウントが乗っ取られた結果、入金や商品の購入を促す不審なメッセージを他人に送ってしまった」
今回なぜSNSの問題を取り上げたかと言うと、先日行われた東京都知事選で元安芸高田市長の石丸伸二氏が若者たちを中心にした265万票という立候補者中2番目の高得票を獲得したから。
この人の市長時代及び今回の都知事選の選挙活動を見ると、その特徴はネットメディアのフル活用と言うこと。これが若者受けしたという事のようだが、当方としては気になることでもある。
石丸氏は市長時代もそうだったが、この人の言動の特徴はネットを利用して「煽る」ということ。
今回の街頭演説でもプラカードに「撮影OK、拡散歓迎」と書いて、若者たちにネットへの投稿を促し、若者たちは閲覧数の獲得に繋がるからか、演説を撮影した動画をこぞってネットに投稿し、これが拡散していった。
若者たちはなぜ石丸氏に投票したのだろうか。
当方当初、同氏の演説会の様子をTVで見たときは、声を張り上げるでもなく静かな口調で、むしろ印象は良かったが、選挙直後のTVでのコメンテーターたちとのやり取りでは、まともに受け答えをせず、偉そうな態度で話をそらしたり、質問者を子馬鹿にしたりしており、不愉快な気持ちになった。
その後TV局のワイドショー等に度々顔を出すようになり、この時は選挙後の周囲からの批判が身に染みたのか、選挙直後のような傲慢な態度は身を潜めるようになったが、逆にメディアや質問者たちに迎合するような態度が目立つようになり、質問に対する答えも一般的なことばかりで、知識の浅さが浮き彫りとなるようなものだった。
これら(市長時代、都知事選、ワイドショー出演など)を振り返ってみると、この人の関心、目的は政治ではなく、ともかく自分を売り込むことではなかったかと思えてくる。(これらによるネット収入もかなりのものだったようだが。)
更にこれ迄の言動が(反発も承知の上での)全て意図的なものだとしたら、相当計算高い人物ということになる。
当方、石丸氏の街頭演説の様子をネット動画で再度見てみたが、どこの場所でも同じように、自分の経歴と、「東京を動かそう」「都政の見える化、分かる化」ということを繰り返すばかりで、政策については「政治屋をなくす」「政治を変えよう」と言った後、3本の柱として「政治再建」「都市開発」「産業創出」ということを述べていたが、単に単語を断片的に並べただけで、後はYouTubeを見てくれとのこと。そして最後は「皆さん、撮影した動画は友達に送って拡散してください」というものだった。
(YouTubeを見てみたが、政策については3本の柱が書かれているが、中身は具体性のないものだった。)
街頭演説の内容はこれでもかまわないが、問題はその手法で、同氏は市長時代にもいわゆる「切り抜き動画」を多用(許容)しており、今回も同じ様な方法で挑んでいたようである。
*「切り抜き動画」
市議会をはじめとする市の公式映像などをもとに、第三者が短く編集・加工し、SNSにアップされたもの。
例えば、質問を行った市議の質問の前提が間違っているとして「バッジを外せ」と石丸氏が求める動画や、居眠りが疑われる議員を巡り議長に異議を唱える様子などが「切り抜き動画」として使われている。
当時の石丸市長が相手を斬り捨てていく「切り抜き動画」はYouTubeなどに多数投稿、拡散されたが、石丸氏側もこうした動画の拡散を許容し、知名度アップの一因にもなったとされている。
選挙後、「石丸構文」という言葉が流行ったが、これは「質問に対して質問を返す、質問内容がおかしいと一蹴するなどの、会話がかみ合わない発言」のことを言うらしい。
Yahoo知恵袋に次のように説明している人がいた。
「実際には中身がない者が答弁に詰まった際に用いる屁理屈・小理屈のこねくり回しと、意味不明な質問返しを繰り返す事で急場を凌ぐ論点ずらしの手法。
特徴として、頭が悪い者が賢者ぶる時に多用する、実に狡猾で浅はかな対処法です。」
