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ポジティブな私 ポジ人

バーバーショップの話

初めて床屋へ行った最初の記憶は、小学校1年生の時だ。
母が家を出て行った後、私の長い髪の扱いに困った父が、最初に連れて行った床屋。そこで、髪をバッサリ切った。それ以来、私の髪型はほぼショートヘアーだ。

床屋の場所を覚えた私は、髪が伸びるたびに父に言われるまま、一人で床屋へ行った。

床屋は小さな店構えで、理髪師はおじさん一人だった。お店に行くと、大体先客がいたので、待ち時間は置いてある少年誌などを手に取る。

当時の週間少年マガジンには楳図かずおの「半魚人」の連載が始まって間もない頃で、一人の少年が半魚人に改造されていく様が、恐ろしくも興味深く、それを読んでいる間は「先客の散髪がどうか終わりませんように」と祈る気分だった。
現実には、「どうなるんだろう」と次のページをめくる辺りで理髪師のおじさんから声がかかり、声には出さなかったが「あー、もー、いいとこだったのにー」ときっと不機嫌な顔で散髪台についていたと思う。

結婚して子供を持ってから、幼い子供達の髪はずっと私がカットしてきた。

よく切れるハサミは大きな裁ちばさみしか無く、息子の髪をそれで切っていた。今その姿を思い出して、客観的に見ると恐ろしい光景だ。
3、4歳位の小さな子供の顔や首の周辺に大きな裁ちばさみを扱う母親。もはやホラーだ。
実際、息子の耳を何度か切った。ちょっとだけ。
息子は泣かずに、よく私の練習台となってくれた。
しばらくして散髪用のハサミを買った。

娘の髪も切るようになってから、カットの基本の本を1,000円位で買った。
基本を知って、美容師気分になったが、息子は中学生以降あまり切らせてくれなくなったし、娘もロングだったので、たまに切り揃えるくらいしか私の出番は無くなった。
そこで折角基本が分かった事だし、自分の頭の方に取りかかることにした。

小学校時代の床屋を卒業してから、数々の美容室へ行ったが、満足して帰ってきたのは2、3回。それなら自分でやった方がましと思い、早速やって見たら、まあ何とか形になった。
最初の頃、ひどい所は娘に直してもらったりした。それ以来10年以上の月日が経つ。その間、3回位は美容室へも行ったが、勤務先の同僚はプロが切っても私が切っても、あまり気付かなかった。もっとも、人のヘアスタイルをそんなに注意深く見る人もいないので、何の問題もなかった。

You Tubeでプロの美容師さんの技術を見たりしているうちに、海外の画像が出てくるようになった。
サムネイルにビフォーアフターが載っていたりして、興味を持って見た動画は、英語圏でバーバーショップを営む男性が、ホームレスの男性に声をかけ、散髪するものだった。

伸び放題の髪を切り、ヒゲを剃ると、ホームレスの男性たちは皆見違える様になり、表情も明るくなった。
見ていて私もうれしくなった。

先日観た動画は、白人のホームレスの女性だった。
私はショックを受けた。
カメラはまさにゴミ箱を必死にあさっている最中の女性の背後から迫った。
髪は腰まで伸びたロングヘアーだったが、随分長いこと洗っていないと見え、からまり固まった毛髪は、クシやブラシなど全く通らない、そんな状態の後ろ姿だった。

声をかけるて、振り向いたその顔は、多分私とそう変わらない年齢の女性。柄の曲った汚い老眼鏡をかけて、シミだらけの汚れた服装だ。
不審そうな疲れた表情でこちらを見ている。
会話は録音されていないけれど、多分「無料で髪をカットさせていただきたいのですが、いかがですか」みたいなお誘いをしたのだと思う。

早速バーバーショップに訪れた彼女。先ずは固まった毛髪を切り落とし、洗髪するところから始まった。

これまで髪を洗っていないということは、当然お風呂にも入っていないということで、理容師の男性はマスクをしているとはいえ、立ちのぼる体臭はかなりのものだと思う。

洗髪が終わった段階で、見ているこちら側も気持ちが良い。
そこからミディアムに髪をカットし、白髪交じりの髪を素敵なアッシュ系に染め、ブローで形を整える。
ここまででも相当な変身ぶり。スッキリ。

さらに、彼女の顔をコットンと化粧水で拭き上げる。またたく間にコットンは真っ黒。お肌をきれいにしたところで、上品にメイクアップを施す。

失礼を承知で言わせていただくと、さっきまで、こぎたなく目つきの悪いBagladyが、普通の女性に生まれ変わった瞬間だ。

鏡を見せると、彼女は人が変わったように柔らかな表情で、何度も何度も鏡の向きを変えては、自分の顔を幸福そうに見ている。私も一緒に幸福度マックス。

さらに、理容師の彼は彼女に清潔な洋服と靴も用意していた。
シンプルな黒のニットとフレアスカート。ローヒールの黒のパンプス。
着替えると、彼女は全身鏡の前でくるりと回って自分を眺めた。

あー、良かったねー。こちらも自然に頬がゆるむ。

彼女はたくさんの感謝をしてお店を出て行った。

その後どうしただろう、と考える間もなく、短い動画が追加されていた。恐らくカットをしてからややしばらく経ってからの動画だと思われる。

彼女がお店に入ってくるシーンからだったが、黒っぽい服を着ていたので、さっき店を出てから戻って来たのかな、と一瞬思った。でもよくよく見ると微妙に違っている。
髪型が毛先の跳ねたキュートなヘアスタイルになっており、黒のシンプルなサマーセーターがレースの付いた高級な物に、足元も中ヒールの高そうな靴に変わっていた。
彼女はもうホームレスでないのは明らかだった。劇的な変身のさらに上をいくエンディングに心が熱くなった。

髪を切って変わるのはヘアスタイルだけでは無かった。彼女の人生をあのバーバーショップの男性が、良い方向へ導いたのだ。
人生は何がきっかけで変わるか分からないものだ。

同世代の女性として、今後の彼女にさらなるエールを送りたい。





コメント一覧

ポジ人
@donmac-life ドンマック様コメントありがとうございます。
結構、皆さんヘアカットをなさってるんですね。
奥様の腕前は、もうほぼプロ並みですね。おまけにモコ助ちゃんのカットもなさるとは、トリマーではないですか。奥様器用な方なんですね。素敵です。
donmac-life
おはようございます。
うちも子供が産まれてからずっと家族全員分、最近では孫やモコ助まで奥様がカットしてます。
未だに伸びたね〜からの、リビングに新聞を広げて真ん中に椅子を置いて座らされてされるがままにチョキられてます。
その幸せそうな動画見てみたいですね、検索してみます。
ポジ人
@duchsparadise だっくす天国様、コメントいつもありがとうございます。

何か、私達ちょっと似たところがある様ですね。コメント読んで笑っちゃいました。

鼻毛も顔そりも、自分の分は自分でカミソリあててまーす。節約節約の毎日です。
duchsparadise
できれば「ありがとうと言われる職業」につきたかったな。
この美容師とか看護師とか。

私も新婚時代は極貧だったので、夫と子供の髪の毛切ってました。子供は文句言わないけど、見ただけで分かる「ぎざぎざ頭」
夫は「あっちをこの位、こっちを整えて」と煩かったです。で、耳の所で髪の毛と共に耳を切って・・・めっちゃ怒られましたわ~~(;^_^A

今は、月一で理容院に行ってます。舅、夫、息子そして私が通ってます。鼻毛と髭が凄く伸びるようになっちゃったので、美容院より、おっさん用の理容院通ってます(とほほ
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