ある日、その草地の歩道に近い一角に、様々な品物が置いてあった。よくみると、食器類やパンプスなどの靴類、どなたかの不用品だと思われる品物がたくさん置いてある。「ご自由にお持ちください」の文字がダンボールに書かれてあった。
マリー・ローランサンは、絵のタッチは知っていたけれど、フランスの女流画家ということ以外、詳しいことは知らなかった。
昨年も、同じ場所に同じ様に置いてあった。
良識のある方のようで、いつまでも残った物を放置しておくことなく、昨年は数日で綺麗に片づけられ、いつもの空き地になっていた。
昨年の方と同じ方だろうか。
品物はみな比較的新しく、思わず「これはフリマで売れるなあ」等と自然に頭に浮かんだ。直ぐに、そんな考えは頭から振り払った。
そこに品物を置いた方は、恐らく善意で「どなたかに使っていただけたら」と考えて、そこに置いたのだと思う。本当に自分で使うものだけ一つ二つ持って帰るのが相当だろうと思った。
食器や靴は間に合っている。ぐるりと見回して立ち去ろうとした時、物の陰に額縁がある事に気が付いた。持ち上げてよく見ると、額の中には有名な画家の名画が収められていた。絵は本物であるはずは無いと思ったけれど、とても素敵な絵だったので、これをいただこうと思い、そのまま家に持ち帰った。
額縁は、少し埃を被っていたが、さっと拭いたら直ぐきれいになった。
「この絵は確かサン・ローランだったよなー」と考えながら、スマホで検索すると、トップにファッションデザイナーのイヴ・サンローランが出てきた。
「あれっ?違ったかな」そう思った時、気の利くスマホが、“マリー・ローランサン”では?と正しい候補をあげてくれていた。
そうそう、マリー・ローランサンだった。サンローランとローランサン。紛らわしい。
マリー・ローランサンは、絵のタッチは知っていたけれど、フランスの女流画家ということ以外、詳しいことは知らなかった。
調べてみると、絵画の題名は「二人の少女」。
木彫りの額縁もなかなか素敵だ。
玄関に飾ってみた。そこは陽の光の入らない薄暗い狭い空間ではあるのだが、時折出かける時に不意にこの絵が目に入ると、何とも言えない心持ちになる。それが名画が名画たる所以なのだろう。
題名そのままに、おしゃれな姿の二人の少女なのであるが、見る度に何か「はっ」とするのである。
無垢な美しさ、汚れを知らない純粋さ、少女期に誰しもが持つピュアな精神性が、感じられる作品だ。
絵の持つ力を改めて思い知らされたのだった。
本物である筈がないとわかってはいたが、念の為、額の裏を開けて中に入っている絵を確認してみた。思った通り、恐らくカレンダーの絵か何かを額のサイズに合うように、上手に切り取って中に収めたものだった。そのせいか、原画より幅が狭くなったようで、少女の持つ左端の書物がだいぶん見切れている。
絵が本物であろうが無かろうが、絵画のパワーに変わりはない。サンローランとローランサンを間違える私には、レプリカがちょうど良いのだ。
この絵を持ってきた当初は、「飽きたらフリマで売ろう」なんて思っていたけれど、今ではこの絵の虜になっている。