石丸氏の悪口を言うのがここでの趣旨ではないので、このことについてはこれ以上は書かないが、当方が危惧しているのは次のようなこと。
つまり、ネット社会が広まると、人々はあまり深く物事を考えなくなるということ。
昔、文章の「行間を読む」という言葉があったが、今は行間どころか文章自体も読まなくなっているのではないだろうか。
Twitterなどはその名の通り短い文章を売りとしており、他のSNSは画像・映像中心となっている。
特に最近はTikTokなどのように動画時間も短くなり、テロップも短く貼り付けるだけ。
今米国では、トランプ氏などはTwitterなどを多用し短い言葉で、嘘も織り交ぜて人々を扇動し、人々も大手メディアは信用できない、SNSのみを信用するという人たちが増えている。
我々日本人から見ると、あれほど非常識ででたらめなトランプ氏の人気がなぜ高いのかと疑問に思うが、それは「反エスタブリッシュメント」つまり「既成政治に不満や反感を持ち、政治の変革や刷新を求める人々」を引き付けたからであり、民主党はエスタブリッシュメント(特権階級)の集まりと見られているからのようである。
日本でも今回石丸氏があれだけの票を集めたのは、ネットメディアを上手く利用したということの他に、人々に既成政党への不信感、反発があり、この点「政治を変えよう」ということをしきりに繰り返していた石丸氏への共感があったからと思われる。
この点、スローガンに「Meke America Great Again」ということを掲げ、繰り返していた(今再度繰り返しているが)トランプ氏と共通した面があったかと思う。
米国の場合、政治に関して言えば、良し悪しは別として、近年大手メディアは共和党か民主党のどちらかに肩入れした報道をする傾向にある。例えばCNNは民主党(リベラル)、FOXニュースは共和党(保守)というように。
日本の場合は、大手メディアは両論併記で、自分たちの意見はほとんど述べないが、それだけに物足りなさを感じる時がある。どちらが良いかは意見の分かれるところであろう。
(*CNN、FOXはいずれもケーブルTV。3大ネットワークTVのNBC、ABC、CBSは一応中道だが、どちらかというとリベラル寄りか。新聞ではNYタイムズ、ワシントンポストはリベラル。
日本の場合、傾向としては、新聞では読売、産経は保守、朝日、東京はリベラル、毎日は一応中道だがリベラル寄り。TVでも同様だが、米国ほど極端ではない。)
ただ米国にせよ日本にせよ、大手メディアは物事の真偽は一応検証するので、この点に関しては概ね信用できる。
一方SNSの場合、発信者はほとんど個人なので、自分の主観で発言、発信し、内容も真偽のほどは定かではない。
また読む方も、自分の考えに沿ったもの、好みに合ったものしか読まなくなるので、判断も偏ったものになりがちである。
繰り返しになるかも知れないが、当方SNSそのものを否定しているのではないのと同様、選挙でSNSを利用することが悪いと言っているのではない。このこと自体は法律違反でも何でもない。
要はその使い方、内容だということ。そして問題は(注意しなければならないのは)受けて側にあるということ。
石丸氏の選挙活動も、若者たちの政治に対する関心を呼び起こすという意味では貢献したと思うが、このような手法が広まり、人々(特に若者たち)がよく考えずに、ただ雰囲気に流されて投票してしまうようになると、政治の質は今よりも更に低下してしまうのではないかと、それが危惧される。
とは言え日本人の多くは、一般的な米国人のように狭い視野の単細胞ではなく、知性や教養、常識もあるので、今の米国のように極端な方向に向かうことはないだろうとは思っているが。
若者たちもSNSの弊害については分かっているようだが、多くの人や仲間と繋がっていたい、話題で仲間外れになりたくないなどの理由により、SNSから離れられず、むしろのめり込んでしまっているというのが実情なのだろう。