私より10年ほど先輩のお爺さんだ。失礼ながら、身なりはあまり良いほうでは無かった。
足元の茶色い靴は、恐らく革製だろうが、かなりはき古されて、色が所々剥げている。
その靴を眺めながら、年金暮らしともなれば、使える物なら穴が開くまで、破れるまで使おうと思うのは、私も同じ年金生活者としてよく理解できる。
ズボンは地味なグレー、ポロシャツはこれもかなり着込んだ薄いミント色のグラデーションの縞模様。肩から斜めにかけた黒いバッグはやはり、少々くたびれていた。
そこまでは、トータルで言えばバランスは取れている…とも言える。
お爺さんは、ネイビーのキャップをかぶっていたのだが、そのキャップのフロントが、かなり際立っていた。そこには、白抜きでデカデカとCALVIN KLEINという、ブランド名のロゴがバーン!と入っていたからだ。
CALVIN KLEINと言えば、映画バック・トゥ・ザ・フューチャーでマイケル・J・フォックス演じるマーティーが履いていた、確か、うす紫色のボクサーパンツを思い出す。
劇場で見た時は、その色の斬新さに少なからず驚いたものだ。
そのウエスト部分にバーン‼️と入っていたのがブランド名のロゴだった。
若き日のマーティーのママが、そのロゴをマーティーの名前と勘違いして「カルバン」と呼びながら迫るあのシーンは、大いに笑えた。
昔はパンツに名前がついていたら、持ち主の名前であると認識されるのが普通だったから、それが余計におかしかった。
私はこのブランド名、CALVIN KLEINをバック・トゥ・ザ・フューチャーで初めて知ったのだった。
そのCALVIN KLEINが、お爺さんの頭の上にある。真正品の本物かどうかは知らない。
決して馬鹿にしている訳では無いが、服装のギャップが、ちょっと笑えた。
あのお爺さんは、ブランド名CALVIN KLEINを知っていただろうか。映画好きなら、私と近い世代だから、絶対知っているはずだが…。
人の服装のことをとやかく言える立場にない私だ。ただ言いたいことは、ブランド物はかように扱いが難しいものだということだ。
でも、もしかしたらあのお爺さん、さり気なく下着もカルバン・クラインでコーディネートしてたりして(笑)。