宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〈一〇六三〔これらは素樸なアイヌ風の木柵であります〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇六三   〔これらは素樸なアイヌ風の木柵であります〕       五、九、    これらは素樸なアイヌ風の木柵であります    えゝ    家の前の桑の木を    Yの字に仕立てて見たのでありますが    それでも家計は立たなかったのです    四月は    苗代の水が黒くて    くらい空気の小さな渦が    毎日つぶつぶそらから降って    そこを烏が    があが . . . 本文を読む

〈一〇六二〔墓地をすっかりsquareにして〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇六二      〔墓地をすっかり square にして〕        五、九、    墓地をすっかり square にして    古くからの馬頭観音はとりのけたし    枝垂れの巨きな桜はきれいに伐ってしまった    その崖下を昔からのけはしい山川が    春は春らしくながれてゐる        小林区が行ってしまってから    苗圃は荒れた粟畑になり    腐植も減っ . . . 本文を読む

〈一〇六一〔ひわいろの笹で埋めた嶺線に〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇六一  〔ひわいろの笹で埋めた嶺線に〕      五、九、    ひわいろの笹で埋めた嶺線に    ぼしゃぼしゃならんだ青ぞらの小松である    その谷がみな蔭になり    その六方石谷みな蔭になり    お辰のうちのすももの花がいっぱいにそこにうかんでゐる    一尺角の木の格子で組みあげた    実に頑丈な木小屋である        下の温泉宿の看板娘は嫁に行き      . . . 本文を読む

〈一〇六〇〔苹果のえだを兎に食はれました〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇六〇 〔苹果のえだを兎に食はれました〕     五、九、    苹果のえだを兎に食はれました    桜んぼの方は食ひませんで    桃もやっぱり食はれました      そらそら      その食はれた苹果の樹の幽霊が      その谷にたっていっぱい花をつけてゐるでないか               〝『詩ノート』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流 . . . 本文を読む

〈一〇五九〔芽をだしたために〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五九      〔芽をだしたために〕        一九二七、五、九、    芽をだしたために    大へん白っぽく甘酸っぱくなった山である     このわづかな休息の時間に     上層の風と交通するための第一の条件は     そんな肥った空気のふぐや     あはれなレデーを     煙幕でもって退却させることである       ……川なめらかにくすんでながれ……    . . . 本文を読む

〈一〇五八〔銀のモナドのちらばる虚空〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五九   〔芽をだしたために〕     一九二七、五、九、    芽をだしたために    大へん白っぽく甘酸っぱくなった山である     このわづかな休息の時間に     上層の風と交通するための第一の条件は     そんな肥った空気のふぐや     あはれなレデーを     煙幕でもって退却させることである       ……川なめらかにくすんでながれ……     実に見給 . . . 本文を読む

〈一〇五七〔古びた水いろの薄明穹のなかに〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五七    〔古びた水いろの薄明穹のなかに〕        五、七、    古びた水いろの薄明穹のなかに    巨きな鼠いろの葉牡丹ののびたつころに    パラスもきらきらひかり    町は二層の水のなか     そこに二つのナスタンシヤ焔     またアークライトの下を行く犬      さうでございます      このお児さんは      植物界に於る魔術師になられる . . . 本文を読む

〈一〇五六 〔サキノハカといふ黒い花といっしょに〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五六    〔サキノハカといふ黒い花といっしょに〕    サキノハカといふ黒い花といっしょに    革命がやがてやってくる    ブルジョアジーでもプロレタリアートでも    おほよそ卑怯な下等なやつらは    みんなひとりで日向へ出た蕈のやうに    潰れて流れるその日が来る    やってしまへやってしまへ    酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも    じぶんだ . . . 本文を読む

〈一〇五五〔こぶしの咲き〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五五      〔こぶしの咲き〕          五、三、    こぶしの咲き    きれぎれに雲のとぶ    この巨きななまこ山のはてに    紅い一つの擦り傷がある    それがわたくしも花壇をつくってゐる    花巻温泉の遊園地なのだ               〝『詩ノート』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 . . . 本文を読む

〈一〇五四〔何と云はれても〕〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五四    〔何と云はれても〕     五、三、    何と云はれても    わたくしはひかる水玉    つめたい雫    すきとほった雨つぶを    枝いっぱいにみてた    若い山ぐみの木なのである               〝『詩ノート』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。  本書 . . . 本文を読む

〈一〇五三 政治家〉

2016年10月02日 | 『詩ノート』
一〇五三    政治家         一九二七、五、三、    あっちもこっちも    ひとさわぎおこして    いっぱい呑みたいやつらばかりだ         羊歯の葉と雲            世界はそんなにつめたく暗い    けれどもまもなく    さういふやつらは    ひとりで腐って    ひとりで雨に流される    あとはしんとした青い羊歯ばかり    そしてそ . . . 本文を読む

〈一〇五二 ドラビダ風〉

2016年10月01日 | 『詩ノート』
一〇五二      ドラビダ風          一九二七、五、一、    生温い風が川下から吹いて    砂土が乾き草も乾く    ドラビダ風のかつぎして    紺紙の雲に踊るやうに耕し    また吐息して牛糞を盛り往来する       業は旋り       日は熟す    楊の芽みな黄いろにぼうけ    川は空諦と銀とを流し    生温い風が南から吹いて吹いて    植 . . . 本文を読む

〈一〇五一〔あっちもこっちもこぶしのはなざかり〕〉

2016年09月28日 | 『詩ノート』
一〇五一  〔あっちもこっちもこぶしのはなざかり〕    一九二七、四、二八、    あっちもこっちもこぶしのはなざかり     角をも蹄をもけぶす日なかです    名誉村長わらってうなづき    やなぎもはやくめぐりだす     はんの毬果の日に黒ければ     正確なる時計は蓋し巨きく     憎悪もて鍛へられたるその瞳は強し         小さな三角の田を         . . . 本文を読む

〈一〇五〇〔何もかもみんなしくじったのは〕〉

2016年09月28日 | 『詩ノート』
一〇五〇  〔何もかもみんなしくじったのは〕     一九二七、四、二八、    何もかもみんなしくじったのは    どれもこっちのてぬかりからだ    電燈が霧のなかにつきのこり    川で顔を洗ふ子と    橋の方では太くたつ町の黒けむり               〝『詩ノート』より〟へ戻る。 《鈴木 守著作案内》 ◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500 . . . 本文を読む

〈一〇四九〔基督再臨〕〉

2016年09月28日 | 『詩ノート』
一〇四九   基督再臨      一九二七、四、二六、    風が吹いて    日が暮れかゝり    麦のうねがみな    うるんで見えること    石河原の大小の鍬    まっしろに発火しだした    また労れて死ぬる支那の苦力や    働いたために子を生み悩む農婦たち    また丶丶丶丶  の人たちが    みなうつゝとも夢ともわかぬなかに云ふ    おまへらは    . . . 本文を読む