友人の不用品の中に、一応新品だが少しシワが寄ったエプロンがあった。有名な料理研究家の名前を冠したエプロンだったので、フリマアプリに掲載する時ちょっと高めに値段を設定したのだが、知名度の高さのおかげか5月7日の夜に売れた。

購入した方のコメントには、
「母の日のプレゼントにしたい」
とあった。
母の日は5月12日。エプロンを発送するのは、5月8日である。
フリマアプリのシステム上、匿名の発送なので、その方が何処に住んでいるかは、分からない。国内でも遠いところに住んでいたら、到着がいつになるか不安だ。
余談だが、この間、別件で発送した荷物が中々届かなかったことがあった。10日を過ぎてもアプリの表示は「発送済み」のままで、到着の表示が示されないままなのである。
不安になった私は、コメント欄に品物が届いたかどうか訪ねてみた。すると、「離島なので時間がかかっていると思う」という返事が来たのだ。離島かあー…なるほど。ヤマトさんも大変だ。
結局到着したのは発送してから13日目。無事に到着して心底ホッとした。
そんな事もあったものだから、母の日が過ぎてからの到着では気の毒だ。発送は早めにすることにした。とは言っても、いつも発送は午後にしているのだが、それを午前の発送にしただけだったけど…。
母の日…か。
プレゼントをされて、「手放しで喜ぶ人」と相手に気を使わせたと、「済まながる(済まなく思う)人」がいるが、母は後者の方だ。
母の日に花などを送ったりする事もあったが、その度に母は「そんな事しなくて良いのに…」と、喜ぶよりは、むしろ迷惑そうなそぶりなのだ。
それは、娘の私に散財させたくないなど、色々な思いがあるのはわかっているつもりだ。でも喜んでもらいたくて送るのに、喜んでもらえないのだから、送る気持ちも失せてしまう。
そんなわけで、昨年は母の日をスルーしてしまった。
けれども夏に猛暑が続き、暑さに弱く少食の母の事が心配になった。それで千疋屋のゼリーの詰め合わせを送ったのだった。
すると、珍しく母からゼリーを受け取ったと喜びの電話があった。どうやら、「千疋屋」というブランド名が功を奏したのと、季節がら暑さにあえぐ母にはタイムリーなお菓子だったらしい。「自分ひとりで全部食べる」と話す母の明るい声に、電話なのに笑顔が見える様だった。
その母に喜んでもらった昨年の記憶が、今年の母の日に何か送ろうという気持ちになった。
何を送ろうか。まだ気温もしのぎやすい。昨年と同じ物じゃ芸が無い。母の好物は梅干しや酸っぱいものだが…なかなか決まらなかった。あれこれ考えているうちに、思い出したことがあった。
それはもう何十年も前の事だったが、実家に行った折、母が私の顔を見るなり、
「いただき物でとても美味しいチョコレートのお菓子があって、あんたに食べさせようと思って取っておいたんだけど、あんまり美味しくて食べちゃったの」
と告白した。
言わなきゃわからないのに…。それ程までに美味しく、それ程までに私に食べさせたかったらしい。
珍しい事だった。もしかしたら、賞味期限が迫っていたのかもしれないが、元々我慢や忍耐に非常に強い母が、我慢できずに食べてしまったチョコレートのお菓子とは…。どんなお菓子だったのだろうかと気になった。
これまで様々なお菓子を食べて来た私だが、直感的に「母が我慢できずに食べてしまった」のは、このお菓子ではないかと思われるお菓子があった。
それが「柳月のボンヌ」。
息子も大好きなお菓子なのだが、手の平に乗るほどの小さな楕円形のチョコレート菓子だ。お値段も100円ちょっととお安いのだが、これが非常にクオリティーの高い“しろ物”なのである。

(柳月ホームページより)
味覚ほど人によって違うものは無いと思う。
ワイドショーでスーパーダイイチのおはぎが絶品で人気だと聞いて、早速買い求めて食べてみたのだが、私にとっては“リピ買い”しようと思うものではなかった。
かように人の味覚は様々であるから、私がいくら「柳月の絶品お菓子!」と叫んでも、すべての人が食べて同じく感じるかどうかは、分からない。十人十色である。
しかし、私にとっては柳月の安くて超絶うまい大傑作お菓子。それが「ボンヌ」だ。
予算的には千疋屋のゼリーの二分の一にも満たない。私が散財しない事が、母の願いでもある事だし…。安ければ受け取った母も気が楽だろう。
これを母の日のプレゼントにしよう。そして、母の感想を聞いてみたい。“あのお菓子”であったかどうか。
5月8日水曜日の午前10時半すぎ。外気温は6度と低く、風の強い日。
フリマで売れたエプロンをコンビニで発送した後、柳月を目指し出発した。
それは私のミッションであり、試練でもあった。
続く。